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働くとはどういうことか?

生きてくためには、お金が必要である。
そしてお金を稼ぐためには働かなければならない。
しかし、お金を稼ぐ以外のモチベーションで働いている人も当然いるだろう。
・自己実現のため
・社会貢献のため
・単純に仕事が好き
・スキルアップのため
また、お金を稼ぐことのモチベーションについても、
・家族を養うために稼ぐ必要がある
・ただひたすらたくさん稼ぎたい
・自分個人が生活できる程度でよい
といったように個々人で異なる。

また、働く直接の目的ではないが、なぜその仕事をし続けているのか、という理由も様々にありえるだろう。

例えば、好きではない仕事でも、経験年数を重ねればスキルも身につき、それなりに周りから評価されたり、頼りにされたりもするだろう。それで承認欲求が満たされ、働くモチベーションになるかもしれない。

また仕事それ自体が好きというより、職場が好き、つまり同僚や上司、部下がいい人ばかりで居心地がいいから、ということもあるだろう。

そしてこれらの働く目的や理由は、1人の人間に1つということではなく、複数あることもありうる。例えば、自己実現と社会貢献の両方の目的を達成できるから働いている、など。

これは何を示唆しているかというと、働く目的や働く理由というのは、多種多様でありかつ多層的になっている、ということである。
だからこそ「働くこと」をシンプルに表すのは難しい。
一つ言えることは、われわれが価値があると目しているものは、働く目的や理由など、働くことによって得られるものや副次的に生じてくることであり、働くことそれ自体ではないということである。
「働くこと」は行為の一種であり、行為は価値のある結果を導くために行うことである。
だから「働く」にあたっては、それによって、どのような価値あることが生じるか、あるいは価値を阻害するようなことが生じるのかを考慮する必要がある。

そしてもう一つ働くことを複雑化していることがある。それは、もしあなたが、どこかの組織に所属してその職員として働いているのであれば、その組織が目指す価値も考慮しないといけないという点である。
例えば、あなたの所属する会社が今年の売り上げを前年比20%増目標として設定したとしよう。そしてそれを達成するためには、今より長時間働く必要があるとする。しかし、プライベートに多く時間を割けることが、あなたがこの会社で働き続けている理由の一つだとしたら、それが会社の目標により阻害されたことになる。
もし会社の目標のため、長時間の労働を受け入れるということであれば、それはあなたの目指す価値あるものについて譲歩したということになる。

上記は会社と社員の関係であったが、実際はさらに複雑で、同僚、上司、部下にもそれぞれ達成したい目的や目標があるだろうし、個人単位でなく会社の中の各部署、社外のクライアントなど、組織単位でもそれぞれがそれぞれに達成したい目的や目標を持っていることだろう。しかもこれが大なり小なり相反することは日常茶飯事である。
問題はその妥協点をどこに持っていくかである。
もしあなたが、長時間労働を避けたいのであれば、何とかして労働時間を増やさず20%の売り上げ増を達成する方法を編み出すか、そもそも20%も増加させる必要はないと会社に納得させるか、その仕事自体をやめてしまう、という対処方法が考えられるだろう。
このように組織内部でも、それぞれにそれぞれの達成したい事があるため、組織とその構成員の目標を一致させることであったり、妥協点を見出すことが重要になってくる。

これまでのことを踏まえると、
「仕事とはそれに携わる人が、各々の目的達成の媒介をするものである。」
「そしてそれを媒介するためには、それぞれの目的を相互にアジャストしたりすり合わせたりすることが重要になる。」
ということが言えるだろう。

そこで例えば、自分と自分以外の同僚、上司、部下を自分が理想とする目的にアジャスト、調整するアプローチ法として次の類型が考えられるだろう。

①理論型
なぜこの目標Aを達成することが、会社や社会、構成員個人にとって価値あることなのかを理論的に説き、皆の目指す目標をAにまとめ上げようとする。

②共感型
目標Aに対する自分の熱意や思いなどを語り、一緒にその目標を目指したいと相手に感情移入させることにより、皆の目指す目標をAにまとめ上げる。

③支配型
部下や後輩に対し、高圧的に目標Aを達成することを強いて、目標Aそれ自体の達成というより、この支配型の上司に怒られないようにとか、機嫌をとるためという理由で皆を目標Aの達成に向かわせる。

④規則・慣習型
例えば規則により上司に指揮権限が与えられているということを部下に認識させた上で、その権限をもって目標Aを目指すよう部下に仕向ける。他にも年上の方が偉いという慣習を後輩に認識させ、目標Aを目指すように仕向ける。

