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リアルを超えるARライブを創る 2.5次元“イケメン女子”のチャレンジ

総視聴回数3600万回超の人気ミュージック・ビデオ・シリーズ「コバソロ×未来」でボーカルを担当する未来(みらい)さん。彼女は“イケメン女子”をコンセプトにしたアイドルグループのメンバーとしてデビューし、現在はソロで活動するアーティストだ。本格的な歌と踊り、そして中性的な魅力が生み出す独自の世界観には国内外にファンが多く、10代女子を中心に熱い支持を集めている。

そんな未来さんは、今年8月にオンラインのライブプラットフォーム「SPWN(スポーン)」で自身初となるARライブを開催した。今回は彼女に初ARライブ公演についてアーティストの目から見た魅力や今後の展望を聞いた。

リアルを超えるAR表現でライブの世界感を深める

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昨今、新型コロナウィルス感染症の影響によりリアルのイベントが開催できないという事情があり、現実の公演の代替としてオンライン配信が行われることが増えている。しかし、未来さんはオンラインでのライブパフォーマンスに対して異なる考えを持っているという。

ライブを終えたばかりの彼女は「私のような世界観を重視するアーティストにとって、ARライブは可能性の塊です。自分にピッタリ過ぎて、ホントに驚いています。現実のライブができないからオンラインでライブをしているのではなくて、むしろこっち(ARライブ)が自分の軸になる可能性があると思うんです」と興奮気味に語った。

ビジネスの視点から見ると時間や地理的な制約に縛られずにパフォーマンスを届けられるオンラインイベントの価値は高い。関係者は「オンラインの魅力は、ひとことで言えば時空を越えられること。1カ所でライブをするだけで47都道府県、それどころか7つの大陸から見てもらえます。さらに、アーカイブ機能があるのでリアルタイムに視聴できなかった人にも後から楽しんでいただけますからね」とネット配信の強みを分析している。

このような一般的なオンライン配信メリットに加えて、ライブプラットフォームの「SPWN」であれば、楽曲の世界観やダンスなどの動きにあわせたエフェクトを加えることで、よりエンターテイメント性の高いパフォーマンスが実現できる。加えて、1つのプラットフォーム上でチケットやグッズの販売やファンクラブ運営、顧客データ分析なども行えるので、リアルイベントに勝るとも劣らないビジネスを展開することが可能だ。

それでは、未来さん初の試みとなるライブプラットフォーム「SPWN」を活用したARライブとはどのようなものだったのか? ここからはその舞台裏をのぞいてみることにしよう。

SPWNのARライブはこうしてつくられた

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今回のARライブ企画の展開は「インンターネットのコンテンツらしく実にスピーディーだった」と関係者たちは口をそろえて言う。企画が持ち上がって「やりましょう」となったのは、本番公演のわずか2ヵ月前だったそうだ。そこからスタジオなどの調整を経て、ライブの背景やARエフェクトなどの作り込みを行うエンジニアに音源が渡ったのがイベントの約1カ月前。エンジニア2名、CGクリエイター2名、音響担当者1名、計5名が作業にあたり、未来さんを含めた全員でリハーサルが行われたのはイベントのわずか3週間前だったという。生身のアーティストとCGを合成したライブパフォーマンスを全世界に配信する企画であることを考えれば、このスピードは驚きである。

これほどの速さでライブが実現できた背景には「SPWN」のチームが自社で長年ライブ配信を行ってきたことが功を奏しているようだ。「SPWN」はライブプラットフォームとしてイベントのチケット販売や、映像配信やエフェクト、コメント、ECなどの機能を提供するものだが、決してそれにとどまらない。「SPWN」このようなプラットフォームとしての役割に加えて、コンテンツの作り手として豊富なノウハウを有している点が特徴でもある。アカウントを作って「あとはご自由にどうぞ」ではなく、アーティストと二人三脚でイベントを作り上げる点が、他のプラットフォームには見られない「SPWN」の強みだ。

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リハーサルの現場はリアルなイベントの舞台とは異なり、セットや小道具がいっさい存在しない。代わりにそこに並ぶのはカメラとコンピューター、ネットワーク機器、そして、それらを操るエンジニアたちだ。アーティストはその前で歌やダンスなどのパフォーマンスを行い、そこで撮影された映像がデジタル処理でCGの背景や特殊効果などと合成され、ライブ映像が完成する。

