【ラーン・ザ・トラディショナル・ニンジャ・カルチャー】#2

ゴンザロは庭石に腰掛け、鞘を払った新品のナタと、その製作者の顔を値踏みするように代わる代わる眺める。

「ドウデスカ!ドウデスカ!ボクの出来は!?」ナタの製作者、「手作業の暖かみ」とショドーされた長袖Tシャツを着て、オアズケを食った子犬めいた表情でゴンザロの対面の庭石に腰掛けていたエドガーが勢い込んで尋ねる。

エドガーが住み込みの弟子になったのが2ヶ月前。ゴンザロ自身は気乗りがしなかったが、周囲の村人、特に息子を救われたミチナガらの説得に押し切られた形だ。

エドガーは内弟子としてよく働いた。炊事、洗濯、掃除、薪割り、何を申し付けても嫌な顔一つせずに笑顔で取り組んだ。一度冗談で裏庭の池の水を抜いて掃除しろ、といったところ、その日の夜のうちに水を抜き、早朝にはバイオナマズとともに半ば凍りついていた。

エドガーはよく学んだ。鍛冶屋修行でゴンザロが指導した内容は全て完璧に記憶し、更に師である己が作った品からも常に貪欲に技術を習得しようとした。一度冗談で「鍛冶屋たるもの円周率を全て言えなくてはならない」といったところ、一晩かけて三千桁を記憶してきた。そのため答え合わせで今度はゴンザロが徹夜する羽目になった。

そしてエドガーの仕事の飲み込みは、早かった。僅か2ヶ月、僅か2ヶ月で、一人でナタを一本自作して来るに至ったのだ。ゴウランガ!なんたる驚異的鍛冶屋修行プロセスの習得速度か!

ゴンザロ自身、過去にこの段階に至るまで、何ヶ月、何年の修行を要しただろうか。確かにエドガーは熱心だ。だが、熱心さだけではこれだけの早さの習得は不可能だ。ニンジャ学習能力、ニンジャ洞察力、そしてニンジャ器用さ……。自分たちモータルが、一段ずつ上がってきた階段を、彼らニンジャは一飛びで飛び越えていく。種族の違い……。エドガーはあと何年で今の自分の位置に到達するのか…。ニューロンの底を目の前のエドガーへの理不尽な怒りがかすめるのを感じた。

だが、まだだ。それはまだ今日ではない。まだ彼の作には致命的な欠陥がある。

ゴンザロは背後に生えているバイオススキの茎の一つを手に取ると、エドガーのナタを叩きつけた。「イヤーッ!」

バイオススキの茎は堅い。ナタは茎の1/3程度にめり込んだまま。両断には至らず。

「……エドガー=サン、おめえのナタには鋭さが足りねえ」言い返そうとするエドガーを目で黙らせると、ゴンザロは諭すように続けた。

「ニンジャであるアンタならニンジャ筋力とやらだなんとかなるのかもしれねえが、俺も他の村人もみんなモータルなんだ。モータルの腕でも簡単にバイオススキを切れるような、そんな品を作らなきゃならねぇ」

「……その点、アンタのはまだまだだ。……それは仕方ねえ。アンタはまだ始めたて何だからな」「ハイ」「それより俺が気になるのは!」ゴンザロの声音が厳しさを帯びる。「アンタ、まだ自分の心に偽りがあるんじゃねえか?心に隠し事のあるやつは、ナマクラしか作れねえぜ!」

ゴンザロは無言でうなだれるエドガーを置いて室内に戻りかける。「エドガー=サン、自分に素直にやんな。でないと、この先腕を上げてからも、綺麗なナマクラばっかり作るハメになるぜ?……言いてえことがあるのなら、いつでも聞いてやる……」エドガーはいつまでもうつむき続けた。





0101010101「イヤーッ!」敵対マフィアニンジャが両手のスリケンサブマシンガンを一斉射撃!「イヤーッ!」カッティングウインドはジグザグ移動で火線を回避しつつ距離を詰める。

ビートを打つ心臓、カラテが全身を駆け巡り、ニューロンが研ぎ澄まされる。遥かに良い。

カッティングウインドは酒やZBRにうつつを抜かす仲間たちを内心見下していた。この口の中に広がるニンジャアドレナリンの味に比べれば、最高級スコッチも白湯に等しい。

カッティングウインドの高速機動に動揺した敵ニンジャのスリケン火線が乱れる。一瞬の隙を見逃さず、一気に距離を詰めて抜き打ちにカタナを切り上げる!「イヤーッ!」

「グワーッ!」右手首ケジメ!更に切り下ろし!「イヤーッ!」「グワーッ!」左手首ケジメ!更に横一文字!「イヤーッ!」「アバーッ!」首ケジメ!ゴウランガ!

カッティングウインドは片膝をついてザンシンした。背後に切り離された首が落下。「サヨナラ!」爆発四散!カッティングウインドはチブルイをして納刀した。心地良い鍔鳴り音に、薄暗い裏路地の空気さえも澄み渡るようだ。

「アイエエエエ!」背後で悲鳴!弾かれたように振り返るカッティングウインド!「アイエエ!人殺し!」小太りのオイランが買い物袋を取り落として叫ぶ。

「バ、バカナ!」配下のレッサーマフィアには周囲の人払いを厳重に行うよう指示を出しているはず!なぜ、ここに、なぜ……!カッティングウインドの視界がマンゲキョめいて回転した。

「な、何も見てません!タスケテ!タスケテ!」小太りオイランが大通りに向けて走り出す!目撃者は生かしておかない……!勝利の興奮は既に煙めいて消え失せ、手が緊張で汗ばむ。

常人の3倍近い脚力で追いつき、抜き打ちの一刀を放つ。「イヤーッ!」「ンアーッ!」オイランの背中が裂ける。浅い。致命傷には至らず。せめて次の一刀で楽に……「イヤーッ!」「ンアーッ!」オイランの後頭部が裂ける。浅い。致命傷には至らず。視界がマンゲキョめいて回転する。傷口がカッティングウインドに「因果応報」と嗤いかけた。01010101010101010101

「アイエエエエエ!アーイエエエエ!」エドガーは絶叫しながら飛び起き、枕元に置いていた護身仕込み杖を引き抜く。

「アイエ!アイエ!アーイエエエエ!」盲滅法に仕込みカタナを振るい、チャブを、ショウジ戸を、己自身を切り裂こうとし……、唐突にクールダウンした。何も切れてはいない。仕込み杖の中は空だ。NYのニンジャマフィア組織をヌケニンした後、己自身の手で叩き折ったのだ。

「オイ、エドガー=サン、どうした!何があった!」居室のショウジ戸をゴンザロが叩く。

「ナ、なんでもアリマセン!急にカラテしたくなっただけです!」明るい声を作りイイワケする。

「チッ、脅かしやがって…」ゴンザロの足音が悪態とともに遠ざかっていくのをニンジャ聴力で確認した後、「……Shit! Damn shit!」カッティングウインドは拳を自分の顔に繰り返し叩きつけた。

【ラーン・ザ・トラディショナル・ニンジャ・カルチャー】#2終わり #3に続く

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