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フクロウとオオルリ


雨雲さん、張り切ってるなあ。
なんて思っているうちに、雷さまも仕事を始めたらしい。
今日はおとなしく、基地にこもっておこう。

まもなくして、雷さまが大きな稲妻をひとつ落とした。
と、同時に何かが私の基地へ飛び込んできて、腹に当たったかと思うと、足元に落ちた。
私の基地は、私が入るだけの大きさしかない。
だから、足元は見えない。
が、何かがもそもそと動いている。

どうしたもんかと考えていたら、声が聞こえた。
「ごめんなさいね。」
私の羽に埋もれているらしく、少し声がこもっている。
「別に構わんが、でてきてくれないか。」
「ちょ、ちょっと待って。」

そうして基地の入り口の近くに伸びている枝へ、メスのオオルリが飛び出てきた。

「やあ、やっと会えたなあ。」
「どうも、ごめんなさい、突然。」
「お気になさらず。」
「思ったより雨がひどくて、慌てちゃって。」
「雷さまも大仕事してるからな、驚いたろう。」
「雷はいいの。ロックでしょ。」
「…。」
「よく驚かれるわ。」
そう言うと、オオルリは怒号のような雷を伴奏にしてうたい始めた。

しばらくして、雷さまが遠ざかると、オオルリも歌を止めてしまった。
「メスがうたうの、珍しい?」
「少なくとも、私は会ったことはないな。君は、音楽が好きなんだね。」
「ええ、夏は音楽が活発な時期だし、私もうたいたい歌がたくさんあるの。」
「君は退屈することがなさそうだね。」
「退屈したことなんて、一度もないわ。」

私とそんな話をしながら、彼女はなんとなく踊っているように見える。
「しかも、君の歌はすごく個性的だね。」
「私は私の歌をうたうの。誰かが作った歌も楽しいけど、どんどん新しい歌をうたうの。」
「誰かの歌をうたうのと、自分の歌をうたうのはどう違う?」
「自分の歌は、私を表現する近道だと思うわ。」

「君は何を目指しているんだ?」
「いつかお空に行くとき、お星さまじゃなくて、お月さまになりたいのよ。」
「ふふ、君は欲張りだね。」
「そう、退屈している暇はないの。」

気づけば、雨雲さんも随分と遠ざかった。
「じゃあ、そろそろ行くわ。」
「どこに行くんだい?」
「新しい歌を探しに行くの。」
「それはいい。気を付けて。」
「ええ、ありがとう。」

そうして、オオルリは踊るように飛んで行った。

お月さんや、輝きたいのはオスだけじゃないらしい。


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