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花火、したいな





拝啓〇〇様



お元気ですか?

あなたが私の前から姿を消してもうすぐ1年が経とうとしています

1ヶ月ごとに送っている手紙も12回目です

〇〇くんの実家に送っているけど見てくれているのかな

私の誕生日に置き手紙だけ置いて家から出ていき、今頃何してるのでしょう

私のことが嫌いになっちゃったのかな

他に好きな人ができて付き合ってるのかな

それでも私は応援するけどね





なんて強がってるけど私には到底そんなことできないな

ねぇ〇〇くん、会いたいよ




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彼と出会ったのは高校生の頃だった

スタイルが抜群にいいわけでもない

顔も世間が言うイケメンとは少し離れている

でも、優しさのオーラに満ち溢れている彼に一目惚れをしていた




そんな中私は、クラスの雰囲気に馴染めず不登校気味になっていた

新しいクラスになって1ヶ月で派閥ができていて私の居場所はどこにもなかったから

でも、彼を見たい、彼に会いたいと思う気持ちが強くなればなるほどそれだけで学校に行く動機は十分だった







夏休み前最後の登校日

高校生活も残り1年を切っているというのに私はまだ青春ぽいことをしたことが無い




先:明日から夏休みに入る訳だけど、くれぐれも警察のお世話にだけはならないようにね

はーい

先:あ、後みんなは受験が控えてるんだから体調にも気をつけて

はーい

先:じゃあみんな、夏休み明け元気で会いましょう

さようなら




最後のホームルームが終わり、生徒が下校を始める

いつもなら誰よりも早く帰っている私だけど今日は違う

今日は彼に伝えたいことがあるから



彼が教室を出るタイミングで私も出ようと思っていたのに今日に限って彼は教室に残っている

先生もいなくなって教室には私と彼の2人だけ

とても気まづい



「あ、あ、あのっ!」

声が裏返ってしまった最悪だ

彼は驚いた表情で私の方を振り向く

『えっと〜森田さん…だよね?』

「は、はい!」
わ、私の名前を知ってくれている…?
嘘だそんなはずないこれは夢…これは夢…

『いきなりどうしたの?』

「あ、えっ…こ、今度の夏祭り、一緒に行きませんか…?」

『あっもうそんな時期か』
『いいよ、一緒に行こっか』

「えっ、い、いいんですか…?」

『もちろん、自分特に一緒に行く人いなかったし笑』

予想外の返答すぎて言葉が出ない
私となんて一言も話したことがないのに快く受け入れてくれるなんて思ってもなかった

「あっ、じ、じゃあ当日お願いします…」

『待って、連絡先交換しない?待ち合わせ場所とか決めないとだし』

「あ、あぁたしかに…」

『LINEかインスタやってる?』

「インスタはやってないです…LINEなら…」

『ほんと?一緒だ笑インスタって難しそうじゃん?』

勝手にインスタやってると思ってた
しかも全く同じ理由

「わ、わかります笑」

『てかさ、敬語やめにしない?同級生なんだし』

「わ、わかりまs…わかった」

『それでよしっ笑じゃあそろそろ帰ろっか』
『良かったら一緒に帰る?』

「へっ??じ、じゃあお言葉に甘えて…」


一緒に帰ると言ってもせいぜい学校近くの最寄り駅までだろうと思っていたのに家からの最寄り駅まで一緒だったことを初めて知ったのはこの日だった




それからというものLINEで会話をしていくにつれて私の彼への感情は大きくなるばかり
彼と会うことは出来なくても通話するだけで幸せだった







そして迎えた夏祭り当日
この祭りでは花火が上がる
20時から花火が始まるのに合わせて18時に待ち合わせの約束をした
人生で1度も来たことの無い浴衣まで着て浮かれ気分


18時のサイレンが鳴る
彼は待ち合わせ場所に来ない
ふとスマホを見ると彼から連絡が入っていた


『ごめん!ちょっと遅れる!!』


彼は時間にルーズな方らしくそれくらい仕方ないと思っていた

しかしいつまで経っても来る気配がない
花火まで残り30分になってしまった
1時間半も同じ場所に突っ立っているなんて傍から見たら変な人だ
すると後ろから声をかけられた

ねえねえ、あなた森田さんよね?

声の方へ振り向くと見覚えのある顔だった
彼がよく学校で話している女の子3人組

「は、はい…?」ピコン

森田さん、今日〇〇と待ち合わせしてるんでしょ?

