プロ責法改正による地殻変動についての覚書―Twitter社に対する開示請求/開示命令を念頭に―

※開示請求を行う立場からの検討になる。なお、令和4年9月29日時点における予想のため、実務の進行がどのようになるかは現状不明である。

 改正プロバイダ責任制限法が本年10月1日から施行される。
 条文の適用関係や、想定されている制度運用については、NBL No.1226「発信者情報開示命令事件に関する裁判手続の運用について」等が詳しいが、それらの論稿を読んでも解決しない疑問点を以下に示しておく。

①現在進行中の発信者情報開示請求訴訟について、10月1日からは当然に新法が適用されるか


2022年5月27日「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則案」 に対する意見募集結果
https://www.soumu.go.jp/main_content/000815551.pdf

 上記の総務省見解の中で、
「改正法及び本施行規則の施行後における本施行規則の適用関係は、改正後の法に従うこととなります。」
という一文が存在する。

 訴訟物の判断の基準時は口頭弁論終結時であることからすると、現在、ツイッター等のログイン時アイ・ピー・アドレスをもとに発信者情報開示請求訴訟が提起されている案件のうち、10月1日以降に弁論終結をむかえるものは、全て新法が適用されることになる。
令和2年の省令改正で「電話番号」が追加された際は、あくまで氏名・住所の開示とともに「電話番号」の開示を求められるか否かという点が問題となったため、その開示の可否が決定的に重要になることはあまり多くなかったのではないかと思われる(海外法人はともかく、国内法人については、氏名・住所の開示に成功すれば、電話番号が開示されなくても特定にたどりつけることが多いため)。

 しかし、今回の改正では、「ログイン時アイ・ピー・アドレス」(施行規則5条2号)のうち、「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」(施行規則5条柱書)が「侵害関連通信」(法5条3項)に該当するとされ、「当該侵害関連通信に係る発信者情報」(法5条2項)が開示対象となっているから、現在訴訟係属中のTwitter等の開示請求訴訟は、すべてこの法文の解釈のもと、開示の可否が決せられることになる(ログイン時アイ・ピー・アドレスであることのみを理由に請求を棄却すれば、法令違反となると思われる)。
そういう意味で、本件は令和2年の省令改正よりも影響を及ぼす範囲が非常に大きいのではないか。少なくとも、これから弁論終結する案件については、裁判官に新法による判断を求める必要がありそうである。

→1枚くらいで済ませられる準備書面を作り、現在係属中の訴訟について全部出すかを検討している。

②CPに対する開示命令は、現行の仮処分との併用が当然に認められるのか

 NBLの「発信者情報開示仮処分の申立てと開示命令申立てを同時に行うことは、同条(注:民訴法142条)に反するものではないが、申立ての利益ないしは保全の必要性が問題となろう。」(80頁)という記載は、素直に読めば、「開示命令で済むのだから保全の必要性が認められず却下することもある」、という趣旨であろう。

 しかし、ツイッター上の情報によれば(深澤先生)、コンテンツプロバイダが提供命令に従わない場合、いったん先行する事件が終了する運用になるようである。そうすると、そのまま開示命令によってコンテンツプロバイダからアイ・ピー・アドレスを取得することになるが、手続内で提供命令への異議申立が行われてしまうと、ログ保存期間内にアイ・ピー・アドレスの取得ができなくなるおそれがある。

そうすると、開示請求を行う代理人としては、仮処分を提起しないという選択をする余地がないように思われ(仮処分が提起できるのに、なぜしなかったのか、という問題が起きてしまうので)、これについて保全の必要性を認めないという運用は明らかに問題であると考えられる。

なお、今後、開示命令の運用が安定し、「●●というプロバイダは確実に提供命令に従う」という判断ができるようになるのであれば、保全の必要性を認めない、という判断はあり得るのかもしれない。

③申立段階における複数請求の可否

 現在の民事9部の運用では、複数のツイッターアカウントに対する発信者情報開示仮処分が問題なく認められている(双方審尋期日前であれば、対象アカウントを追加することもある程度柔軟に可能である)。

 一方で、開示命令について、「同一の事実上及び法律上の原因に基づくとき」(非訟事件手続法第43条3項)を厳格に解するのであれば、異なるアカウントに対する請求をまとめて行うことができなくなる可能性がある。

 ツイッターアカウントA、B、C、D、Eに対して開示命令申立を行うにあたって、委任状が5通必要になるというのは明らかに不便である(し、複数のアカウントに対して開示を求める例では、往々にして同一の証拠関係であることが多いと思われ、審理を共同で行うメリットが非常に大きい)ため、この点は柔軟な対応を期待したい。

④AP判明時の併合関係

 上記において、複数のアカウントはまとめて審理できるようにしてほしいといいつつ、まとめるとまた別の問題が起きる可能性がある。

 ツイッターから開示されるログイン時アイ・ピー・アドレスの情報には、複数のプロバイダが出てくることが通常である。たとえば、自宅のPC回線のほかにスマートフォンを契約しており、職場でもツイッターをやるという発信者の場合(職場でのツイが誠実労働義務違反となりうる点はひとまず置いておく)、3社のプロバイダが明らかになることも珍しくない。そのほか、フリーWifiやインターネットカフェ等を利用していればより多数のプロバイダが出現するであろう(近時はソーシャルログインの問題もあるが、ここでは触れない)。

 このとき、アカウントAについて経由プロバイダ3社、アカウントBについて経由プロバイダ2社、というように経由プロバイダが判明していったとき、これをすべて併合して審理するのは、どう考えても非効率であると思われる。経由プロバイダは、意見照会が必要的になったので(法6条1項)、プロバイダ数十社の意見照会が終わるまで手続がストップするという事態が生じるのは勘弁してほしい、というのが実感である。

 一体化した審理によって迅速化、という割に、実は手続の併合自体は必要的ではなく裁判所の判断によるものなので(非訟事件手続法35条1項)、このあたりは併合せずに審理する等の裁判所の判断が望まれる。



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