あとがき

ショートショートを書いてそれぞれの話の後に「こんなことが書きたかった」ということを書いているんだけど、まとめて書いたほうが見やすいので「あとがき」を設けることにした。
では、さっそく。

「カミングアウト」はいきなりの定石外しで、人間ではなくカマキリの家族の話だったというオチ。人間である私からすると、夫を食べたりとか生まれてきた子どもに自分を食べさせるとか、アルゼンチンアリみたいに全てのコロニーが繋がって一つの集団になるとか、虫の家族形態ってヤバイんですよ。その面白さを知って欲しくて書いたというのもあります。

「ダメな母親」は『子供のために汗水垂らす母親のどこがダメなのか?』という疑問が終盤に繋がる構成。
最初は『似た者夫婦』という言葉から話を作り始めて、ギャンブル好きな夫を好きになるダメンズな妻っていうオチにした。

「書き入れ時」は老人を狙った特殊詐欺の話。
これを書いている時はは2017年の夏ということもあって、お坊さんが詐欺師だったら面白いんじゃないかと思って作り始めた。前もどこかで書いたかもしれないけど、私は「救いのない話」が好きなので、公的機関も同じ穴のムジナであるというオチにした。お年寄りを大切にして欲しいという願いも込めて書いた。

「あさましテレビ」は前々から思っていたワイドショーのサイコパスな感じを全面に押し出した話。それは具体的に言うと「人が死んだニュースの後に何でお前ら笑ってんだよ」というモヤモヤ感であって。
朝井リョウさんが世にも奇妙な物語をもじっていたから、私もめざましテレビをもじることにした。(家族が朝見るものだし)
浅ましいテレビとのダブルミーニングね。

「幽霊の落し物」は部活あるあるをもとにした話。
母親が父親のほうのシャツのタグに父親の名前を書いたんだけど、それでも主人公が間違えて来てしまって、そのシャツを忘れたところ、部活には存在しない人間のシャツっていう。それで父親の名前と歴代校長の名前が同じだったというオチにした。

「家族の風景」は飲酒運転の車と事故って、一瞬で家族が崩壊するという話。
あまりにも救いがないから公共広告というオチにした。また、病院でのリハビリというのも家族の形だよなぁと思って場面を設定した。
タイトルはスーパーバタードックの名曲から。

「勇者の遺言書」は最初の設定と真逆の内容となったもの。
当初は犬神家のテイストで盗賊団の遺産争いを書いたんだけど、それって当たり前というか、ギャップがないから勇者の後継者争いに舵を切った。
それによって弟が光魔法で父親を生き返らせるギミックが生まれたんだけど、結局弟には死んでもらうことに…
でも、弁護士に呪いをかけたのも弟なんですけどね。そこを書かなかったのはテンポ感がなくなるのもあったけど、死人に口無しっていう意味もあったりして。

「口ぐせ」は子育てしてる方の目線で書いたもの。
どこからそんな言葉を覚えたのか?
その理由が「自分たちには見えないもの」にあるという作品はだいたいファンタジーに多いじゃないですか? ピターパンとか。それを仏壇にするだけでホラーにできるという発見ですよね。
関係ないけど、映画の「呪怨」で仏壇に女の子を引きずりこむシーンあったけど、あれ爆笑シーンだと思うんですよ。
そこかーい!って。笑

「理想の父親」は伏線回収型を意識した構図。休みが取れない人のためにサイトを作るんだけど、自分の職場の人間が休めないのは主人公にあるっていう。
社会問題を話に組み込む目線はずっとあって、身近な問題ほど当たり前になって違和感を持たなくなると思うんですよ。だから一人称の視点でそれを書くことで仕事に没入してる感じを出そうと思った。
早い話が効率的にするほど非効率になるって本末転倒じゃんって話。

「注文の多い母親」は宮沢賢治さんに犠牲になってもらった話。
私はあまりセリフだけで埋め尽くされた小説ってそんなに好きじゃないんですけど、一定のスピードで読み進めるためにはテンポ感は大事じゃないですか。
そこでありふれた日常的な会話をテンプレートに敷きつつ、そこから逸脱していくという流れにしたんです。
このオチって、端的に昔の言葉で言えば「鬼婆」ですけど描いたのは「毒親」です。父親が子どもを救えないっていうシーンで洗脳を暗喩しました。伝わってなければ自分のせいですね。
「ちょっと何で母親なのよ!」と思われるかもしれませんが、家庭内暴力って体罰だけではなくて精神的な束縛も含まれるんです。だから殴る蹴るだと逆にチープに見えるし、問題が深まらないと思ってこういう設定にしました。
宮沢賢治さんごめんなさい。

「ヒーロー」は素性の分からない人間が持て囃されてるSNSから着想を得たもの。トリック自体は画像の並び替えという古典的なものだから書いていてどうなんだろうと考えたんだけど、昨今の炎上商法というか、問題を起こすYouTuberって思考能力が稚拙じゃないですか。アイスケースに入ったりとかおでん突いたりとか。だから難しいことをするほうが違和感があって、手の届く範囲のことのほうが自然だと判断しました。

「マネーゲーム」はいつの間にか増えてるイベントと搾取されていく老人を描いたら面白いんじゃないかと思って、見切り発車で書きました。
短編集的には特殊詐欺というのが概出なんですけど、このお爺ちゃんは孫との時間を金で買うというキャバクラ的な性愛があるんです。そこに絶望を与えるためにいち早く訪れた反抗期の芽生えをオチにしました。ただシステムに従うだけの愚かさみたいなものも感じ取ってもらえたらと思います。

「姥捨山」

私が初めて姥捨山を知ったのは「まんが日本昔ばなし」で、次にパロディを知ったのは老婆役の志村けんさんがいかりやさんに捨てられるんだけど、いかりやさんより早く走って家に帰るっていうドリフのコントでした。

「家族」縛りでショートショートを書くにあたって、姥捨山をどうやったら面白くできるかを考えたんです。その結果が「ゾンビ災害」という壮大なスケールの話で、まぁ頭の中では映画化されて今もロングランなんですけどね。

『お年寄りはたくさんのことを知っているから大切にしなさい』って言われた時に真っ先に思い浮かぶ主語って『生活の知恵』じゃないですか。そこを掘り下げると自然災害に対するアンサーのほうが腑に落ちたんです。さらに広げてゾンビモノにした時に、死者が徘徊することでやせた土地が緑に覆われる光景が頭に浮かんだんです。農業ってある意味「輪廻転成」だからありだと思ったんです。
最後のオチなんですけど昔話のテンプレートって『幸せに暮らしましたとさ』じゃないですか?
だから慰霊碑を立てて山の名前を変えておしまい!チャン♪チャン♪ってできないこともなかったんですけど、さっきも書いたように頭の中には映画ができてしまったからそこで終わりにできなくて。
実は銃で村を守っていたのはおばさんが山中で保護した女の子だったというエピソードをどうしても入れたくなってしまったのでした。
読者に対する問いかけとしては、「続編のあるショートショートってショートショートなんですか?」でしょうね。
私はショートショートだと思いません。(じゃあダメじゃん!)

以上であとがきは終了です。
なんとなく作るにしてもちゃんと意味を込めないと面白くなりませんから、自分の思考回路の履歴としてあとがきは重要ですね。(将棋の感想戦みたいな)
どうせ誰も読んでくれないと思いますが読んでくれてありがとうございました。(毒)

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