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〇『オール・ン・オール(太陽神)』研究

〇『オール・ン・オール(太陽神)』研究

【Studying “All ‘N All”】

研究。

(本作・本文は約5500字。「黙読」ゆっくり1分500字、「速読」1分1000字換算すると、11分から5分半。いわゆる「音読」(アナウンサー1分300字)だと19分くらいの至福のひと時です。ただしリンク記事を読んだり、音源などを聴きますと、もう少しさらに長いお時間楽しめます。お楽しみください)

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〇『オール・ン・オール(太陽神)』研究

【Studying “All ‘N All”】

研究。

現在2020年12月27日(日)まで代官山ヒルサイド・フォーラムで行われている世界的イラストレーター長岡秀星の『長岡秀星回顧展 SPACE FANTASY 透明な宇宙を求めて』の展示作の中で額装されもっとも大きい作品がアース・ウィンド&ファイアーのアルバム『オール・ン・オール(邦題、太陽神)』(1977年)の原画だ。この原画は横幅約190センチ、縦60センチというレコード・ジャケットの倍以上の大きさがある。

この中に描かれている物が様々なのだが、そうしたものを描いてほしいというモーリス・ホワイト自身の手書きによるメモ用紙もアルバム原画の隣に額装されている。この手描きのメモ書きがアルバム・ジャケットの秘密を探るのに大変参考になるので、これを元にこの原画が持つ秘密、意味、解釈をちょっとトライしてみようと思う。(ま、ほんとは、レコード出た40年前にやれって話ですが(笑))また、マークと解説、あるいは解釈などが違っていたりする可能性もあるので、そのあたりに詳しい方でここが違っているということがありましたら、いつでもお知らせください。修正します。

題して『太陽神』研究。

01 オール・ン・オールに描かれている物

原画の右横に展示されているモーリスと長岡さんのメモ書き。モーリスが描いてほしい10の物などを書いている。その文字、単語を描きとってみた。

長岡秀星 マーク memo  額装

1. The Caduceus
2. Abraxas
3. Isis
4. The Egyptian Sphinx
5. Musical Instruments
6. Buddah
7. Rocket’s, Air Craft
8. Angels, etc
9. Christianity
Roman Catholic
10. Picture Of Shakespear

ここでは便宜上、レコード・ジャケットでは裏面、展示されている原画では向かって左側半分に描かれている12のものに、左から順番に1から12までの数字を打つ。それらの12のものが何かを見てみよう。

ここでは頭にI(image)をつける。まだ確信がもてないところは、?をつけた。もし、何かこのあたりに詳しい方がいらしたらぜひ情報をおよせください。ツイッター、あるいは、メールなどでどうぞ。

左側
I 1 ジュピター(木星)のマーク
I 2 上記1のカドゥケウス ?
I 3 ブッダ
I 4 イシス?
I 5 アンク― Ankh or key of life 人生・命あるいは キリスト教の平和 エジプト十字、「アンク」(2020年12月26日13時追記、情報提供・北川様、ありがとうございます) 
I 6 ユダヤ教のマーク
センター
右側
I 7 ユダヤ教の食事を捧げるもの
I 8 ホルスの目の左目「ウジャトの目」 (2020年12月26日13時追記、情報提供・北川様、ありがとうございます)
I 9 シェイクスピア
I10 キリスト教の十字架
I11 2のアブラクサス?
I12 楽器、カリンバとラジオ?


1.カドゥケウス ケーリュケイオン The Caduceus 伝令使の杖

長岡秀星 マーク2  へびつかい

ギリシア神話における神々の伝令であるヘルメースの持物である。柄に2匹の蛇が巻きついている杖であり、その頭にはしばしばヘルメースの翼が飾られる。この棒は眠っている人を目覚めさせ、目覚めている人を眠りにいざなうと言われる。死にゆく人に用いれば穏やかになり、死せる人に用いれば生き返るという[4]魔法の杖

2 アブラクサス

長岡秀星 マーク 4 鳥・火もみたいの

選ばれし者を天国に連れて行く存在である。365の天界を支配し、頭部が鶏またはライオン、胴体がヒト、脚が蛇で、鞭と盾とを持つ。

3.イシス

外見は、トビあるいは、背中にトビの翼を持った女性として表される。後にハトホルに代わって信仰を集めるようになると頭部に牛の角と太陽円盤を持った女性としても表されるようになる。

長岡秀星 マーク 11 へびつかい?

