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ジェーン・スー『生きるとか死ぬとか父親とか』(2018)

■2021年5月の読書。

■いつも楽しく拝聴しているポットキャスト番組「over the sun」パーソナリティ、ジェーン・スーさんが書いた、主に父親と家族についてのエッセイ。

■まず、構成が良い。「この人はタダモノじゃないな」と予感させるお父さんとのやりとりを綴った面白父娘エッセイなのかと思えば、読み進むにつれて徐々に明らかになる家族の黒歴史。そのクライマックス「小石川の家1・2」は悲しい件だったけれど、それはあくまでも過去のこと。今の二人は前を向いて(という表現はスーさんに似合わないし、過去は現在の一部でもあるため語弊があるが)曲がりなりにも父娘関係を楽しんでいる。その結末が前半から中盤にかけてほのぼのと描かれていたんだと気づいた時、ストーリー構成に唸った。

■お父さん、次は何をしてくれるんだろうという高揚感、お父さん、弱ってきたんじゃないかしらという焦燥感、お父さん、、、やってくれたね、、(涙)の寂寥感はさながら小説を読んでいるかのよう。スーさんのしゃべりはいつ聴いても面白いけれど、文章も本当にいい。知性と感性と言葉がシンクロして、豊かで深い言語表現ができる稀な人。

■星の数ほどある家族。一見幸せそうに見える「普通の」家族にも、大なり小なり問題があって、その問題はその家族当事者たちにしか分からないんだろう。だから、家族の話はそれこそ星の数ほどあり、それぞれの家族に語り継がれるストーリーがあるはずだ。スーさんの家だって「普通な」面もあるだろうし、特殊な部分もあると思うが、お父さんの憎めないキャラクターとスーさんの筆力と家族愛がうまく絡まって、この家族の話を珠玉のものとしている。

■それゆえか、2021年春にテレビ東京においてドラマ化もされている。主演は吉田羊さんと國村隼さん。良い配役だ。放送時間が遅いこともあって今日現在では一話も観ることができていないのが残念だが、ご縁あってスーさんの番組や本に出会えたように、いつか映像でも楽しませてもらうことができる気がする。

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