⑤譲歩型
他の人達が目標をAとすることに後ろ向きな場合、Aを達成することを一旦置き、相手が目指している目標の達成に切り替える。すなわちこちらが相手の目標に合わせることで、自分が理想とするAではないが、共に同じ目標を目指す方向に持っていく。

この5類型は現実には単独で実行されるのではなく、様々織り交ぜて実行されるだろう。目標を一つにまとめ上げなければならない上司側の特性や逆にそれに従う部下の特性によっても塩梅は変わるだろう(例えば合理的なタイプの上司は①理論型を得意とするだろうし、体育会系の部下には④規則・慣習型で上の者の言うことは従うべきという慣習を用いてアプローチするのが有効かもしれない。)。③支配型もそれ単独では、あまり良くないアプローチだが、多少なりとも「ミスをすると怒られるかもしれない」という緊張感を持たせることは仕事のミスを低減させる上で有効になるだろう。

さて、今後単純な作業はすべてAIなどの先端技術が取って代わるかもしれない。しかし、それぞれの目的をすり合わせ一つのものにまとめ上げるのは、AIでは難しいだろう。
というのも目的をすり合わせた先の妥協点をAIに決めてもらうとすると、おそらくそのAIを導入した管理者すなわち労使における使用者側の利益を最大にすることを最適な妥協点とする(もちろん法令に違反しない等最低限のライン設定はされるだろうが)ことなるだろう。そうすると、結局目標達成について譲歩しなければならないのは常に労働者側になる。
それぞれが違う目的や目標を持っている状態では、誰を基準点にするかによって理想的な結論は異なってくるから、もし全員が納得するような結論を導くのであれば、誰の立場にも拠らない中立的な立場で判断しなければならない。そのためAIを関係者の誰かが設置、設定しなければならない以上、完全にニュートラルな立場でジャッジさせるということが可能であるのか、ということが難問となる。
そして、少なくともAIでは上記類型の①のアプローチ法しか使えないだろう。感情に訴えたり、相手の意見に寄り添って柔軟に対応するということがAIの能力として難しいのではないだろうか。
そのため結局のところ、目的のすり合わせという点では、AIは①論理型アプローチを強化するための補助的なツールにしかなり得ないのではないかと思う。
AIは、どの選択がどのような結果をもたらすかを高精度に予測することは出来ても、その予測される結果のうち、どれがわれわれにとってもっとも達成すべき結果であるかは判定ができない。それはわれわれ自身でしか決定することが出来ないのである。

ここまで見てきたように、労働者個人にもそれぞれ働く目的や働く理由が複数存在し、そしてその個々人が無数にいる。さらには個人単位だけでなく組織単位でもそれぞれ目的を持っている。そしてそれぞれの目的や目標をすり合わせていく方法も様々な種類がある。
つまり「働くということ」は、「非常に複雑な構造をもって、それぞれの目的を統合したり折衝したりすること」なのである。








さて、もしあなたの職場になぜそのうような言動をするか全く理解できない人がいるのであれば、その目的及びそれを達成するために何をしようとしているのかを考えるといい。

例えば、高圧的で威張り腐っている上司がいたとする。
なぜそのようなことをするのか、考えられるのは4つである。
1つ目。自分の権威を示すことで承認欲求を満たそうとしている。(つまり個人的な欲求の充足のためである。)
2つ目。組織の業績のため、特に③支配型のアプローチで部下を従わせようとしているから。(しかしあなたが、その上司の態度によって逆に忠実に従おうという気を失くしているのであれば、その試みは失敗している。単に部下を従わせるのが不器用な人なのだ。)
3つ目。上司は高圧的で威張るものだという固定観念に囚われ、そこから抜け出せなくなっている。
4つ目。感情や機嫌に起因している。特定の目的を達成するためだとすると、自分や組織にとって何がベストかを考えた上で目標を設定し、それに応じてアプローチ方法を考える。つまり割と理性的な思考が無いといけない。そうでなく、単に機嫌が悪いか短気な性格で感情的に高圧的になっているだけ。

多くの人が働くの理由の一つとして、社会の役に立ちたいという動機を持っているだろう。そう考えると、最も身近な社会は自身の職場のはずである。
だから、社会の役に立ちたいと考えるのであれば、組織の不利益につながるということが無い限り、職場の人たちが心地よく働けるように振舞うのがいいだろうと個人的には考えている。そうでなければ、社会の役に立ちたいという動機は本末転倒になってしまう。


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