クラブツーリズムが「かもめ」の座席を大量に抑えた件について思うこと

 

 2022年8月23日、クラブツーリズム(以下クラツー)が在来線下りかもめ最終列車、新幹線上りかもめ一番列車、在来線上りリレーかもめ一番列車の3列車の座席を大量に抑えて旅行商品を発売し、ちょっと炎上した。旅行商品の告知ツイートと商品の内容は、下のリンクから確認してほしい。クラツーのツイートの引用RT欄を見れば、この列車に乗りたかった鉄オタたちの怒りの声が聞こえてくるだろう。

 この旅行商品の問題点は3つある。それは、
①メリットが薄い
②10時打ちが徒労に終わる
③転売ヤーのような行い
である。特に問題なのは③だと思われるので、急いでいる人は③だけ読んでけばおk。

①メリットが薄い

 メリットが薄いという意味には、「得をする人が少ない」ことと「そもそも商品に魅力がない」ことの2つがある。ここでは2つを分けて見ていく。

1.得をする人が少ない

 今回のクラツーの旅行商品で得するのは誰だろうか?商品を販売しているクラツーは当然得するが、利用者側で得をするのは少数の「クラツー会員で10時打ちができなかった人」に限られるし、鉄道会社側は得をしているのか微妙である。

 まず、利用者側を見ていこう。
 利用者で得する人が限られる理由は、今回の旅行商品はクラツー会員先行販売なので会員以外の購入は難しいであろうこと、今回問題となった列車は10時打ち(列車の特急券が発売される1か月前の10時ちょうどに窓口で購入する、及びそのために長時間並ぶこと)が必須なことである。
 クラツー会員は700万人いるが、クラツーの会員全てが鉄オタという訳でもない。また、10時打ちができない人としては社会人が考えられるが、博多駅や他の駅に社会人と思しき人たちが並んでいたのを見れば、この列車に乗りたい人の多くは10時打ちをしているだろう。さらにいくら会員とは言っても、実際に販売される時間になればアクセスが集中して購入しづらくなる。それらを踏まえれば、得をするのは少数のうちのさらにごく僅かである。

 次に、鉄道会社側を見ていこう。
 今回の件で、旅行会社がJRの券を手配することでJR側がより多く利益を得ているかは微妙である。旅行会社はほとんどの場合、個人より安くJRの券を購入していることが多いが、これは本来なら余る券を旅行会社が購入してくれるからである。しかし、今回クラツーが手配した券は人気列車の券であり、黙っていても完売する列車である。そのような列車で旅行商品を設定したとしても、JRがさらに得をするかは疑問である。

2.商品に魅力がない

 この商品には魅力がない。誤解が無いように記しておくが、かもめ号に魅力がないわけではなく、かもめを利用したクラツーの商品に魅力がないのである。せいぜい魅力として挙げられるのは、「在来線下り最終かもめ」「新幹線上りかもめ一番列車」「在来線上りリレーかもめ一番列車」の3列車を同時に手配できることぐらいである。
 本来、利用者目線で見た旅行商品のメリットといえば、10時打ちより入手しやすいこと、普通は乗れない列車に乗れること、複数の列車をまとめて手配できることである。
 しかし、今回の商品はアクセス集中即完売必至の商品であり、発売時間にPCを操作して上手いことアクセスして購入できることを祈るしかない。これでは、10時打ちほどではないといえ、苦労することに変わりはない。また、この商品で乗れる列車は定期列車であり、旅行商品でなければ乗れない列車ではない。(理論上は)券売機で購入できる列車である。3つの列車を同時に手配できることについては、一応魅力的である。先に挙げた3列車はどれも人気列車であり、個人では1列車手配できれば良い方だからである。

②10時打ちが徒労に終わる

 10時打ちは非常に苦労する。まず、10時打ちが上手な駅をリサーチしなければならないが、10時打ちしたい人は競争相手を減らしたいので「どこの駅が良い」という情報はほとんど漏らさない。当日は朝早くからみどりの窓口に並んで先頭をキープする。そして、10時ちょうどに窓口の人に機械を操作してもらう。ここまでやっても、希望の券を買えるかどうかは運次第である。加えて、そもそも社会人は10時打ちをする日に休みを取るところから始めなければならず、こちらもハードルが高い。

 旅行会社が裏で手をまわして大量に座席を抑えていれば、それだけ希望の券を買える確率は低くなってしまう。10時打ちに苦労する鉄オタの感情としては、いくら企業活動とはいっても簡単に許せるものではない。

③転売ヤーのような行い

 おそらく最大の問題点はこれである。
クラブツーリズムは「団臨を設定する実力があるのに設定せず、限りある供給を奪っている上に、 個人で手配するより高額な料金を取っている」のである。

1.限りある供給を奪っている

 問題点の中の問題点である。まず、企業であるクラブツーリズムは、個人より圧倒的に団体列車を手配しやすいし、実際に様々な団体列車を手配してきた。団体列車を手配して供給量を増やせば、他の利用者を圧迫することなく旅行商品を販売することができる。しかし、実際には団体列車を手配せず、供給に限界がある定期列車の座席を大量に抑えてしまった。「限りある供給を奪い他の利用者を圧迫する」点で転売ヤーに類似している。

2.高額な料金

 旅行商品という性質上仕方ないことだが、この旅行商品は個人で旅行を手配するよりも高い額がかかる。
 個人で手配する場合、下りかもめ¥4,800と上りかもめ・リレーかもめ¥5,260+長崎I・Kホテル約¥10,000で合計¥20,060がかかる。実際にはホテル予約サイトを比較したり切符の買い方を工夫することで、これより抑えることも可能である。
 一方、旅行商品の額は¥29,800である(冒頭リンク参照)。個人で手配する場合の金額より1万円近く高い値段を設定している。企業だから利益を出さなければいけないといえば当然なのだが、利用者目線でいえば①の2で挙げたメリットのために1万円払うかは難しいところである。

まとめ

 今回クラツーが販売した旅行商品は、購入するメリットが薄い上に、クラツーが限られた供給を奪うなど転売ヤー紛いの行動をしており、購入しない人にとっても10時打ちが徒労に終わるという問題点がある。
 クラツーは「長崎に行くかもめの最終列車の重要性に目がくらみ、わざと団体列車を手配せず定期列車で座席を大量に抑えた」ようにも見える。そんな目的のために座席を大量に抑えられたら、旅行商品を購入せずに乗車する人にとっては迷惑極まりない。
 クラツー側も、最終列車とは別に団体列車を手配して販売していれば、もう少し角が立たなかったのではないだろうか。この件のような問題は「かもめ」に限らずありとあらゆる最終列車で生じうるので、クラツーは今後このような行いは繰り返さないでほしい。

P.S.余談だが、この件に関連して「クラツーが大量に座席を抑えたのは、ビジネスなどで利用する人にとって迷惑だ」という意見が散見されたが、私はこの件の本質はそこにはないと思っている。例えクラツーが大量に抑えなかったとしても、結局鉄オタが一瞬で指定席をすべて購入してしまうので、ビジネスなどで利用する人にとってはどっちに転んでも「指定席が購入できない」という結果は変わらないからである。

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