乳幼児の衣服の役割について真面目な考察

こちらは、日本女子大学の通信課程で学んでいた頃のレポート。

乳幼児にとっての衣服の役割について真面目に語っています。

乳幼児の衣服には物理的、社会的、美的、そして教育的な役割がある。
この、教育的であるところについて、私は結構気に入っている。

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課題:ライフサイクルから見た衣服設計について、テキストで説明されている内容から興味を持った時期を一つとりあげ、テキスト以外の文献を参考にしながら説明しなさい。

<はじめに>
人は生まれてから死ぬまで衣服を着て生活をするが、衣服に期待される役割はライフステージに応じて移り変わる。生後すぐから1歳くらいまでを乳児、そして1歳から6歳くらいまでの子どもを幼児とし、それらを乳幼児と総称するが、この時期の子どもは人生のなかでも特に成長や発達などの変化が著しい。本リポートでは、乳幼児の衣服が果たすべき特有の役割について考察し、衣服設計に重要な観点をまとめる。

<乳幼児の衣服構成>
乳幼児の衣服は、主にオムツ、肌着、肌着のうえの衣服の3つで構成される。オムツには布や紙など素材によって分類される。肌着や衣服は形によって区分される。これらのほかにも、さらに寒さや熱射、紫外線や虫などから子どもを保護するために、おくるみや帽子、靴下やレッグウォーマー、ミトンやベストなども使用する。汚れを防ぐためにスモックやエプロンなどもある。また、幼児が歩き始めるようになると靴を履くようになる。

<衣服の役割>
 『衣生活学』において米今は、衣服の役割を「物理的」「社会的」「美的」の3つに大きく括っている(2016, p.5)。物理的な役割は、身体保護や機能補助などのことで、着衣者の身体的特徴や環境によって決まる。社会的な役割は、着衣者の属するコミュニティによって定義づけられる衣服の着方である。最後の美的な役割は着衣者個人の趣味や志向によるが、これもまた社会文化的影響を完全には排除できない。
 乳幼児期はまだ自身を客観視する他者の目線が形成されていないため、乳幼児の衣服の社会的役割はほぼ保護者や保護者が属するコミュニティの通念が投影されているものだといえる。美的役割についても同じことがいえるが、多少の好みは乳児でも示すことがあるし、幼児にもなると趣向をはっきりと表す子どもも珍しくない。しかし保護者が与える以上の選択肢は子どもにないので、ここでもやはり保護者の美的感覚や好みが反映されることになる。そういう意味で乳幼児の衣服選択の自由は限定的であり、保護者の意思により衣服が決められていることがこの時期の特徴である。
 ただ、乳幼児には特有の身体的特徴や機能がある。また、大人と同じ環境下では感受性や身体反応が違う。乳幼児の衣服の物理的役割においては、さらにこの時期の行動的・心理的特性も特徴的である。

<乳幼児期の衣服の物理的役割>
まず生まれたての乳児は、頭が大きく胴は短く太く、首や手足も短い。成長にしたがって首や手足は伸び、頭と胴の大きさのバランスは徐々に大人のように近づいていくが、この身体的特徴と成長の過程こそ乳幼児期に特有なものである。
 また乳幼児期は身体の成長だけでなく、寝たきりの状態から走り回れるようになるまで、運動機能の発達も目覚しい。時期によっては寝ているだけ、もしくはハイハイまたは二足歩行など、メインの動きが異なる。乳幼児の衣服はその時期のメインの動きを妨げず、かつ発達を促せるようなものが望ましい。
 次に、乳幼児は大人よりも体重あたりの体表面積が大きく放熱しやすい。同時に基礎代謝も高く活発なので発汗も多い。そのため、同じ環境下でも大人よりも寒がったり暑がったりすることがある。衣服ではないが、抱っこ紐の素材やつくり、ベビーカーの座面やカバーの素材などによっても体感温度が変わるため、着衣時の快適性を考慮するときはこうした環境要因も見逃せない。
 さらに、乳幼児を危険から守り、安全であることも衣服の重要な役割である。子どもは大人に比べて怪我をしやすい。なぜなら、大人に比べて危険の経験や認識に乏しいのにもかかわらず、冒険したい願望を抱えているからである。また、その行動は発達段階によって異なるため、潜む危険もその時期によって異なる(2013, p.70)。
 このように、乳幼児期の衣服の役割を考えるときは、乳幼児の成長発達と安全を損なわないことが求められる。とりわけ乳幼児は自らの危険や不快を認識したり表現したりすることが困難なので、代わりに衣服を設計・選択する大人として特に注意を払う必要がある。