こうした準備を経て「未来 × SPWN AR LIVE -into the Virtual World-」は8月8日に本番を迎えた。

未来 × SPWN AR LIVE本番の様子

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本番当日は21:00ごろにライブ配信が始まった。リアルタイムで流れるコメントには日本語以外の言語も混じり、世界中のファンが視聴していることがうかがえる。約30分のライブでは、未来さん本人のパフォーマンスは当然のこと、楽曲ごとに変わる背景やエフェクトで表現される世界観が楽しめた。

ライブにはCGのバックダンサーたちが登場し、リアルとバーチャルが混ざり合うパフォーマンスが展開されていた。現実にはその場所には存在しないものの、高度なデジタル処理で違和感なく見えるCGや特殊効果は“未来”を感じさせるものだった。ちなみに、これらの処理は全て、現場に設置されたPCによりリアルタイムで行われた。

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このライブ向けのエフェクトとして「未来」や「みらい」などとコメントが入力されると背景に星が流れる機能が実装されており、視聴者はインターネットを通じてライブをインタラクティブに楽しめるような仕掛けも施されていた。また、歌の合間にコメント機能を活かした視聴者とのコミュニケーションなども行われ、盛り上がるひと幕も。未来さんは「Cool!」といった英語のコメントを読み上げるなど、オンライン配信が可能にした国境を超えたつながりを楽しんでいるようだった。

未来 × SPWN AR LIVE -into the Virtual World-
セットリスト(2020年8月8日)

東京サマーセッション(コバソロ ×未来 Original song by HoneyWorks)
カフェオレ(Original song by PrizmaX)
ねむるまち(Original song byくじら)
Mr.MUSIC(Original song by れるりり、など)

2.5次元アーティスト×ARライブの可能性

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コンテンツビジネスの世界ではアニメやマンガを「2次元」と呼び、その世界観を踏襲した舞台や声優さんによるパフォーマンスを「2.5次元」と呼ぶことがある。自分自身を「2.5次元系」であると言う未来さんは、このジャンルのアーティストにとっては、ARライブを活用する利点があると話す。

これまでのリアルなライブでは背景などを楽曲の世界観にあわせて変更するとコストや手間がかさんでしまったが、「SPWN」であればデータさえ用意できれば変更は容易である。また、イベント終了後の大道具などの保管場所などにも困ることがなく、それぞれの会場に輸送するコストもかからない。これは彼女のような世界観を重視し、背景などの作り込みにこだわるアーティストにとってはメリットだ。

「収録した動画を見て、自分でも驚きました(笑)。スタジオでは1人で緑の布の前でパフォーマンスをしていたからよくわかっていませんでしたが、録画をみて初めてこういうふうに見えていたのだなって、実感しました。ARでのライブやSPWNへの期待は高まっていますし、きっとこれからはこういったやり方が定着して行くと思います」(未来さん)

また、ファンの反応については「スタジオに設定されたモニターで皆さんのコメントを読んでいたのですが、バーチャルであることをかなり楽しんでいただけたようで何よりです。細かいカメラワークに合わせて背景の見え方が自然に変わる点とか、そういったディテールを見てくださる人が結構たくさんいて『みんな、すごいわかってくれている!』って嬉しくなりました」と手応えを感じている様子だった。

SPWNを活かしてファンタジーやメルヘンな世界にも挑戦してみたいと未来さん。「例えば、王子様の衣装を着てお城の背景の前で歌うとか……夢と魔法の国のような雰囲気でのパフォーマンスを考えています」と今後の展望を語る。

これまでのライブではパフォーマーがセットと共に各地を移動し「〇〇ツアー」などの区切りで興行を行うのが一般的だったが、「SPWN」などのライブプラットフォームが普及した時代ではアーティストや作品の世界が時を経るごとに作り込まれ「Ver1.0」「Ver2.0」……と進化していくような形態になるかもしれない。パフォーマンスの進化と深化を進めていきたいアーティストとそれを楽しみたいファンにとってはオンラインでのライブはまたとない環境であると言えそうだ。ARを活かして自身の世界観と音楽を世界に届ける未来さんの挑戦に期待したい。

今回の取材先
未来さん:ニコニコ動画などの歌い手に影響され、声色を使い分ける歌唱法を独学で身につける。イケメン女子をコンセプトにした女子アイドルグループのメインボーカルとして2015年にメジャーデビュー。2018年に配信したコバソロ氏とのコラボレーションMVシリーズ「コバソロ×未来」が総視聴回数3600万回を突破するなど、インターネット・ミュージック・シーンにおける次世代アーティストとし国内外からの注目を集めている。現在はソロで活動中。


 YouTube:未来のMiracle Channel
https://www.youtube.com/channel/UC0gX3h0aO3OYGOyMOjowP8g

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