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心拍数算出法と洞不全症候群

~心拍数の数え方~

 心拍数を一瞬に見抜くコツを知っていますか。自動計測に出力される心拍数をカンニングするのは大いにアリです。ただし、自動計測がないこともあるので自分でも簡単に計測できる方法を伝授します。

まずメモリの話です。通常の心電図だと1メモリが0.04秒、5メモリ=1マス=0.2秒となります(その前提に関しては下記参照)。

心拍数の計測において1番メジャーな方法はおそらく「300÷マス数」です。例えばRR間隔が5マス空いていれば300÷5=60となり、心拍数60bpm(beats per minutes:拍/分)ということです。1マスは0.2秒なので、5マスは1秒です。心拍数は1分間の心拍の 数なので1秒に1回ということは1分間に60回の拍数があるということです。計算が得意ではあれば300÷6.5=46bpmということもすぐに計算できるでしょう。これのメリットは頻拍の計算がしやすいということと、その気になればちょっと細かい数値まで出せるということがあります。一方で徐脈の場合はマス数が数えにくいということと、RR間隔のばらつきがあるとどこをとるかで数値が全然変わってしまうということがあります。

もう一つの計測方法は 「1枚の心電図にあるQRS波の数×6」です。先ほどとは逆で徐脈の場合に力を発揮します。普通の12誘導心電図の1画面は10秒記録されています。つまり、全部の心拍を数えて6をかければ1分間(60秒)の心拍数が出てきます。これだと徐脈の時はむしろ心拍の数は数えやすく、ばらついていても大まかな心拍数は把握することができます。デメリットはあまり正確な数値は出ないことと、頻拍でこれを使うと数えるのが大変ということです。下の図では一連の流れの中でQRS波が12個あるので12×6=72bpmとなります。

~前提として心電図のペーパースピードを知っとくべし~

上記のような計測方法は実は前提があって初めて成り立ちます。心電図にはペーパースピードというものが書かれています。つまり波形を記録するのにどれくらいのスピードで紙を送っているかというものです。通常は心電図の端のどこかに小さく25㎜/s(ミリメートル/秒)と書いてあります。これは1秒に25㎜で紙を送っているという表記であり、1秒に25㎜ということは0.04秒に1㎜で紙を送っているということです。つまり1メモリ=1㎜=40ms(ミリ秒)=0.04s(秒)となっていますす。そして5メモリ分の1マスは0.2秒ですね。12誘導心電図ではほぼすべて25㎜/sですが、ホルター心電図などではたまに半分圧縮させて表記されていることがあります。この前提がまずあって上記の心拍数の計算ができることを頭の片隅に置いておいてください。

また、心電図の記録には四肢誘導と胸部誘導とが連続的に記録されているものと、同期して記録されているものがあります。連続的に記録されたものは左右で違うタイミングの波形となります。同期したものであれば、左右の心電図は同じタイミングの波形を見ています。上記の1枚の心電図の記録に10秒かかっているというのは連続波形の心電図の話になりますので、同期心電図であれば両方足すと数値がずれてしまいます。同期心電図であれば、片側に記録されたQRS数×12をすれば大体の心拍数を確認することが可能です。しかし当然ながら、ずれは大きくなります。



~刺激伝導系とは~

心臓には微弱な電流が流れていて、それによって心臓は興奮 (=収縮)することができます。なので心臓には電気の通り道があり、各所に名前がついています。一番初めの脈のスイッチとなるところが洞結節といいます。続いてそこから出た興奮が両心房に伝わって心房が収縮します。次にその興奮は房室結節という心房と心室をつなぐゲートにたどり着きます。心房と心室の間には房室弁があり、この房室弁は絶縁体のため電気を通しません。つまり、心房の興奮は房室結節を通ってしか心室には伝わりません(房室結節の役割については後述します)。房室結節を通るとヒス束、脚、プルキンエ線維へと興奮が伝わります。この間は高速道路に乗っているようなもので、途中で下車して筋肉を興奮させることはできません。最後のインターチェンジである心室筋にたどり着いて初めて筋肉が収縮します。

