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俳句 ブギウギ 十二月


大の字の生活の飽き夏桜
煉瓦積ホールの唄や浜蓮華
蚊を叩く娘と二人コップ酒
夏の真夜寂しさ消えぬ寂しさよ
夏の夜の唄唄えたく新楽団

旗揚げも枯れ立つ柳押すが如
ホラ吹きの空也念佛進む昼
一人増えひま洩る風の夕ご膳
強情の冬木の櫻や楽譜なき
夕日射す冬の名残の聲限り

戦死通知菫色したコート落つ
繰り返し牡丹の火鉢抱き読み
弟見たか冴ゆ満州のこの月を
弟出でて悴む歌の出ぬ口よ
万歳や弟ゐぬ暮のさそい唄

弟の死も湖凍る万歳ぞ
父の行く蘆の枯葉も何も無き
歌いたく氷壁の前より人の前
弟みえて虹蔵れて見えず声も
ピアノより年浪流る流る涙

宝物雪後の天の巡り歌
満員の北窓塞ぐステージへ
幕を待ち三寒四温の父と龜
ゆっくりと冬の別れのブルースよ
スポットライト年の限りの熱き歌

大盛況年の別れのコンサート
宵屋台おでん一皿父と飲み
父の意思亀子半纏の旅立
これ父の綿入れ羽織おらん父
歌いたく湖凍る旅興行

待つ舞台汽車に揺られつ青田時
旅興行橘月の片田舎
五月来る余興の時の盛り上り
戦争や主食副菜さつまいも
五月闇金を失くして大騒ぎ

角帽や螻国の鳴く宿の縁
追ひかけてお花畑の福島へ
網棚のカンカン帽も揺れて行き
列車行く首夏の歌追ふ弱音器
ぼんぼんやよわき香水あるごとに

変わらない端午の節句の故郷
煙突や藤花にほふ銭湯の
再会や豆ころがしの如笑ふ
銭湯や菖蒲華さく良き噂
蓄音機白百日紅の邸宅へ

洋館風棕櫚の花待つ玄関は
磨き上ぐ薫風ぬけて板廊下
座られぬめまとひ居ぬか男部屋
落とす針葭戸突き抜け我の唄
やましくも年の差の恋初夏の宵
ぼんぼんの恋の告白虹の橋

見出し占む学徒出陣秋の雨
喉慣らす秋日返して煉瓦塀
年の差や一本芒繁華街(ひともとすすき)
弟よりも片割月の好き心
色恋や梢の錦散ると聞き

ばったんこ父の差配の手切れ金
入営や君帰らぬか秋夕日
神妙な気分のおでん時の押し
店仕舞秋ぞ隔たるコップ酒
秋霞母の手紙の堅き封

紅茶淹れ冬近し午后の語らい
君はきみ迎え凩国のため
覗き見や告白の秋の逆光
僕は僕籾てふ僕の告白ぞ
ファンファーレ黄ばむ二人を巻く世界

菫色襟の大きな古コート
案山子てふ照明も無きドサ周り
鈴虫や手紙書きたく旅の宿
不満顔ギャラのじゃがいも上る湯気
金づるや秋夕焼けの別れ劇

信濃路の隠し子隠し雁渡し
万年筆サイン滑らか竜田姫
時知らぬちんちろりんの恋うつつ
持ち逃げやチャボ鶏頭ぶつ叩き
恋狂ひ月の顔出でし時

母来る柚湯の柚を山盛りに
選べなき跡取りの道冬木道
見えなくも分別求むあなじかな
空襲や凍む夜の抱く馬鹿力
サイレンや小春日和のキスかわし

凍ゆ夜の結核悪化紅く咲き
氷嚢やじわじわ溶けぬ年の空
サイレンや冬の名残のプロポーズ
凸と凸冬一番の誓ひ愛
水仙花別れの相撲取れぬまま

春日和療養効果三鷹かな
蓄音機合わせ叩きの春あした
春淡し寝間着姿や天日干し
踊る影リズムゆるやか蒲団干す
風見鶏ピクリと動き春の朝

マネージャー桃の節句の顔合わせ
猫舌や鶯餅の蒸す湯気ぞ
春日和演奏会を待つ空き地
肩寄せて遠くの火事や他人事
東京へ残る寒さの線路音
暮遅し崩れ煉瓦の温みかな

東京や春の夜中の赤き空
降り立てば山麓の見え焼け野原
防空壕唄を聴かせて梅雨最中
蒸し暑し赤子の心捉え唄
夏夜明生きる力やきみの唄

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