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【ガールフレンド】

LA郊外の父親が眠る墓石の前。『ジョージは、あなたと一緒にサーフィンする事が夢だったのよ』
その帰り道、車のハンドルを握り締めたまま、ダニーは号泣した。
『そんな夢だったら、いつでも叶えられたのに…』
翌日の夜の遊園地。虹色に光るメリーゴーランドを眺めるダニーと恋人のミランダ。
『ねぇ、いつになったら結婚を切り出してくれるの?付き合ってもう5年よ!』
『タイミングってもんがあるんだよ』
『タイミングっていつよ?今じゃないの!?』
『今は金もないし…』
『私を愛してないのね!』
それは突然降り出したスコールとでもいおうか。人生では度々、悪戯好きな天使が、こんなシナリオを書いてしまう事だってあるのだ…。
一年後のサンタモニカ。新しい恋人のモリ―と浜辺を歩いていると、急に彼女がこんなことを口走った。
『ミランダは元気なのかしら?』目を丸くして聞き返すダニ―。
『どうして彼女を知っているんだい?』
その後、モリ―を問いつめると驚くべき真実が発覚した!ミランダと不仲だった彼女は、ずっとダニーを略奪する事を計画していた。
そんな彼女がミランダに、ある日、彼が浮気してると嘘を吹き込んだのである。
最後に会ったあの遊園地での夜。一人取り残され古びた占い館へと入った。その館の老婆が言ってたっけ!『運命は変えられない』などと。
冗談じゃない、これは運命とは関係ねぇじゃないかよ!
すぐに車に飛び乗ったダニ―はミランダへTELをかけた。既に時は一年が過ぎている…。
『今、どこにいるんだい!?』
しかしその想いはすぐにつながった。
『ダニーなの?嘘!?今はスペインよ。明後日5時からエスパレス教会で結婚式があるから…』
トンネルに入ったところで音信は途絶えた…。彼は急ブレーキをかけ、Uターンする。ふと気がつくと車は空港へと向っていた…。
マドリッド行きの機内。LAを飛び立ってから数時間が経っている。そんな座席で眠れないでいると、急にある一人の男が立ち上がり、大声で怒鳴り散らした。
『この機は今からロンドンへ向う。全員床に伏せろ!誰も動くな』
その男の右手には銃がはっきりと、ダニーの目にも確認できた。
いきなりのハイジャックだ。そして時計に目をやるダニ―。
無情にも時は、刻一刻と進んで行く…。次の瞬間、彼はハイジャック犯に向って飛びかかっていった。『お前、殺すぞ!』『てめぇこそ殺すぞ!式まであと7時間しかないんだ。俺の邪魔する奴は例え、大統領やスーパーマンでも許さないからな』
犯人ともみ合いになること数十分。するとダニ―が今度は号泣した。
『どうして俺の人生はいつもこうなっちまうんだよ!父は亡くなった後に夢を語るし、恋人は真実を確かめないまま、結婚式を挙げようとしてる…。もう嫌なんだよ俺!後悔だけの人生なんて』
すると動作を止めた犯人がこう語った。
『お前、その女性を本気で愛してるのか?』
頷くダニ―。
『俺と同じだな…』そう呟くと犯人はコックピットへと向かった。
『オイ!あと4時間でマドリッドへ着かなければ、お前ら殺すぞ!急げ、こら!』
怯える機長と副操縦士。『そ、そんな無茶な…』
その後その機は無事、スペインへと到着した…。
マドリッドのエスパレス教会。祭壇では今まさに、花婿と花嫁が誓いのキスを交わそうとしていた。
『ちょっと待った!』間一髪のところで、教会の最後列の扉を開けて入ってきたダニ―が、大声で叫んだ。
『俺…君がミュージカルに行きたいっていう時に、NBAの試合が観たいなんて理由で、もう断らない!4時間もかかる君のショッピングにも付き合う。愛犬と約束したから、10時に帰宅したいなんて嘘も、もうつかない!だからもう一度、考え直してくれないかい!?』
一斉にざわめき出す参列者たち。そんな中から一人、女性が立ち上がるとこう答えた。
『ダニー?どうして…。私はここよ!友人の結婚式に招待されて来ただけなのに』
全員に注目され、もはや引っ込みがつかなくなったダニ―。
『結婚しよう!』
静まりかえるエスパレス教会。すると今度はミランダへと皆の視線が集った。
『もう一つ忘れてるわ!私が70歳になってもキスしてくれる!?』
二人が抱き合い、キスを交わすと参列者達は一斉に立ち上がり、祝福の嵐が湧き起こった。
そんな中、祭壇で取り残された花婿と花嫁が呟く。
『これは俺達の結婚式だよな!?』『たぶんね…』
そんなスペインの夕暮れ時を、アンダルシアの風が優しく吹き抜けていった…。


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