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PQに異常をきたす疾患

問1 27歳女性。基礎心疾患なし。健診の心電図。

最も疑われる病名を一つ選べ。

  1. 1度房室ブロック

  2. WPW症候群

  3. LGL症候群

  4. 脚ブロック

  5. 陳旧性心筋梗塞

 

 







~解答解説~

正解:2

 特に持病のない若年女性です。リズムに乱れなどはなく、一見するとP、QRS、T波にも大きな以上はなさそうにも見えるかもしれません。よく見ると典型的なデルタ波を認め、典型的なWPW症候群の心電図です。

~WPW症候群~

 WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群は心房と心室の間に余計な電気回路を持つ病気です。これを副伝導路と言います。本来、心房と心室の間は刺激伝導系である房室結節を介してでしか興奮を伝えることができません。しかしWPW症候群の人は、心房と心室の間に副伝導路を持ってしまうために、房室結節を通らずとも心室が興奮できてしまいます。副伝導路にもいくつかの種類はありますが、特に心房と心室の副伝導路をケント束といい、このケント束があるものをWPW症候群といいます。

~副伝導路について~

 ケント束とは心房と心室をつなぐ副伝導路のことです。本来心房と心室は房室結節でしかつながっておらず、両者の間には絶縁体である房室弁が存在します。しかし、ケント束は生まれつき心房と心室をつなぐ余計な回路ができてしまっている状態です。実はケント束以外にもジェームズ束やマハイム束といった副伝導路も存在します。ケント束には順行伝導(心房→心室)、逆行伝導(心室→心房)がありますが、順行伝導のみということは通常ないといわれていますので、逆行伝導のみか両方向性に伝導できるもののどちらかということになります。順行伝導があれば房室結節以外から心室が興奮するので、QRSの立ち上がりが通常よりも早くなり、結果としてPQ間隔が短縮します。そしてその結果としてデルタ波が形成されます。


デルタ波の存在を確認できるWPW症候群を顕性WPW症候群といいます。一方、逆行伝導のみのケント束の場合、心房から心室に興奮することがないのでデルタ波は形成されません。これを潜在性WPW症候群といいます。逆行性伝導のみのケント束は、普通の体表12誘導心電図では見つけられません。

~WPW症候群で起きうる頻拍~

ケント束のせいで起きる頻拍には3種類あります。オルソドロミック房室回帰頻拍(AVRT)、アンチドロミックAVRT、pre-excited AF (atrial fibrillation)です。このうち、アンチドロミックAVRTとpre-excited AFはケント束と順行伝導する必要があります。

 

 オルソドロミックAVRTは房室結節を順行伝導し、ケント束を逆行伝導することで回路を形成します。順行伝導が刺激伝導系を通るため、波形としてはナローQRS波形を呈します。上室頻拍との鑑別が必要です。アンチドロミックAVRTはケント束順行伝導し、房室結節を逆行伝導することで回路を形成します。順行伝導がケント束のため、ケント束の心室束付着部位から興奮します。つまり、波形としてはワイドQRS波形となり、心室頻拍との鑑別が必要になります。

Pre-excited AFは慣習的に偽性心室頻拍(pseudoVT)といわれているものです。pseudoVTは和製英語であり、海外では通用しません。順行伝導を有するケント束を持っている人に、心房細動が合併すると起こります。心房細動のレートは300bpmよりも早く、有効な拍出にはならず震えているだけ(=細動)の状態となっています。これを全部心室に通していると危険なために、房室結節には一定のレート以上の興奮は心室に伝わらないようにセーフティとしての機能を持っています。これを減衰伝導といいます。ケント束はこの減衰伝導特性を持っていないため、受けた興奮をそのままトンネルのように心室に伝えてしまいます。なので波形が心室頻拍や心室細動と間違えることもありますし、そのまま本物の心室細動の原因となることがあります。

