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【恋のホロスコープ】

小雨降る夕暮れ時の事。ハリウッド大通りに面した小さな占い館の扉を、ある一人の女性が叩いた。『こんばんは・・』
すると中からべラという老婆が、ゆっくりと扉を開いた。
『おや、スザンヌかい!?今夜は何を占って欲しいんだい?』
館内に入った彼女はこう答えた。『恋愛について・・』
彼女にとって、それは今、とても重要な問題だった。というのもウエディングプランナーの職に就き、他人の幸せばかりを演出してきた彼女には、そろそろ考えなくてはならないテーマ。
そして数分後、べラの答えは出た。『今年と来年は絶対、恋をしないこと!恋するとヤケドしてボロボロだね』
スザンヌは、落胆し手で顔を覆った。TVでも有名なこのべラのホロスコープ(星占い)は、過去に一度もハズレた事がないのだ。
『そんな・・』
今にも泣き出しそうになるスザンヌ。ほのかな期待がコラプスト(崩壊)した瞬間だった。
ホロスコープの魔力にとりつかれた彼女にとって、べラの予言はそれだけ神よりもまさるものなのである・・。

グリフィスパークに聳え立つ真っ白な教会。結婚式の最中、一人の男性がスザンヌに声をかけてきた。『トイレはどっちだい?』
緊張するスザンヌ。なんとその男性とはあの有名な、サッカー界のスーパースター、マットシュナイダーだったからである。
                                        それから数時間後、式は無事成功を収めた。プランナーにとって、今が最も至福の時!
教会の前では新郎新婦が車に乗り、皆に手を振って走り去って行く。
『今日もやっと終わったわ』
そんな光景を見届けていた彼女に、先程のマットが駆け寄って話しかけてきた。
『こんなすばらしい結婚式は初めてだよ。それも君の見事な演出のお陰だね!どうやら、僕は、君に一目ぼれしたみたいなんだ。良かったらこの後、食事でもどうだい?』
昔から大ファンだったマットから誘われるスザンヌ。しかし答えは<NO!>。べラの占いが脳裏をよぎる・・。
『ごめんなさい!今年と来年は占いによると、恋はできないの。できれば二年後、もう一度、誘ってくれるかしら!?』
苦笑いを浮かべるマット。そして彼は声を荒立ててこう叫んだ。
『君は人生を他人に預けるつもりなのかい!?自分の人生は自分でコントロールしなきゃ!他人に預けるって事は、死と同じさ。一体誰なんだい?君にそんな笑えないジョークを授けた人物は』
信頼するべラを侮辱された気分になったスザンヌ。そしてすぐに彼女も彼にこう言い返した。
『じゃぁ、あなたも一度、あのべラに占ってもらったら?そしたらもう二度と、そんな軽口は叩けなくなるわよ』
そんな経緯から二人はハリウッドへと向った。それは小雨降る、ある日曜日の出来事だった・・。

二ヶ月後のサッカースタジアム。スタンドにはあれ以来、連絡をとっていないスザンヌの姿があった。
試合ではMFのマットが、ことごとくシュ―トを外す。
『あんたは残り試合全部、一本も得点できやしないよ』
それはあの日のべラの予言が、マットの心をも揺さぶっていたせいに違いない!
このままではべラの言う通りになってしまう。だってこれが、今年最後の試合なのだから・・。
そしてゲームはロスタイムへと突入。すると相手のハンドにより、幸運にもPKのチャンスをマットが得た。
『俺は絶対に決めてみせる!誰の人生でもない、これは俺の人生なんだ。スザンヌとそして俺のプライドの為に・・』
彼はあの日、スザンヌの前でこんな約束をしていたのだ。
『人生に勝利する者は自分で道を作り出す。敗者は人に振り回される。べラの占いに打ち勝ったら、もう二度と人に振りまわされないって約束してくれるかい?俺を信じて』
 運命のホイッスルが響き渡る中、左足でボールを蹴るマット。
次の瞬間、ボールが風になびくネットを揺らした・・。

グリフィスパークに聳え立つ真っ白な教会。一年が経ち、見渡すと街の景色も少し変わっていた。
『ねぇ、新婚旅行はヨーロッパにしない!?』
高所恐怖症の彼はこう答えた。
『べラがさ、今年は飛行機は危険だから車か船で行ける場所にしな!って言ってたよ』
『あれっ?占いなんか信じるなって言わなかった!?』
『彼女は偉大な占い師だよ!』
『どうして?』
『だってあれ以来、ホロスコープを辞めて、タロット(カード占い)に転職したからね』
『嘘つき!』

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