4. エジプトのスフィンクス

5. 音楽・楽器

長岡秀星 マーク 12 楽器


 ここでは、モーリスがこの頃すっかり気に入っていた指ピアノ、カリンバが描かれる。下はラジオのようにも見える。

6. ブッダ

長岡秀星 マーク 3 ブッダ

7. ロケットと飛行機

未来を象徴するロケットと飛行機。

8. エンジェル(天使)
 これは長岡さんがほぼ完成させたあと、エンジェルを描いてくれと言われ、追記したという。描かれたエンジェルは、黒人とも白人とも東洋人ともとれる、人種がよくわからない感じで描かれている。モーリスは黒人、長岡は日本人(東洋人)、レコード会社の担当アート・ディレクター、リチャード・カーペンターは白人。そこでどのようなエンジェルを描くべきかなかなか話がまとまらなかったようで、その結果中庸的なこのようなエンジェルになってしまった、と長岡さんは述懐している。しかし、その結果、このエンジェルは前述の通り、黒人でもなく、白人でもなく、東洋人でもなく、それでいて黒人でもあり、白人でもあり、東洋人でもあるというエンジェルになった。それは今でこそ、多様性などが盛んに語られるが、1977年の時点でそうした多様性を象徴的に描いたことになった。ずいぶんと時代を先取りしたとも、今になってからでは何とでもいえる。

9.クリスチャニティー キリスト教
  ローマン・カソリック

長岡秀星 マーク 10 十字架

 これはまさに十字架。

10. シェイクスピアの顔

長岡秀星 マーク 9 しぇいくすぴあ

 1564年4月16日~1616年4月23日。イギリスの劇作家、作家。多くの作品を残したが、四代悲劇、『ハムレット』『マクベス』『オセロ』『リア王』のほか、喜劇、史劇など発表した。シェイクスピアは様々な人間の姿、本性を抉り出し、描いた。人間のさまざまなドロドロな部分も含めた人間の本性の象徴なのかもしれない。

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1ドル札。

1から10までの項目の上部にピラミッドとその上部に目が描かれている部分があり、その横に「1ドル札」と書いてある。ジャケット(原画)でも、左側上部にピラミッドと目が描かれている。これは1ドル札と同じ衣装。

これは、プロヴィデンスの目、というもの。

プロヴィデンスの目(プロヴィデンスのめ、英: Eye of Providence)とは、目が描かれたキリスト教における意匠。プロヴィデンスはキリスト教の摂理という意味で、神の全能の目(英: all-seeing eye of God)を意味する。光背や、三位一体の象徴である三角形としばしば組み合わせて用いられる。

1935年に採用されたアメリカ合衆国の1ドル紙幣。国章の裏面がデザインとして使われている。ラテン語で、右の白頭鷲の下部に「多くのものから一つに」、左の未完成のピラミッドの上部に「神は我々の企てを支持される」、下部に「時代の新しい秩序」とローマ数字で「MDCCLXXVI」(1776)と書かれている。

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ブログ 長岡秀星 アース オールんおーる中ジャケ

(原画・全体像、1ドル札部分は左上、エンジェルは稲妻の両脇)


長岡秀星 太陽神 1ドル札

(1ドル札)

「1ドル札」はアメリカがこの時期(1977年)経済的にイケイケの上り調子だったこともあり、経済、お金の象徴でもある。しかし、そこに描かれる目は、お金至上主義、物質主義への警告と本質的なものを見ることを促しているようにも思える。1ドル札が1935年にできたときに、その古代の教えのピラミッドの中の「目」をデザインにいれていたことは、なかなかの慧眼のようだ。そして、それをこのジャケット画の中に一見1ドル札とは思えないようにいれこんだ。まさに「アース(地)」の時代を象徴するものだ。

(上記、1,2、3と1ドル札の各項目の簡単な解説は、ウィキから引用しました)


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2.12のシンボル・マーク

長岡秀星 マーク1 ジュピター

見開き画、一番左の柱に乗っているマークI1 はジュピター(木星)。このシンボル・マークは神の稲妻を記号化したもの。ギリシャ語でゼウスの頭文字からローマ人がつけたものだという。

アースたちは、ジュピターが好きで、この時期、グループのシンボル・マーク的にこのジュピター・マークを扱い、さらに、「ジュピター」という楽曲を録音、このアルバム『オール・ン・オール』に収録している。


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筒(柱)の上にさまざまな物が乗っている前に、聖書のような古書(聖典、あるいは聖書か)が広げて置かれている。両ページの段落の頭(4か所)の大文字は、EWAFである。ご存じの通り、Earth, Wind, And Fireの頭文字だ。さすがにその下の本文の文字は小さくて読めないのだが…。

長岡さんはこの『太陽神』のテーマを「時の流れ」と「人間の情熱」、全体的に漂う雰囲気は東洋的な感覚で言えば「無常観」とでもいうものです。それを古代エジプト調でイラストして欲しいという注文で描いた、という。

左側のさまざまな宗教が入り乱れ、いろいろな人種が集まる。そこには天国と地獄、悲劇と喜劇(シェイクスピア)、人間のさまざまな所業、愛、憎しみ、夢、裏切り、怨念などを含めた人間の情念、情熱が描かれる。そうしたものがどろどろと渦巻く地球という星。そこから飛び出ていく飛行機、あるいは飛行船、ロケット。そしてこの宇宙にある聖典は「アース・ウィンド&ファイアー」。ひょっとしたら、何百年か何千年後かに地球以外の宇宙人が惑星地球を訪れたとき、その地球とはどんな星だったかを紐解く資料として、この『オール・ン・オール』が描く一枚の絵は、さまざまなヒントを与える一枚になるのではないだろうか。エジプトのピラミッドに描かれた象形文字や絵を、我々が何千年後かに読み解こうとするように。