問2 35歳女性。基礎心疾患なし、健診異常で受診した。


正しい病名を一つ選べ。

  1. WPW症候群タイプA

  2. WPW症候群タイプ

  3. WPW症候群タイプC

  4. 完全左脚ブロック

  5. 固有心室調律

 






 

~解答解説~

正解:3

ワイドQRS波を認めます。心室調律や脚ブロックは鑑別には上がりますが、よく見るとPQの短縮とデルタ波を認めますので、WPW症候群と考えます。V4-6がデルタ波を確認しやすいですので、確認しておいてください。次にV1を確認するとQS波形であり、WPW症候群タイプCを疑います。タイプCは中隔のケント束によってV1でQS波形となります。ちなみにⅡ、Ⅲ、aVfで全部陰性のデルタ波のため、後中隔ケントの存在が示唆されます。

WPW症候群のタイプとケント束付着部位~

ケント束はその心房と心室の伝導をつなぐトンネルであるということから、房室弁輪に付着するのが常です。房室弁には右房と右室の間にある三尖弁と左房と左室の間になる僧帽弁があります。そして左右の部屋の間には中隔が存在します。これらのどこにケント束があるかは波形やデルタ波の極性をみて判断します。

よくみるシェーマだと、心室は左右に並んでいます。しかし、これだとケント束の付着部位を理解するには、逆に難しくなってしまいます。実際、右心系と左心系は前後の関係になっているので、前から三尖弁⇒中隔⇒僧帽弁輪の順に並びます。

僧帽弁輪に付着するケント束をWPW症候群タイプA、三尖弁輪に付着するケント束をWPW症候群タイプB、中隔に付着するケント束をWPW症候群タイプCといいます。これらを見分けるにはまず、V1の波形を確認します。タイプAはV1でR>S、タイプBはV1でrS、タイプCはV1でQSとなります。V1は体の前面から見た誘導であり、通常の房室結節を伝導した場合はrS波形となります。これはV1から見ると中隔を通る興奮が向かってくる興奮としてrで確認され、心室自体の興奮が離れていく興奮としてS波で確認されます。タイプAの場合、V1から見ると奥から向かってくるように興奮が見えるため、V1でR波が高くなります。タイプBの場合ちょっとだけこちらに向かう興奮もありますが、基本的に心室興奮は手前から離れていく方向のため、rS波形となります。タイプCの場合、ケント束によって中隔の興奮が飛ばされてしまうために、本来あるはずのrをスキップしてしまい、QSとなります。

さらにそのそれぞれのタイプにおいて上の方か下の方かそれ以外かまでデルタ波の極性を見れば判断できます。デルタ波はP波の終わりから20ms後ろの部分で判定します。上がっているなら陽性、下がっているなら陰性、変化がないあるいは上下にぶれて戻っているならプラスマイナスです。

V1の波形を確認してタイプがわかったら、Ⅱ、Ⅲ、aVfを確認します。Ⅱ、Ⅲ、aVfは体の下に向かって陽性となる誘導です。つまり、これらが陽性であれば上から下に心室が興奮するということであり、ケント付着部位が弁輪の前壁側であるといえます。逆に考えればⅡ、Ⅲ、aVfが陰性であった場合は下から上に心室が興奮するということであり、ケント付着部位が弁輪の後壁側であるといえます。Ⅱ、Ⅲ、aVfの誘導がバラバラであれば、そのどちらでもない、高さとして真ん中くらいにあるケント束ということになります。大事なことは弁輪の前後壁側とは体の上下であるということです。体でいう前後とは中隔側と側壁(自由壁側)を分けるものになります。これを理解しないと体の前と前壁がごちゃごちゃになってしまいます。

 最後に後壁のケント束を疑った場合にはⅡ誘導を確認してください。これがQS波形であればケント束は心外膜側(冠静脈洞)にあることが疑われます。なぜならⅡ誘導という一番心臓の興奮伝播に一致した誘導において全く陽性成分が出ないということは、普通のケント束の興奮ではありえないからです。


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Dr. 藤澤
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