<衣服の教育的役割>
 乳幼児期の衣服の特徴として上記3つの役割のほかに挙げるのは、教育的な役割である。発達の途中で、子どもが自ら服を着脱したいと思うようになるタイミングが訪れる。あるいは脱いだ服を洗ったり片付けたりしたくなるかもしれない。そのときが来たときに、子どもの気が済むまで練習できるような衣服であることが望ましい。なぜなら自分でできることが増えていくことは子どもの欲求を満たし、さらなる発達への好循環を生むからである。つまり、乳幼児の衣服は子どもの自立を促す可能性を秘めているのである。
 また乳幼児の衣服は、保護者の工夫次第で教材にもなりうる。たとえば季節の移り変わりや、ものを大切に扱う心得、お手伝いの達成感や美的感覚などを、毎日の衣服の取り扱いを通して身につけていける。

<乳幼児期の衣服に適した素材と設計>
 これまで、乳幼児の衣服には物理的、社会的、美的、そして教育的な役割があることを述べてきた。なかでも物理的な役割の比重が大きいのは、乳幼児の身体的特性のためである。
これらの観点から乳幼児の衣服に相応しい素材の特徴を挙げていく。まず汗をかきやすいので吸湿性、吸水性、通気性のよい素材。また皮膚が繊細なのでガーゼや綿メリヤスなどのようにやわらかいことも求められる。さらに排泄物や食べこぼしで汚れやすいので、清潔に保てるよう耐洗濯性や染色堅牢度に優れ、汚れが見つけやすいとなおよい。また、子どもの動きを妨げないように、素材は重くなく伸縮性もあることが大事である。こうしたポイントは、乳幼児の衣服の物理的な役割である身体保護や機能補助、また保護者の補助に有効である。
 次に、乳幼児期に適した設計とデザインについて述べる。乳児が寝たきりの間は、ゆとりをもって身体を全体的に覆う、前開きのベビードレスが一般的である。首がすわれば被せて着る服もよい。動きが活発になりハイハイをし始めるとカバーオールやロンパースとズボンの組み合わせのように、足に添って着崩れしにくい設計がよい。上下に分かれた服を着るときは、ズボンがお腹を締め付けすぎないような配慮も必要である。0-2歳までは保護者が着脱させやすく、おむつを替えやすいことが望ましい。それ以降は、子ども自身で着脱を行えるように前開きや被りものであるとよい。成長著しい時期だが、子どもの丈に合わせた衣服であるほうが動きを妨げず、危険も少ない。平成27年12月に制定されたJIS規格では子ども服の安全を考慮し、特に服のひもに関する設計ポイントを細かく定めている。
 乳幼児の衣服が子ども自身にとって着脱しやすい設計であることは教育的観点もからも望ましい。たとえば始めはマジックテープ、そしてスナップやファスナーを経て最後はボタンのように、段階的により高度な技法に挑戦させる。また、手が届きやすい腰の周りにポケットがあると、ティッシュやハンカチなどを持ち歩く習慣を自然につけられる。

<おわりに>
 有名人が子どもに着せた洋服のブランドやデザインはすぐに広まる。スタジオ写真では豪華な貸衣装が並ぶ。近年、乳幼児向けの衣服仕様は多岐にわたり、通販やメディアの普及も相まって、欲しいものは金が許す限り手に入る。子どもにかわいい服を着させることは、いわば保護者のステータスでもある。
 しかし子どもは自らの不快感や危険について正確に認識したり、対処したりすることは難しい。そのため、子どもの着衣にかかわりを持つ大人が、乳幼児期の特性を踏まえながら、子どもによりそって衣服を設計し着せる必要がある。このことが子どもの健全な成長発達を助けると考える。

文献リスト
JIS L 4129: 2015. 子ども用衣料の安全性-子ども用衣料に附属するひもの要求事項.
クライ・ムキ. 自立を助ける子ども服. 文化出版, 1999, p.18-22, 38-43.
産業技術総合研究所デジタルヒューマン工学研究センターほか監修. “子どもの行動特性と能力: 子どもの特性を知る”. 子どものからだ図鑑. ワークスコーポレーション, 2013, p.70.
松島みち子. “5.3 ライフサイクルからみた衣服設計: a. 乳幼児の衣服設計”. 衣生活学. 佐々井啓, 大塚美智子編著. 朝倉書店, 2016, p103-108, (生活科学テキストシリーズ).
米今由希子. “1.2 衣服の起源と役割”. 衣生活学. 佐々井啓, 大塚美智子編著. 朝倉書店, 2016, p3-11, (生活科学テキストシリーズ).
以上

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