そして、長岡さんはこの壮大な作品にちょっとした遊び心を交えた。地・風・火を名前としているグループで、東洋的思想にも傾注していたことから、象形文字で「風林火山」という漢字を紛れ込ませたのだ。長い間それは誰にも気づかれなかったので、本人がインタヴューなどで語るようになった。

長岡秀星 風林火山 テレビから

(左から三つ目の枠の上に風、すぐその右となりに林、その右横に火、その右横少し下に山、が見えます)

3.『アイ・アム(黙示録)』

長岡秀星 ジャケット写真 アイアム 表 

(『アイ・アム(黙示録)』ジャケット)

そして、この路線は一枚ベストを挟んだアースの次作『アイ・アム(黙示録)』のイラスト画につながっていく。今回は残念ながら『アイ・アム』の表の原画は手元にないために展示できなかったが、裏側(中側)の縦位置のメンバーのイラストが描かれている原画は展示されている。これは石の門の上に太陽が輝き、その中に生まれたばかりか生まれる胎児と老人とみられる影が映っている。ジャケット左側(表4)では、バビロンの門、そして、遠くに燃えるニューヨーク・摩天楼が描かれている。バビロンは4000年以上前に栄えた古代バビロニア帝国の中心地で、バビロンが崩壊していくときに市民がその門から逃げていくというシーンを描いている。バビロンの終焉、燃え上がるニューヨーク、空に浮かぶ飛行機か宇宙船、あるいはUFO、難破する大型帆船。

長岡氏は、これについて次のように語っている。

テーマは「星」、「明けの明星」つまり「救世主」を表している。モーリスから前作から連続したものをという注文。地球が存在する以前から、存在しなくなる遥か後までを一枚の絵に描きこんだ。ローマ帝国の滅亡の姿、中世の連合艦隊、現代の罪深きニューヨーク、原爆、それに未来都市と、それらをひっくるめて全世界の終末があって、その中から新しい生命が復活するというのがこの作品のテーマ。星の中に創生主としての胎児が描かれているのは、新世界の到来を掲示するためなのです。そしてその星そのものは女性器をも表しています。

まさにこれも地球と人類の過去・現在・未来を描いているわけだ。

そして、一点、燃えるニューヨークについて、2004年のインタヴューで「これはひょっとしたら2001年の911テロを示唆したものかもしれない」と言っている。これにはさすがに鳥肌が立った。(恐怖を感じた)

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4. 過去・現在・未来

原画右(ジャケット表面=表1にあたる)のピラミッドとその下に描かれる守り神らと、原画左半分(レコード・ジャケット裏面=表4にあたる。広げた場合左側)のロケットが飛ぶ未来都市は実に過去と未来を描いている象徴的な絵だ。

長岡秀星 ジャケット写真 オールンオール中ジャケ見開き

これが描かれた1977年は、映画『スター・ウォーズ』の大ヒットもあり、世界的に宇宙への目、耳が向いていた。もちろんそれは1960年代後期からのアメリカ・ソ連の宇宙戦争に端を発しているが、いずれにせよ、一般市民レヴェルで宇宙への関心がたいへん高まっていた時期だ。ここで描かれる飛行機は、普通のジェット機のようにも見えるが、ひょっとするとスペースエアシップのイメージもあったのかもしれない。

人類発祥の地と目されるエジプトから、2000年後くらいの超未来都市のイメージ。そしてこの未来都市のイメージが、最近の映画『ブラック・パンサー』の舞台となった「ワカンダ共和国」のイメージと重なる。

それにしても、人類、地球、宇宙の歴史、時間軸を1枚の絵にこれだけ描きこむ長岡秀星。本当に恐るべしだ。100年後、いや1000年後にも鑑賞に堪えうる時間を超越した作品だ。こういう時空を超えたような作品の前に立つと、人間の一生なんてせいぜい100年。短くはかないものだなあ、と思わされるものだ。

つまり、モーリス/秀星の作品は、あなたを宇宙旅行、そして、地球旅行に連れて行き、しかもタイム・トラヴェルにも連れて行ってくれるのだ。


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■長岡秀星展は、2020年12月27日(日)まで

回顧展詳細

タイトル:長岡秀星回顧展 スペース・ファンタジー~透明な宇宙を求めて~
会期 2020年12月8日(火曜)~12月27日(月)11時~20時(会期中無休)
会場 代官山ヒルサイドフォーラム
東京都渋谷区猿楽町18-8 ヒルサイドテラスF棟
主催・企画: 長岡秀星回顧展実行委員会
協力: 長岡徳子、株式会社なかはら、Hillside Terrace

公式ウェブサイト
www.bsfuji.tv

https://www.bsfuji.tv/shusei_nagaoka/
入場料:
【当日】 一般1,700円/大高生1,400円/中小生800円
入場チケットについては特設サイトにて。



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