2.ベトナム到着

ベトナム行きの飛行機に乗る人だかりには、日本人が多く並んでいた。
日本からの飛行機なのだから当然だろう、とつまらない受け答えを何度か自分の中でしてしまうくらいには、初めての国外旅行への興奮を抑えられずにいる。

国内線と何が違うかと問われれば、何より個人個人の荷物の大きさが違う。
国内線も片手で数えるほどしか乗ったことないが、持ち主が隠れてしまうほどの巨大な荷物を抱える人々を目にすると、コロナ渦もあってか、この飛行機で国外逃亡を企んでいるようにも見えてしまう。

国際保険の加入、Wi-Fiの受け取り、荷物検査、その他諸々を済ませ、ターミナル内へと入っていく。

空港の売店では関税がかからずに通常よりも物が安く買えるだとかなんだとか。
急にブランド物を押し売りするかのような売店たちが通路の両側に姿を現した。

M先輩は、その売店の1つに入ると真っ先にラッキーストライク(タバコ)のカートンを購入する。
僕以外の3人はラッキーストライクを吸うのだが、レギュラーの何が美味いのか本当にわからない。


そんなこんなしてるうちに、搭乗時間が迫り、案内された先の飛行機を初めて目にする。
乗る飛行機は思ったよりも小さかった。この飛行機で海を、国々を超えてベトナムへと本当に辿り着くのか若干の不安が生まれるが、そんな不安はこの旅にとってほんの僅かなものなのだろう。



出発前日に楽しみであまり眠れなかった僕は、飛行機内では大半を寝て過ごした。

もうすぐ着陸するというアナウンスとともに目を覚まし、寝ぼけたまま窓の外の景色に視線を移す。

そこには絶対に日本では見られないような農村地帯が広がっていた。

生まれて初めての種類の興奮を覚えた。
ここで生活しているのは、全員違う国の人。
言葉も文化も何もかも違う人たちが、海を超えた大陸で確かに生きている。

神秘的だった。いよいよ異国の地での旅が始まる、ゾクゾク感。
大袈裟だが、それくらい僕の中にとっては湧き上がるものがあった。

着陸した飛行機から降り、飛行機から空港まで向かうシャトルバスに乗り込む。
外に出た瞬間、蒸せ上がるような暑さに全身が包まれた。
日本では2月だったのに、ここはまるで常夏。
しかも湿度が抜群に高い。
滑走路のコンクリートに蒸気が跳ね返されて風呂上がりの脱衣所のような感覚に包まれる。

東南アジア感、これよこれよ、待ってましたよ。
暑さにウェルカムしたのは初めてかもしれない。
何もかもが特別で新鮮に思えた。

そんな生まれたてのホクホクの感情は、初めての入国審査でガチガチの緊張へと変わる。


入国審査待ちの数多くある列に、僕たちは二手に分かれて並んだ。
how longとか聞かれるのだろうか。
観光は英語でなんと言うのだっただろうか。
応用的な質問が来た時、取り乱したらゲームオーバーで入国が出来ないのではないだろうか。

いよいよ僕の順番が回ってきた。
いかにも入国審査をしてそうな小太り髭のおじさんにパスポートを渡す。
初心者感を出さないため余裕そうな笑みを浮かべ、頷きながら受け答えすると決めていた。
加えて帰りの飛行機の搭乗券も出してみる。

すると、よく分からない言語で何か聞かれた。(英語かもしれない)

は?これ以上なにを求めるというのだね、おっさん。
無理よ無理よ、てかそんなどこの国かも分からん言葉で意味通じるかい。(英語だったのかもしれない)

一気に身体の熱が上がる、これはさっきのホクホクではない。

考えろ、あと何を見せればいい、何を説明すればいい。

少しでも周りを見渡すような素振りをすれば、初心者がバレる。こんな時でも変なプライドが邪魔をする。

携帯だ。

僕は携帯を開き、初日のホテルの予約画面、帰りの飛行機の予約画面を引きつった笑顔で小太り髭に見せてみた。

その携帯を睨みつけると、小太り髭は無言でスタンプをパスポートに振り下ろす。

下を向いたまま出口を指差された。

クリアだ。入国審査クリア成功。もう何も怖いものはない。

最初にして、最大の難関をくぐり抜けた僕は、ドヤ顔で後ろを振り返る。

別の列に並んでいたNが審査官に突き返されて長蛇の列の後ろに並び直していた。
ちなみにNは超有名国立大学生。
審査官との相性もあるのだろうか。
それともあいつは実はバカ?なのか?

2〜30分は入国審査に費やしただろうか。
ようやく晴れてベトナム入国が認められた僕たちは大きなリュックを背負い、空港の外に出る。

モワッとした空気が再び身体中を包み込む。
暑い、とにかく暑い。
そう、僕はヒートテックの上に長袖、長ズボンを履いたままなのだ。

今すぐ着替えたいところではあったが、まずはホテルにチェックインするということで、そこで着替えることにした。

空港の前のロータリーをとりあえず歩いてみる。

喫煙所を見つけ、とりあえず一服。

O先輩がタバコを片手に、スマホで今いる現在地、そしてホテルの位置をマップで照らし合わせる。

そしてロータリーに並ぶバスを眺める。

「あのバスやわ。」

数あるバスの中から、そのひとつを指差した。

バスに乗り、しばらくすると違う国の観光客が次々と乗り込んできた。
ガタイのいいサングラスマッチョに、ラブラブ欧米カップル、さらには日本の大学生の風貌をした男3人組も乗り込んできた。
言い方は悪いが、地味なタイプの3人組。

おまえらより絶対楽しんでやるわ。

こっちには頭おかしいメンバーが揃ってるんだわ。

まもなくしてバスはベトナムの街へと出発した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?