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【リトルプリンセス】

<愛しの王子さまへ~あなたの事を想うと、夜も眠れないわ。早くあなたに逢いたくて・・クリスティーナ マックギリスより>
ラスベガスのホテルで働くブル―スレイモンド。未だ独身の32才。彼はこれまで、ホテルに宿泊する有名人や大富豪、一夜にしてカジノでアメリカンドリームを掴んだ数多くの人々を見てきた。まだ・・夢を捨て切れずにいるのだ。
そんな彼にある日、一通の手紙と航空チケットが舞い込んできた。送り主はイタリアに在住するクリスティーナという女性から。
『突然、どうしたんだろう?』というのも彼女とは、ネット上で知り合ったただのメル友という関係であり、ましてやこんな高額なチケットまで頂く程の間柄でもないのだ。
<どういう事なんだ・・?>
しかしすぐに気持ちを切り替えた彼は、彼女にメールを返信した。
男なら誰しも、迷う事などないだろう!24才のOLで趣味は乗馬とキルト作り。語学堪能で五ヶ国語を話す事もでき、しかもブロンドの髪にナイスバディと聞かされたならば・・。
数日後のミラノマルペンサ空港。すれ違う女性がすべて、クリスティーナに見えるブルース。きっと、顔を知らない者同士が会うという事は、こんな心境になるのだろう。次第に期待と不安で胸がはちきれそうになってきた。<頼むから早く現れてくれ>
そう願うとすぐに、背後から声をかけてくる者がいた。<クリスティーナに違いない!>少し作り笑顔で振り向くブルース。待ちに待った瞬間!
しかし彼が見た現実は、ラスベガスで想像してた『絵』とはまるで違っていた。
なんと、そこには年は15才にも満たない、一人の少女が立っていたのだった・・。
夕暮れ時のミラノ市街。車窓からはドゥーモ寺院やスカラ座、ガッレリアなどが見えてきた。黙り込むブルース。重い空気が車中を埋め尽していた。
『お嬢ちゃん!なんで嘘ついたの?』
『年齢と職業以外は事実よ』
『ナイスバディじゃねぇだろが!』
『だってメールでお友達になってくれるって言ったもん!髪はブロンドだし、何か文句あるの!?』
やっと口を開けたも束の間、ブルースはまたも黙り込んでしまったのだった・・。
丘に聳え立つ別荘。窓からは美しいコモ湖と赤レンガ色の家々が見下ろせる。
そして、<晩餐会>と称したテーブルの上には、過去に見た事もない豪華な食事と高額なワインが並び、更に大勢の召使いらしき者達が右へ左へと忙しく、家中を駆けずり回っている。
『お嬢ちゃん!いったい何者なんだい?パパはマフィアか政治家なの?』
すると突然、血相を変えた黒いサングラスの初老が、大声で怒鳴りつけたのだった。
『貴様!このお方をどなただと思ってるんだ。我がフーラシア王国の王女さまなるお方だぞ。少しは口を慎め、バカ者!』
『MIBかよ、こいつら・・』彼の説明によると、彼女の国は今、戦争の真っ最中。そんな国の国王は、愛する娘の身を心配して親交のあるイタリアへと王女を預けた。
しかし常に24時間、軍の関係者に護衛されてるクリスティーナ。友達などできるはずもなかった。
そんな彼女が唯一、心の許せるひとときがメールであり、真の友達と呼べるのがブルース・・それが今回の経緯だと彼はいう。
翌朝、湖に咲く地中海産の花々に話しかけている王女に、彼はこんな事を言い出した。
『君に今、アメリカの若者の間で流行っているダンスを教えてやるよ。悲しい時も嬉しい時もこんな風に笑顔で踊るんだ。きっと世界観が変わるからやってみなよ』
すぐにダンスのフリを真似た王女は、その夜も翌日の晩もずっと練習を繰り返した。
そしてブルースはそんな光景を見て夜空を見上げた。
『イタリアで見る月もアメリカと変わらないんだ・・』
1年後のラスベガス。ホテルで働くブルースに、同僚がこんなニュースを持ち込んできた。『おい、知ってるか!?フーラシア王国のプリンセスが国賓の前で、ヒップホップを踊って大ヒンシュクだったらしいぜ。バカな子だよな』
それを聞いて微笑んだブルースのもとには昨夜、こんなメールが届いていたのである。
<~あなたに教えてもらったダンスのお陰で、友達がたくさんできたわ。サンクス!明日、国賓の前で踊ってみようかと思うの。だってこんな愚かな王女のいる国とは、二度と戦争なんか起こす気になれないはずよ。父(国王)はこんな下品な踊りを教えた奴を今すぐ、連れて来い!殺してやるって叫んでいるけど気にしないで。
愛しの王子さまへ~ナイスバディになったクリスティーナより>
ラスベガスのホテルで働くブルースレイモンド。未だ独身の33才。彼は今夜も夢を見ていた。そう・・こんな風に。
『気にするだろ!?だって未来のお父様(国王)には二度とお目にかかれなくなっちまったんだからな・・』


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