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『小さな魔法使い』夢降る街角刊行記念 特別短編小説

 NYのブルックリンに住むロブ・ターナー。5年前に妻と離婚、仕事はマンハッタンでBAR<スリラーズ>を経営している35歳。
そんな彼が朝、帰宅すると愛犬のセーラが待ち構えていた。
「もう、俺は駄目だよ、夢も希望もない!お前も新しい飼い主を探してやるから幸せになるといい。来週の誕生日で人生の幕を閉じる。ほんと短い人生だったけどな・・」
すると突如、部屋のゴミ箱の中から、一匹のネズミが出現した。
「おいおいロブ!何、恐ろしい事考えているんだい!?まだ君は若いじゃないか。死のうなんて思っちゃ駄目さ!僕が願いを叶えてあげるから」
ネズミが喋ったことに腰を抜かすロブ。
「お前は何者だ!俺もついに幻覚を見る様になってしまったか・・」
そんなネズミはこう言った。
「僕の名前はラッキーマウスさ。君は今から三つの人生から、好きなものを選ぶ事ができるんだ。さぁ、早く一つ目の夢を話してくれ!」

 一瞬、眠りについたロブが気が付くと、ビバリーヒルズにある大豪邸のプールで、カクテル片手に美女に囲まれている自分の姿があった。
「これはどういう事だ?ねぇ君、一体誰のパーティなんだい!?」
目の前を通りかかったメイド姿の女性にそう尋ねた。
「ご主人様!何のご冗談ですか?資産100億ドルともいわれるBAR<スリラーズ>チェーン店を持つ、オーナーのあなた様が開いたパーティではないですか」
どう見ても夢ではなく、現実の世界としか思えない状況・・。
「そうか、これがあのネズミが話していた<人生の選択>なんだな。信じられないけど、まぁ、いいか!ラッキーマウスよ、ありがとう」
そう叫ぶと彼は、プールの中へと飛び込んでいった・・。

 そんなある日の夜。豪邸の寝室で眠っているところへ、銃を持った一人の男が忍び込んできた。
「お前がロブ・ターナーだな!貴様の悪どい商売のせいで、俺の会社は倒産したんだ。死んでもらうぞ!」
飛び起きたロブは訳がわからず、大声でわめいた。
「こんな人生は嫌だ。それなら次の夢を叶えてくれ!」

次に彼が目覚めると、そこはマイアミのリゾートホテルの一室だった。
「ねぇロブ?私の事好き?」
毎夜毎夜、彼の部屋へは違う女性が訪れる。それも美女ばかり!
彼はNBAのスター選手で、世間ではもっぱら、プレーボーイと評判なのだそうだ。
「これは俺が15歳の時に思い描いていた人生だ。サンキュー、ラッキーマウス!」
 しかし数ヵ月後、またも悲劇が!
それは試合後のある夜の出来事。「結婚するって私を騙したのね!殺してやる」
突如、彼の部屋にはナイフを持った女性が・・。
数分後、胸を刺されたロブは、天井に向かってこう叫んだ。
「違う違う!俺の本当の夢はF-1レーサーになる事だったんだよ」

またも目を覚ますと、そこはモナコGPの真っ最中!ハンドルを握り、ローズヘアピンを周り、トンネルを抜けるとヨットハーバーが見える。チェッカーフラッグはすぐ目の前だ!
「これこれ!このスピードが俺の求めていた人生なんだ」
しかし車はスリップしてガードレールへと衝突!ロブ・ターナーの生涯はここで終了したのだ。
「おいおい、何でどの人生も俺が死んじまうんだよ!?じゃぁ次は、どっかの国の王様になることだな」すると天高い所からラッキーマウスが、こう説明した。
「言ったはずだよ!夢は三つまでだってね」「固い事言うなよ。頼むよ」
「じゃぁ特別に4つ目の世界をプレゼントするよ。ホントにこれが最後だからね!」

 目の前が明るくなると、彼は元のブルックリンのアパートで、ベッドに横たわっていた。


「ん!?これは以前の世界じゃないか・・。そうかあのネズミめ、この世界で夢を見せてくれるんだな。よしセーラー、散歩に行こう!」
それから数ヶ月間、時は何もなく過ぎていった・・。
しかし彼は毎日、良い事が起こることを期待して生きていた。

「あの、私、前からあなたの作るカクテルのファンなんです。何か美味しいものを作って下さらないですか?」
BAR<スリラーズ>に突如現れた美女。一瞬にして恋をしてしまったロブはこう答えた。
「このカクテルの名前はアンへリータでどう!?。つまりスペイン語で<可愛い天使=愛する人>っていう意味なんだよ。気に入ってくれるかな!?」

そんな<スリラーズ>のゴミ箱の中から、一匹のネズミが顔を覗かせてこう言った。


「人生とは幸福に捉えれば幸福になるし、不幸に捉えれば不幸にもなる。僕は初めから魔法なんてかけちゃいないのさ。くれぐれもこれは、ロブには内緒だからね!」


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