見出し画像

『教育の力』

『教育の力』 苫野一徳 2014年 講談社現代新書

 教育というのは、方法論が先行して語られがちではないでしょうか。「どうやって子どもの学力を伸ばすのか?」「どうやったら授業力が向上するのか」「どうやったら・・・」。
 これらはもちろん重要な話ではありますが、「そもそも教育は何のためにあるのか?」「どのような教育がよいといえるのか」という根源的な問いに向き合うことも重要かと思います。指針や目的なくして教育実践は本来成立し得ないはずだからです。

 でも、実はこのような問いに答えることはすごく難しいことです。「正しいことはありえない」とする相対主義の論理に絡めとられたり、教育社会学や教育心理学などの実証科学では、そもそも価値判断と事実を区別し、事実を追求することが求められたりするからです。
 また、教育の専門家でない人でもこのテーマで議論することがありますが、自分の受けてきた教育の経験則をもとに主張しあうだけで、議論が噛み合わない沼に陥ることもよくあるのではないでしょうか?

 本書では、このような難題に対して、現象学からアプローチし、緻密にロジックを積み上げ、教育の目的を提示しています。

「すべての子どもたちに、<自由の相互承認>の感度を育むことを土台に、<自由>になるための<教養=力能>を育むこと」(P.42)

『教育の力』(苫野,  2014)

 フッサールやヘーゲルといった哲学者の原著はあまりに難解で私のような一般人にとっては到底太刀打ちできるものではないですが、素人にも理解できる地平にまで噛み砕いて哲学の原理を記述してくれています。
 下記の著作と並行読書するとより理解が深まると思います。


 また、下記の関連図書は、中高生にも読めるレベルで記述されています。この本は、教育を語る際の作法を学ぶ上でも非常に参考になります。


 話が『教育の力』に戻りますが、本書は、目的を提示した上で、そのために必要となる教育政策のあり方や、学びの個別化・協同的な学び・プロジェクト型の学びを融合した教育方法の必要性、学校空間のあり方、教師の資質などについても論じています。

 近年、苫野先生のこれまでの仕事を体系化された著作も出版されていますので、こちらもおすすめです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?