VRChat「イベント」について調べてみた


まえがき

2021年、Facebook社が名前をmetaに改名しました
このニュースは国内でも大きく取り上げられ、「メタバース」という言葉が国内でも多く使われたように思います。

Googleトレンドで「メタバース」の人気度の推移

しかし、実際に社会にメタバースは普及したのでしょうか。そもそも、「メタバース」という言葉自体を聞く頻度が下がってきているのではないでしょうか。

しかし、一方でメタバースと呼ぶこともできる分野の中には、人々が集まり続けている営みが存在するのではないかと注目した物がありました。

それは、VRChat中で連日行われる「イベント」です。

VRChatの説明は省きますが、環境があれば、無料でプレイができる仮想空間を提供するサービスの一つです。

4年前のビデオですが、公式の映像があったので掲載します。

これもメタバースの一つとも言えるのではないでしょうか。(VRChatは「メタバース」とは言っていませんが…)

仮想空間という、物理的、地理的、金銭的な制約が少ないVRChatの世界で、ユーザーは「イベント」という形で文化を作り出してきました。

「イベント」という文化を創造している人々は、「何を背景に」「どんな目的で」実施しておられるのでしょうか。
それを知ることで、今後の人々が楽しめる、より多くの人を惹きつける仮想空間の将来像を考えることができるのではないでしょうか。
こうした背景から、アンケートをお取りし、調査を行いました。

概要

調査の概要は以下となります。

調査期間
2023年10月10日〜11月10日

調査方法
回答方法…Googleフォームを使用したオンラインでの調査紙記入
標本抽出法…スノーボールサンプリング(有意抽出法の一つ)
Twitter ,Discordを用いて回答の呼びかけを行い、人伝てに調査の拡散を実施

当時の回答を呼びかけるツイート

調査対象
VRChat ユーザー、特にVRChat における「イベントの開催経験」を持つユーザー
(VRChat イベントカレンダーにおいては、約4000 名程度)

調査項目

調査項目は大きく2つに分けて作成しました。
前半では、回答者が主催しているイベントについてご回答頂きました。

後半は、イベント主催に至った背景についてお伺いしています。
なお、こちらの設問はイベントの主催経験がない方も回答頂きましたので、後ほど比較も行います。

サークル仮想現実経済研究所さんが実施した、VRSNSを対象とした調査票
企画者の属性、企画内容を調査する設問(⾦⼦ほか, 2011, pp. 12‒13)
イベントにおける「6W2H」の概念(イベント学会, 2008, p. 14)
イベントの分類(イベント学会, 2008, pp. 204‒208)を元に設問を作成しております。

定義

まずは、この文章中での「メタバース」の定義について整理します。

  1. 「インターネット上」で展開されること

  2. 物理法則、⼈種、性別を超え「現実世界にとらわれない表現」が可能であること

  3. 他の参加者とコミュニケーション(交流)や⽂化的活動を⾏うこと

以上の事項を踏まえて、「インターネット上で展開される、現実世界の制約にとらわれない表現を可能とし、利⽤者同⼠でコミュニケーションや⽂化的活動を⾏う仮想現実空間」と定義しています。

次に「イベント」についても同様に整理したいと思います。
そもそも「イベント」自体が、その主催者・参加者・⽬的・内容・規模・波及効果など、千差万別です。(イベント⽤語辞典編纂委員会, 1999, p. 3)

  1. イベント学のすすめ(イベント学会,2008, p. 2)
    ⾮⽇常的な情報環境を計画的に作ることで、⼈々により強烈な⼼理的効果を与える⼈間の営み

  2. イベント⽤語辞典(イベント⽤語辞典編纂委員会, 1999, p. 2)
    ある⽬的を達成するための⼿段

  3. デジタル⼤辞泉(⼩学館, ⽇付なし)
    出来事。催し物。⾏事。

これらから、この文章では「イベント」を「ある⽬的を達成するための⼿段としての⾏事」と定義しています。

調査結果-イベントについて

回答数

アンケート全体で合計413 件、人数として399名のご回答を頂きました。

さらに、イベントの主催経験のある方においてはQ14.の通り、複数件の回答をお寄せいただいた方もおられました。

結果として、回答人数の内訳は以下の通りとなります。

イベント主催経験なし…258 名
主催経験あり・1件回答…128名
主催経験あり・2件回答…12名
主催経験あり・3件回答…1名
合計 … 399名

イベントの初開催時期

まず、イベントを初開催した時期についてです。
年を追うごとに新規開催のイベントが増加していることがわかります。
各月ともイベントが初開催されていますが、4月~10月頃に初開催されたイベントが多いです。

開始時間

21時、22時に開始しているイベントが圧倒的に多いです。
少なくとも、イベントを主催するにあたって、この時間帯を選択していることが分かります。
また、30分始まりのイベントが少ないことも併せて分かります。

イベントの開催時間

イベントの開催時間は1時間、長くとも2、3時間に収まっているものが大半です。
前項と併せて、夜21時、22時頃から1〜2時間ほど実施するイベントが多いことが分かります。

