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【スピンオフ】

私の名前はネロ!ここハリウッド大通りで荷台に花を積め、売り歩いているただの花屋だ。50年以上もこの商売をしていると、色々な人々に出会ってきたと思う。
セレブもいれば、娼婦やビジネスマンもいる。
思い起こせばアメリカはすっかり変わってしまった。不況や戦争の影響もあるのだろうが、悲しい時代になったものだ。なにより、多くの若者が夢を持たなくなってしまった。
世の中にはチャンスを掴める者とそうでない者がいる。今回はそんな若者達のストーリーを語ることにしよう!

サンタモニカのBAR<9クルーズ>で久々の再会を果たすトロイとジミ―。
『ジミ―!最近、仕事はどうだい?』『この不況じゃぁ車も売れないし、いつリストラされるか心配で毎日、ビクビクしているよ。お前は?』
『俺は相変わらずツイてないよ。スポーツライターからタブロイド紙の番記者にまわされ、毎日、他人の悪口ばかり探して書いている。その方が売れるからな』
学生時代からの親友だった二人は、近頃では1年に一度会うか会わないかの間柄。そんな会話の中、トロイがふと店内の照明に反射され、カクテルのグラスに映る文字に目を奪われた。
振り返ると壁には<夢降るシーズン>という映画用のポスターが貼られていたのだ。
『なぁ俺達、高校を卒業してもう何年になる!?』
少しほろ酔い気分のトロイの質問にジミ―はこう答えた。
『7年かな?』
『俺達、昔はもっと毎日、夢ばかり見て過ごしていたよな。いったい何処でこうなっちまったんだろう・・』
『仕方ないさ、この不況だもん』
『でもアレックスは今じゃ、ハリウッドスターだぜ!成績もスポーツも三人の中じゃ1番ダメだったアイツが』
『仕方ないさ、彼は運がいいんだから。高校の時、三人で遊びでオーディションを受けたら、彼だけが受かった訳だし』
その後、酒に酔った二人はハリウッドへと向った。そう・・あの店内で見つけた<夢降るシーズン>という映画を観て、朝までに酔いを覚まそうと考えたからだ。
小雨降る夜の9時。一台のタクシーがサンセットBlvdを駆け抜けていった・・。


ハリウッド大通りの映画館前。上映時間に少し早く着き過ぎた二人は、大通りに貼りめぐらされているスター達の手形や足形を見て、はしゃいでいた。
『おい見ろよ!T・ハンクスやS・スタローンだぜ』
『こっちにはT・クルーズもあるよ』
そして順番に目で追っていた二人は同時に、ある人物の手形を見て意気消沈した。
それは高校時代の仲間であったアレックス・エフロンの手形を見つけてしまったから・・。
『花はいらんかね!?夢はいらんかね?』
大通りには、多くの花々を荷台で売り歩く白髪の老人が、何度もそのセリフを連呼してまわっていた。
すると酔っぱらっているトロイが少しからかう様に、フラついてその花売りに声をかけた。
『爺さん!花はいらないけど、夢は売ってくれるのかい?値段はいくらだい!?』
笑いながら問うそんなトロイに、花売りは怒鳴った。
『花と夢はセットだ、単品では売らん!でも君達に買える品かな・・?そんな面じゃ、どうせ売ってもすぐに花も夢も枯らしちまうだろうし』
『何だとクソ爺!』
そんなトロイの手を引き、なだめる様に映画館へと連れていこうとするジミ―。
その二人の光景を見つめていた花売りは、背後からまたもこう叫んだ。
『君達はあの<夢降るシーズン>を観にいくのかね!?本編は観たのか?あれはスピンオフムービー(本作の脇役が主役の映画)だから、本編を観ないとストーリーはわからんぞ』
今度は、血相を変えてジミ―が駆けよってきた。
『わかったよ。このバラの花を買うから、これ以上アイツを挑発しないでくれるかい?』
すると花売りは笑顔でこう語った。
                                        『ならば夢もつけてやろう!世の中にはチャンスを手にする者とそうでない者がいる。その違いは君達自身の中にあるんだ。幸運やチャンスは外から発生するものではない、自分自身の内面から生まれ出てくるものなんだ。だから夢のような人生を送るも、悪夢のような人生を送るも、君達自身に原因があるって事。人や景気、世の中のせいにするな。できる限り理想の未来予想図を鮮明に思い浮かべなさい!さすれば道は開かれるであろう・・』
『ハイハイ、わかったから早くそのバラを包んでくれない?』
二人が映画館へと入って行くのを見届けた花売りは、更にこう嘆いていた。

<アメリカの若者はすっかり変わってしまった。夢を信じるという事も忘れて・・。スピンオフムービーでは誰もが主役になれる!本編で脇役だった者も、あきらめなきゃ脚光を浴びることもあるんだ。
君達の人生では誰もが主人公。だから若者よ!夢をあきらめないでくれ>

 人は私を<夢売る花屋>と呼ぶ、そんな花売りの助言を生かすも殺すも、それはあなた次第!
しかしもう一度言う、この二つはセットだ。花を買わなきゃ、夢は売らんよ・・。

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