美味しい映画ベスト3 -2023-

映画の中のご飯を食べるシーンが好きだ。そこには、何が起こるわけではない日常を観る心地よさがある。そして、その中に人の欲が存在している。自分は欲を描いたシーンを観るのが好きだし書くのも好きだ。欲を出す人間は時に愛らしく映るから。だからご飯を食べるシーンは特に観入ってしまうし、丁寧に書く。

そこで、今回は2023年に観た映画の中で特にご飯のシーンが良かった映画を3つ紹介する。

3位 「土を喰らう十二カ月」

公開は2022年の11月ながら今年初めに鑑賞。
言わずもがなの美味しい映画。長野の山奥で自給自足の生活をする作家(沢田研二)と、そこに訪れる編集者で恋人(松たか子)の2人の暮らしを食というコミュニケーションを通して描いている。出てくる四季折々の料理が全て美味しそうで、観ているだけでお腹が空いてくる。特に出来上がった料理を全て並べる前に、筍の煮物を素手でつまみ食いする松たか子のシーンは最高で、欲と笑顔に溢れた愛らしいシーンになっている。

2位 「エンドロールのつづき」

日本での公開翌週くらいに鑑賞。
インドの村でチャイを売って生活する少年が映画と出会い、映画に魅了されテイク物語。ニュー・シネマ・パラダイスをオマージュしたようなこの作品も実は立派な美味しい映画。主人公の少年は毎朝母親にお弁当を作ってもらい、学校に行くフリをして映画館へ忍び込む。毎朝母親が持たせてくれるチャパティとカレーみたいな料理がとにかく美味しそうに描かれている。しかも、このお弁当はのちに映写技師とのある約束にも大きく関与し、映画の中でも2度美味しい。結論を言うと、そのお弁当を分けてあげる代わりに主人公は映画をこっそり観せてもらうのだが、映写技師役の役者さんが本当に美味しそうに食べる。調べてみたら、インドでは有名なコメディアンらしく映画出演は初とのこと。一瞬でファンになった。ただこの映画はご飯を全面に押し出した映画なわけではないため、後半へと転換するにつれてご飯のシーンも減っていくのが残念。もちろん映画自体も面白くて可愛い映画だけど。海外の映画を観るのが苦手な自分のお腹をここまで減らせたのはこの映画だけ。少年たちの可愛さと美味しいご飯を見たい人はぜひ見てもらいたい。

1位 「川っぺりムコリッタ」

これも公開自体は2022年だが今年の2月に早稲田松竹にて鑑賞。
築50年のアパートに越してきた主人公(松山ケンイチ)が隣人(ムロツヨシ)やアパートの管理人(満島ひかり)住人などと過ごした生活を描いた群像劇。今までの映画はご飯のシーンの画が美味しい映画だったのに対し、この映画はセリフまで美味しい。何を言ってるんだと思うかもしれないが、観ればわかる。ある親子が食事の一コマを想像しながら喋っているシーンがあるのだがそこが本当に最高で何度も見てしまう。もちろん画が美味しいシーンもたくさんある。松山ケンイチが自宅で食事するシーンがたくさん登場するのだがそのジーンが全部いい。ご飯が炊けるのを炊飯器の前でしゃもじを握りしめながら待つシーンなんて何十回観てもニヤニヤしちゃう。その後炊飯器を開けたと思ったら、勢いよく顔を近づけ、長けたお米の匂いを息一杯に吸い込む。観てる自分はここでまたニヤニヤする。何が凄いってまだ食べてないのにこんなに美味しいシーンがあること。いざ食事シーンとなるとさらに美味しさが増す。塩辛を直箸でご飯に乗っけて食べる松山ケンイチ。「衛生的に箸分けるのが大人ってもんじゃないですか?」とか野暮なこと言うプロデューサーがいなくて本当に良かった。特別美味しそうに食べるわけではい松山ケンイチが更にこの映画を美味しい映画へと昇華させる。物語は進み、隣人であるムロツヨシとの食事シーンが何度も登場する。ある時、ご飯をよそうムロツヨシに「明日おにぎりにして仕事持ってくんで」と松山ケンイチが忠告する。それに対してムロツヨシは「はーい。おかわりしません。一杯だけ」と答える。セリフが美味しすぎる。この会話が色々な点で物語を動かしているのはもちろんのこと何より美味しすぎる。特に松山ケンイチのセリフから滲み出る人間の欲がたまらない。そしてこの映画のさらに美味しいところは、この先にまだ一番美味しいシーンがあること。映画中盤、最初に出てきた親子が家ですき焼きを楽しんでいるところに松山ケンイチ、ムロツヨシ、満島ひかりとその娘が一堂に集まるシーンがある。みんなで一つの鍋を囲ってすき焼きを囲むシーンなんて美味しいに決まってる。各々の欲が箸となって卵をとき、鍋を突く。この映画がU-NEXTで配信されてから、何度もこのシーンを観ながら食事をしている。あまりにもその回数が多くて、U-NEXTの月額を食費として換算するかどうか悩み出してるくらい。本当に最高の映画なんです。


総じて人間の欲は人のダサさを生み出し、それが味となりその人の魅力になると思っている。自分は人のそんな部分を見るのが大好きだから、映画の中でも日常の中でもそんなシーンを積極的に見つけていく。それが結局食欲に集中するので、2024年も美味しい映画を求めて映画を見ようと思う。

皆さんの美味しい映画があれば教えてください。

今年も1年ありがとうございました。
色々な刺激を受けそれを昇華しようともがいた1年でした。変に1年で区切りをつけることなく地続きの来年を楽しみます。来年もよろしくお願いします。

良いお年を〜


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