~おまけ:房室結節の大事なお仕事~

房室結節はゲートだと説明しました。房室結節の重要な仕事は適切なの興奮を、適切な時間差で伝導させることにあります。例えば、心房細動を起こしていると心房は300bpm以上のレートで細動しているため、それを全部心室に通していたら心室細動になってしまう危険があります。周期が速すぎる心房興奮を心室に通す必要はないので、ある程度の心拍で制限がかかるようになっています。もう一つは心室が拡張する時間を生みだしているということです。心臓に帰ってきた血液は心房から心室に送られ、また心臓から出ていきます。血液をうまく送り出すためには収縮力もそうですが、一度部屋に血液をため込んでから放出するタメの時間も重要です。心房の収縮から心室の収縮までに時間差がなかったら、心室に血液をため込む時間を作れず、から打ちしてしまいます。なので、あえて房室結節の伝導には時間がかかるようにして心室に血液がため込める時間を稼ぐ役割をしています。


 

~洞不全症候群~

洞不全症候群は洞結節の異常です。洞結節は心臓の刺激伝導系の最初のスイッチですので、これが壊れると脈拍が正常に出せなくなり徐脈になります。洞不全症候群にはその病態に応じてはRubensteinらによる分類があります。洞結節の興奮は12誘導心電図では見えませんので、続く心房興奮であるP波があるかないかで代用します。なので洞不全症候群であれば、徐脈になる時も脈が抜ける時もP波ごとなくなるというのが房室ブロックとの鑑別のポイントにもなります。

 

洞不全症候群( Ⅰ型):洞徐脈

P波、QRS波、T波は正常にありますが、ただただ脈が遅い状態です。心拍数は50bpm以下となります。

 

洞不全症候群(Ⅱ型):洞房ブロック洞停止

P波ごと突然脈が脱落する病態です。洞不全症候群Ⅱ型には房室ブロックと洞停止があります。洞房ブロックは整数倍に脱落が見られます。整数倍に一致せずに脱落が見られたら洞停止です。洞房ブロックは洞結節と心房の伝導が障害されている状態、洞停止は洞結節そのものが障害されている状態です。つまり、洞房ブロックは、洞結節は正常ですが洞結節と心房の伝導の異常がその原因なので、PP間隔は整数倍です。一方、洞停止は洞結節そのものが弱っている状態なのでPP間隔も不安定になっています。

 

洞不全症候群(Ⅲ型):徐脈頻脈症候群

徐脈頻脈症候群は何かしらの上室性頻脈の後に突然脈が伸びる状態です。イメージとしては全力疾走した後に突然倒れこんでしまう感じです。頻脈の後に徐脈を起こすため、本当は頻脈徐脈症候群の方が適切に病態を表している気がしますが、日本語では徐脈頻脈と慣習的に呼びます。英語ではどっちもあるようです。頻脈の原因は心房細動や発作性上室頻拍などいろいろです。頻脈発作後に洞停止を伴えばⅢ型の洞不全症候群の診断となります。実際の現場では脈を上げればいいのか下げればいいのかに困り、薬物コントロールも難しい病気です。

~等頻度房室解離~

房室解離=心房と心室の伝導が連動していない状態、室房解離ともいう

房室解離は何らかの理由で上位調律よりも下位調律の心拍数が勝っているために起きます。なので房室解離を起こすのは下にあるように洞不全症候群、あるいは接合部or心室調律/頻拍ということになります。完全房室ブロックは病態として房室は解離している状態ではありますが、他の原因と一線を画すので定義に入れるかどうかは議論の余地があります。等頻度房室解離は心房の調律と心室の調律が解離しているが、ほぼ同頻度で出ている状態を指します。


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