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almost fiction

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だいたいこんな感じのことがあったけれど、証明はできないので、潔く虚構化してしまうのが目的の短編小説集です。
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#京都

ひとり遊びに花の装い

 平成の終わった年の冬、京都の繁華街にある店でのことでした。そこは酸味が爽やかなコーヒーを飲ませてくれるカフェとして知られているのですが、陽が傾き始めるとウィスキーを頼む客が増えてきて、夜にもなれば当時でもすでに珍しかった全席喫煙可のバーになる店でして、間口が狭くて見つけにくいし、夕暮れになると、周囲にある敷居の高めな老舗に灯が入ることから、賑やかな人たちが少し離れた別の界隈に流れていくので、遅い時間を選んで入りさえすれば、まず窮屈を感じさせない店でした。とはいえ、なにせ小さ

根なし草の京都

 転勤族の一家に生まれて、あちらこちらで「よそから来た子」をくり返しているうちに、自分にはふるさとと呼べる場所がないことが判明した。ある学校で「ふるさとについて知ろう」と教わったことが、次の学校では誰も知らない、知っていたってしょうがない、無価値な情報になり下がるのも、新しい学校ではみんなが知っていることを、ひとりで覚えていかなくてはいけないのも、とても嫌だった。  どこの方言も身に付かないまま、なんとなく標準語らしき日本語で子ども時代を過ごして、そろそろ進路のこともあるか