イベントの目的

次に、イベントの目的についてお聞きしました。

大きな目的として、交流に重きを置いたイベントが多いことがまず挙げられます。また、興行や販売促進といった目的も一定数存在することも併せて分かります。

その他欄では、

更に、詳細を自由記述頂きました。
こちらの欄で多く現れた単語は以下のとおりです。

また、言葉のつながりを図式化(共起ネットワーク図)すると以下のようになります。

以上から、

  • 趣味で交流する

  • アバターを改変する、見る

  • DJイベント、音楽を楽しむ

  • 友人を増やす

  • VRCで場を提供する

と言ったところが大きく当てはまるのではないでしょうか。

他の展開

では、前項の目的を果たすために他の手段が行われているのではないでしょうか。
自由記述いただき、該当する語を含むイベントの数を集計しました。

右の語群を含んでいると、頻度が1追加されます。

まずは宣伝、続いてDiscordとTwitterが、イベントと並行して実施されていることがわかります。

イベントのみで終わらず、中長期的に参加者や外部の方とコミュニケーションを図っていることが分かります。

調査結果-背景について

次に、イベント開催に至るまでの背景についてお伺いしたセクションです。

主催のきっかけ

どのようなきっかけから、イベントの主催に至ったのでしょうか。
こちらも自由記述いただいた文章から、出現回数の多い単語と、言葉のつながりを抜き出しています。

頻出単語上位50位
言葉のつながりを図式化したもの(共起ネットワーク図)

以上の項目をまとめると、

  • 触発された

  • 居場所を作る

  • 当時に無いもの

  • アバター改変

といった事項が大きく挙げられるのではないでしょうか。
「無いから作る」という精神や、触発されることが、イベントを生み出していくと考察することができます。

年代

圧倒的に2、30代、それに加えて10代が多いです。
VR機器やPCの購入など、仮想空間に関心を持ち実際に行動に移す人が若年層に集中していることが分かります。

VRChatを始めた時期

年を追うごとに、VRChatを始める人が増加していることがわかります。
そして、イベント開催するまでには、初プレイから最短で2ヶ月~半年くらいのプレイ時間を要しています。
ただ、こちらの結果はVRChatのプレイを止めてしまったユーザーは回答していないと考えられるため、生存者バイアスがかかっているかと思います。

VRChatのプレイ目的

参考に、バーチャル美少女ねむ様のソーシャルVR国勢調査の数値を入れております。

イベントの開催経験のある方とない方で、あまり大きな違いは見られません。

今までに遊んだゲーム

VR空間の中で過ごしている人たちは、どのようなゲーム遍歴を辿ってVRChatにたどり着いたのでしょうか。

上表からわかるように、過去にMMORPGゲームやマインクラフトなど、VRChat以前から仮想空間や、オンラインでのコミュニケーションに慣れ親しんだ方が多いです。

現実世界でのイベント開催経験

VRChatでイベントを開催している人は、現実世界でも同じように何かイベントを開催しているのか、こちらについてもお聞きしました。

個人的には一番驚いた回答でした。回答者全体では「VRChatでイベントを開催している人」より「現実空間でイベントを開催している人」の方が人数が多かったです。

なお、現実空間で開催しているイベントは、大きく分けて以下のような事例が挙げられます。

  • サークル

  • 社内イベント

  • 趣味のイベント(ゲーム、コスプレ、サバゲー、TRPG)

  • 社内外の交流

趣味に加えて、職業に関わるイベントが多いのは現実空間と仮想空間(VRChat)の違いではないでしょうか。

VRChatでイベントを実施するメリット・デメリット

次に、VRChatでイベントを開催するにあたって感じているメリットとデメリットについてお伺いしています。

自由解答欄

選択肢の中で一番多く選択された(複数選択可)ものは、「地理的制約にとらわれない」でした。少し差が開きますが、次いで費用が少ないことも理由として挙げられます。選択肢の集計だけで見ると、「何ができる」という観点より、「制約が少ない環境である」点がまずメリットとして挙がっているように見受けられます。

デメリットに関しては、

  • 参加するための環境構築

  • 人数制限

  • 荒らし

などが挙がりました。

イベントの定義

この文章の初めの方で「イベント」について定義しておりました。
その上で、実の所VRChatのユーザーはどこから「イベント」として認識しているのか調べてみました。

人によってイベントと認識する基準は様々ですが、上記の回答を見ると

  • イベントカレンダーに登録されている

  • 事前に日時が決まっているもの

  • 不特定多数との交流があるもの

はイベントとして認識している方が多かったです。

分析まとめ

アンケートを通じて以下のことを把握することができました。

  • ユーザー層が10~30代が大半

  • 過去にMMORPG等で仮想空間、オンラインでのコミュニケーションに慣れ親しんでいる

  • 現実世界でイベントを開催していることと、仮想空間でイベントを開いているとは限らない

  • イベント数が年々増加している

  • 交流・コミュニケーションがイベントの主目的

  • 余暇に共通の趣味や属性で繋がりを求める場

これらは、VRChatをプレイする中で当たり前に感じることかも知れませんが、アンケートを通じてが改めて可視化できたのではないでしょうか。

謝辞

貴重なお時間をいただきアンケートにご回答くださった方々に、心から感謝申し上げます。

結果の公表を、大変お待たせしてしまい申し訳ございませんでした…

ご質問、ご意見がございましたらえびてふ( @ebtf_ )までお申し付けください。

参考文献

Nem x Mila (2021) 「ソーシャルVR 国勢調査2021」 https://note.com/nemchan_nel/n/ne0ebf797984c
イベント学会 (2008) 『イベント学のすすめ』 ぎょうせい
イベント⽤語辞典編纂委員会 (1999) 『イベント⽤語辞典』 社団法⼈⽇本イベント産業振興協会
⼩学館 (⽇付なし) 「イベント(event)の意味 - goo 国語辞書. デジタル⼤辞泉」 https://dictionary.goo.ne.jp/word/イベント/#jn-14769
⾦⼦慶太 ・ 伊藤孝紀 ・ 堀越哲美 (2011) 「市⺠主体イベントの特徴とまちづくりへの展開に関する研究 : ⼤ナゴヤ・ユニバーシティー・ネットワークを事例として」『デザイン学研究』 58(4), pp. 11‒20.


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