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超絶オシャレ行為バレちゃった


12月のある日

家族ともども出先から帰ってきた時のこと。

郵便物を確認しにいった母氏が封の開いた封筒を片手に、しかめた顔でやってきた。

「エキノコックスってなんなん?」

あたしは急いで母氏から封筒を取り上げて内容を確認した。


エキノコックス様


令和4年度丸山薫「ランプ・帆・鴎」賞佳作


とあった。


何か賞でも貰うまでは詩作(超絶オシャレ行為)については口外しないようにと決めていた。

それ故に、ついに母氏に物申す時がやってきたのだと勝手にしみじみとしていた。

だんだんと、この「しみじみ」はある種のニヤニヤになってあたしの顔に浮かびあがった。

そんなあたしを母氏が気味悪そうな顔で見つめる。

「ねぇ、なんなん」

母氏の声のトーンが変わった。

それ見ろとばかりに

「賞をもらったんよ」

と答えると

母氏は一段と気味悪そうな顔で

「じゃけ、なんなん」

と問うてきた。

「ちょっと文章書いて、それを送ったら、賞をもらったの!」

とはずむように答えた。

母氏はあたしのニヤニヤの正体が解ったようで

「ふーん。なんの賞なんか知らんけど」

と言った。

「変なペンネームじゃね」

母氏が文句を言ったのはひとつだけ。

それは母氏があたしをとりあえず認めた証なのだろう。

後日、実家に帰った時に家族会議のようなものが開かれた。

賞の贈呈式には行けないとなった。

日程的にも経済的にもきびしかった。


それからは「ココア共和国」の掲載作品を母氏や家族に見せたりするようになった。


2月のある日の昼下がり

バイトから帰って、ひと息ついてるところへインターホンが鳴った。

荷物が届いたのだ。

賞の賞状と副賞、作品集だった。

内容を確認したあたしは、すぐにそれらを写真に収めて仕事中の母氏に送った。

「凄いネ❣」(原文ママ)

と返信がきた。

帰宅した母氏に届いた実物を見せると、人が変わったように写真を撮りはじめた。

家族も作品を読んでくれた。

じーさん(祖父)は「ペンネームは他になかったのか」とも言ったが「はる(あたしのこと)の書いたヤツん中で一番いい」とも言ってくれた。

ちゃんと認められた。


祝ってくれたすべての人に感謝とこれからもお願いしますと言いたい。

あたしがいるだけで誰かが傷つくような

誰かが泣いてるとその涙で育つ花のような

泣いてる誰かにハンカチを差し出せるような


そんな存在になりたい。










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