3.バックパッカーストリート
僕たちと、数人の観光客を乗せたバスは、ほどなくして、空港のロータリーを出発し、ベトナムの街へと繰り出した。
大通りに出ると驚かされたのは、道路を所狭しと走るバイクたち。
道路を埋め尽くすほどの数のバイク、バイク、バイク、どこを見てもバイク。
まるで血管の中を流れるヘモグロビンのように、道路の上を流動的に途切れることなく永遠にバイクが走っている。
よく事故しないものだ。これだけの数があるから、実はあちこちで事故してるけれど見落としてるだけなのか??
みんな、ぶつかりそうで、ぶつからない。
しかもバスのすぐ横、もう当たってるのではないかと思うくらいのところをバイクが何台も並走している。
バイクの免許を約1ヶ月前に取得したばかりの僕は、このバイクの群れに加わって走りたくて仕方なかった。この国に運転手を縛り付ける道路交通法なんてきっとない、走りたいように走れる。ベトナムの道路に惚れかけた。
しばらくは外の異様な光景に見惚れていたら、いつのまにか横に、肌の焦げた日本人っぽい爺さんが座っていた。
「どこで降りるんだ?」
話しかけて来た。流暢な日本語だ。
こんな老人なんでベトナムに??
「バックパッカーストリートで。」
O先輩が答える。
「へぇー、分かってるじゃないか、あそこが1番いい。大抵のやつはその手前の観光地で降りてしまうんだよ。」
言った通り、一緒にバスに乗っていた、日本人の大学生らしき3人組と、その他の観光客たちは、僕たちが降りる予定よりかなり手前のバス停で降りていく。
「バックパッカーストリートで宿も取ってるんで。」
O先輩が続ける。
「通だね〜、あそこは最高だよ」
物知りお爺の太鼓判をいただいた。
どうやら、このお爺は、何でかは知らないが何回もこのベトナムに足を運んでいる日本在住の方らしい。
そうこうしているうちに、バスはバックパッカーストリートに到着した。
お爺にバイクが途切れることなく無数に走る道路の横切り方を教えてもらった。ポイントがあるらしい。
途中で立ち止まらないこと。
途中で急いで走らないこと。
ビビらず堂々と横切ること。
不思議なことに、道路を横切るとバイクが勝手に避けて行くのだ。コツさえ掴めれば簡単で、なんだかハマる。
お爺に別れを告げ、バックパッカーストリートを通り、僕たちはとりあえずホテルに入ることにした。荷物を置かないと自由に動き回れない。なによりヒートテックを早く脱ぎたい。。。
このバックパッカーストリートというのは、夜はものすごい盛り上がりになるらしいが、今は昼ということもあり、閑散としていた。
しかしどこか、日が落ちるのを待っているような、嵐の前の静けさのような、そんな雰囲気も漂っている。眠らない街が仮眠をとっているような雰囲気を感じた。
通りを抜け、すぐ右に曲がったところに宿の入り口があった。建物と建物の間の薄暗く細い廊下を歩くと、僕たちが泊まる宿(2階)に繋がる階段が現れる。
階段を登り、扉を開けると、そこには男4人が生活するには十分な広さの空間が広がっていた。
手間の部屋にベッド2つ、奥の部屋にはキングベッドとソファがあり、さらに奥には簡単なバルコニー的な机と椅子がある。シャワー、トイレも付いており、宿に正直期待なんてしてなかった僕たちは喜びとともに、やっと一息つけると胸を撫で下ろした。
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