【ゼイ・イート・ビースト、ゼイ・イート・カラテ】#2

暗黒非合法探偵フジキド・ケンジに持ち込まれる行方不明者捜索依頼は、ここ数週間で数十件にも上っていた。行方不明者の身元は、レッサーヤクザ、サイバーゴス、ショーユ職人、大学生、カチグミ・サラリマンなど多岐に渡るが、その全てがこのタマチャン・ディスティンクト及びその隣接地域で発生している。

聞き込み調査を行うべく、タマチャン・ディスティンクトに足を踏み入れたフジキドの、まさにその目の前で犯行は行われたのだ。

フジキドの少し前を歩いていた、サラリマンらしき身長150cmほどの小男が、薄暗い路地に立っていたストリートオイランの肩に手を置いたのだ。

オイランが厭わしげに抗議しようとしたその時!男の掌から黒い煙が立ち上り、あっという間にオイランの身体を包み込んだ!コワイ!

霧は暫し人型に滞留した後、男の掌に吸い込まれた。オイランの姿は何処にも居なかった。紛う事なく、ニンジャの仕業だ!

「彼女をどこへやった?まだ生きているのか?」「アイエッ!?彼女ってなんですか!?」

ニンジャスレイヤーは問い返しを無視し、地獄そのものの声音で宣告した。「答えれば楽に殺す!答えねば拷問した後に殺す!ニンジャ殺すべし!ドーモ、はじめまして。ニンジャスレイヤーです……アイサツせよ!」

「ド、ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、ブラックビーストです!」小男は震えながらアイサツを返した。アイサツは神聖不可侵、アイサツをされれば返さねばならぬ。

(((ア、アイエ!?ニンジャナンデ!?ブラックビーストナンデ!?まるでニンジャの名前……)))

「イヤーッ!」アイサツ終了0.3秒後!ニンジャスレイヤーの腕がムチめいてしなり、スリケンが四枚同時に投擲された!四というか数字は「死」に繋がる。冷徹な殺しのメタファーだ!

「ア、アイエエ!」小男はブザマに悲鳴をあげつつ、両手で顔を覆った。同時に、その身体が真鍮色に輝く!カンカンカンカン!スリケンは全弾弾かれる!無傷!ALAS!平安時代より伝わる神秘のジツ、ムテキ・アチチュードに相違無し!

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」しかし、ニンジャスレイヤーに驚きの色は無い。スリケンを連続投擲しつつ、決断的に敵との間合いを詰める!

(((フジキド……!)))ニューロンの同居者、ナラク・ニンジャの邪悪な呟きがコダマする。(((分かっている!ナラク!)))

ニンジャスレイヤーのニューロン内には、かつて倒したアイアンヴァイスというニンジャとのイクサの記憶がフラッシュバックしていた。

アイアンヴァイスはムテキ・アチチュードに加え、異常な握力を併せ持つ油断ならぬ強敵であったが、至近距離からの無慈悲なチョップ乱打に耐えきれず爆発四散したのだ。

いわんや、このブラックビーストというニンジャのカラテ段位はアイアンヴァイスの遥か下!弱敵!反撃の隙を与えず殺すべし!

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ついにワンインチ距離に達したニンジャスレイヤーが首筋にチョップ乱打を見舞う!一打!二打!三打!四打!八打!十六打!三十二打!ゴウランガ!最早肉眼では数えられぬ!

「ア、アイエエ!ヤメロー!ヤメロー!痛い!痛いいい!」

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはやめぬ!六十四打!百二十八打!(((フジキド……!フジキド……!)))

「痛い!痛いいい!頭が!頭があああああ!」

「イヤーッ!……ヌウッ!?」ニンジャスレイヤーのチョップ乱打は唐突に止められた。ブラックビーストが突如ムテキを解き、チョップを掴み止めたのだ。それはニンジャスレイヤーが反応できぬほど早く、簡単には振りほどけぬほど強い掴みであった。

ブラックビーストは、最早真鍮色では無い。一瞬で3m近くの巨体にパンプアップされた肉体は漆黒の毛皮で覆われ、頭部にはヘラジカめいた角らしきものも生えた!(((フジキド!心せよ!此奴、ソウルが見えぬ!)))内なるナラクが鋭い警句をニューロンに残す!

「AGHHHHHH!」黒い巨獣はマンリキめいた握力で腕を握りつぶしにかかる!「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは腕にカラテを込め、辛うじて抗う!

「AGHHHHHH!」黒い巨獣は逆の腕を振り上げ、ニンジャスレイヤーの頭めがけ振り下ろした!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは半身姿勢をとり、これを回避!KRAAAAASH!アスファルトが砕ける!

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは掴まれた腕を起点に、鉄棒の逆上がりめいて身体を引き上げ、そして「イヤーッ!」身体を巨獣の腕に巻きつけるようにして回転すると、遠心力の乗った強烈なケリ・キックを巨獣の側頭部に叩きつけた!「AGHHHHHH!」怯んだ巨獣は思わず握った腕を離した。ニンジャスレイヤーはケリの反動で後方にムーンサルト跳躍、そのまま三連続バック転で間合いを取る。

「AGHHHHHH!AGHHHHHH!AGHHHHH!」

巨獣のニンジャは痛みと怒りのあまり、唸り声をあげつつ暫し無意味にアスファルトを殴り続けたが、「AGHHHHHH……?」何かに怯えたようにあたりをキョロキョロと見回すと、10数メートル上方のビル屋上に飛び上がり、見えなくなった。

「コシャク……!」ニンジャスレイヤーもパルクール機動でその後を追った。

【ゼイ・イート・ビースト、ゼイ・イート・カラテ】#2終わり #3に続く








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