【ウインズ・トゥー・ショート・ホリディ】#1


「バーバーバーバーバーバーバーバーバーバーババー♩」


特注目覚まし時計から旧世紀ヤクザ映画『ゴッド・ファーザー』のテーマが流れる数十秒前、男はすでに起きていた。敢えて目覚ましを止めなかったのは、音楽で寝起きの頭をキックし、コンセントレーションを高めるためだ。


「イヤーッ!」男は金糸ニンジャ装束を高い天井に向かって投げつけた。その後、顔を洗い、髭を剃り、髪を整え、枕元の冷蔵庫から栄養ドリンクを二本取り出して一息ずつで飲み干し、手帳で予定を確認し、それから落ちてきたニンジャ装束に袖を通した。かくしてソウカイ・シックスゲイツ、スカウト部門、ソニックブームの出勤準備が整った。


オジギ姿勢のクローンヤクザに出迎えられたソニックブームは尊大な足取りでヤクザリムジンに乗り込んだ。


「昨日は42時間働きました」

「だったらどうした。俺様は53時間だ」

「スシが効きます」

「オタッシャじゃねえか。今日はサンシタ共のアジトを回る。まずはパワーガーリック=サンのアジトに出せ」

「ヨロコンデー」

「……例のブツは忘れてねぇだろうな」

「ハイ」

クローンヤクザから「ブツ」を受け取ったソニックブームはソファに深々ともたれかかった。


「ドーモ、ソニックブーム=サン、パワーガーリックです」

「コーシュコー……ドーモ、ソニックブームです。結構なアジトじゃねえか!誰のお陰でこのアジトに住めると思ってるんだ、……コーシュコー、エエッ!?」

「ソニックブーム=サン、どうしたんですか、その格好は?もしや風邪ですか?でしたらこの特性バイオガーリック・スシをどうぞ!滋養強壮に効果があり、五感を鋭敏化させ、夜の方も3000倍に」「イヤーッ!」ソニックブームはバイオガーリック・スシを掴むと窓を開けて外に思いっきり投擲した。

「ああっ、なんてことを!」「スッゾオラー!」「アイエッ!?」特注ガスマスクメンポ越しにもかかわらず漂うパワーガーリックの強烈な口臭にソニックブームは苛立つ。


「ンアー!?スシナンデ!?…………アタシ今体温何度あるんだろー!?」

「アイエッ!?マユカ=サン!?アイエエエエ!アイエエエエ!ンアー!」


パワーガーリックのアジト内は無数の干しニンニクが凄まじい臭いを放っている。モータルならば一呼吸で狂死するほどだ。五感が不快なほどに鋭敏化される。窓の外の嬌声が数倍に聞こえ、ソニックブームのニューロンをさらにささくれさせる。


「オラ!ミッション・マキモノだ!ガキでもできる簡単なミッションだ!俺様がここでスシを食ってる間にさっさと片付けて来い!」

「アイエエエエ……」パワーガーリックが蒼惶と走り去って行くのを確認し、ソニックブームは舌打ちした。「「ンアー!!」」耳に入ってきた窓の外の耳障りなユリ前後嬌声に再度舌打ちし、ニューロンを鎮めるべくエーチャン・ヤザワの旧世紀ロックミュージックを携帯音楽プレイヤーで再生した。

GYUEEEEEN!!! GYAGYAGYAGYA!!!

過剰鋭敏化されたソニックブームのニンジャ聴覚にはそれは最早単なる騒音としてしか捉えられなかった。

ソニックブームは音量を下げつつ、三度目の舌打ちをした。


【ウインズ・トゥー・ショート・ホリディ】#1終わり。#2に続く






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