「な、なんでそれを…」

だって本人から聞いたもん笑
〇〇は来ないよ

「えっ、な、なんで」

だってずっと愚痴ってくるもん笑
『森田って奴と祭り行くんだけどさやっぱめんどくせえ笑』
『あいつLINE超しつこい笑』
『ぶっちしてやろうかな笑』
って笑

彼がそんなことするはずない
そう思いたかった
でも、彼女たちはLINEのトーク履歴を見せながら話してきたから信じるしか無かった

「うそ……」

嘘じゃないじゃーん笑証拠あるんだし
まっいつまで待ってても来ないから早く帰りな?笑

私は何も言い返せずその場に立ち尽くすしかなかった




信じたくない
ただその思いだけで待っていても来なかった


気づけば花火が始まっていた
周りの人達は喋っているはずなのに花火は大きな音で打ち上がっているはずなのに何も聞こえなかった




花火も全て打ち上がると同時に空から小さな雨粒がぽつぽつと落ちてきて大きな雨粒に変化していった
周りの人は大慌てで自分たちの家に帰っている
私は何もすることもできない
雨だけのせいなのだろうか今日のための化粧も全て台無し
すると周りの人達の中から逆走してくる1人の男の子がいた
何かを叫んでいる

『……!!…る…ん!!』

『ひかるちゃん!!』

その声の正体は紛れもなく彼の声だった

『ひかるちゃん!!ほんとにごめん…』
『一旦雨宿りしよっ』

「来ないって言ってたじゃん…」

『えっ?』

「全部聞いたよ」
「仲のいい女の子たちに私の事愚痴って今日ぶっちするって」

『そんなこと言ってない!』

「言ってたの!証拠も見たし…」

『待って誰からその話聞いた…?』

「△△さん達」

『僕、あの子たちと連絡先1つも交換してない』
『証拠あるよ』
彼はLINEの友達欄やブロック欄を全て見せてきた
そこに彼女の名前はなかった


「じゃあどういうこと…全部嘘ってこと…?」

『多分そういう事』
『だってあの子たちあんまり得意じゃないし』

「わ、私それで勘違いして…〇〇くんに酷いこと言っちゃって…」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

彼はいきなり私のことを包み込んだ

『ひかるちゃんは悪くない』
『僕が遅れなければよかっただけだし』

「で、でも私は〇〇くんのこと信じれなかった…」

『だから、ひかるちゃんは悪くないから』
『こっちこそごめん』

「う、うわーん泣」

私は彼の胸の中で泣き叫んだ
泣きつかれるまで泣いた


気づけば雨は上がって朝日が昇りかけていた
いつの間にか眠ってしまってたみたい

『あ、起きた?おはよ』

「えっ、私寝てた…?」

『うん笑』

「ほんとごめん…」

『全然いいよ』
『あのさ、伝えたいことあるんだけどいい?』

「なに?」

『僕、ひかるちゃんのことが好き』
『付き合ってください』

「な、なんで急に」

『実はさ、元々ひかるちゃんに一目惚れしてさ、それから通話とかしていくうちにもっと好きになった…って感じかな…』

「わ、私も〇〇くんのことが好きです」
「よ、よろしくお願いします」

『はぁよかった笑めっちゃ緊張した笑』

「私も笑」
「あ、花火見たかったな…」

『じゃあ花火買って公園でする?』

「するっ」

私たちはびしょ濡れのまま手を繋ぎ公園に向かった

『あ、そう言えば僕もうすぐ着くって送信してたんだけど気づいた…?』

「えっ!ほんとだごめん…」

『全然いいよ笑』


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「はぁ…懐かしいなぁ」

手紙を封筒に入れ宛名を書き、家の近くにあるポストに投函しに行こうと準備をしているとインターホンが鳴った

「こんな時間に誰だろ」
「えっ」
インターホンのカメラに映っていたのは彼の母だった
返事をして鍵を開け、扉を開ける

「お、お久しぶりです…」

会釈をする流れで目線を下げるとそこには車椅子に座っている彼がいた

「えっ、な、なんで…」

ここからはお2人にお任せします

そう言い残しお母さんはその場を去る

『久しぶりっ』
彼は前と変わらない笑顔で私に話しかける

「久しぶり…」
「な、なんで車椅子なの…?」

『まずは、何も言わずに家出ていってごめん』
『で、これはバチが当たったのかな』
『あの日、実は事故にあってさ起きたら病院のベットの上だったんだ』

「……」

『で、先生から命が助かったこと自体奇跡だって言われて』
『今は何とか歩けるように頑張ってる感じ笑』

「なんで…なんで言ってくれなかったの…」

『ごめん…あの時の僕どうかしてた』
『色んな嫌なことが重なりすぎて誰にも頼りたくなくて…』

「色々言いたいことはあるけど、とりあえず生きててくれてよかった…」
「大好き」

『ほんとごめんね』
『僕も大好きだよ』

「そういえばさ、今日何の日か覚えてる?」

『なんの日だっけ……』

「7月10日、彼女の誕生日も忘れるなんて」

『あっ、今日10日か9日だと勘違いしてた……ごめん』
『何でもするから許して』

「ん〜じゃあ結婚しよ」

『け、結婚?!』

「結婚したらいつまでも〇〇の隣にいれるし…」

『こんな状態だからめっちゃ迷惑かけるけどいい?』

「覚悟は出来てる」

『遅刻とかしちゃうかもだけどいい?』

「当たり前じゃん」

『わかった』
『じゃあもう1回僕からプロポーズさせて?』



森田ひかるさん、僕と結婚してください



「はいっお願いします」



「あっ、もう一個だけお願いしてもいい?」

『んー?』

「花火…したいなって」

『うわっ!花火懐かしい~』
『あの日結局2人とも風邪ひいて出来なかったよね笑』

「そうそう笑」

『じゃあ今回こそはしよっか』

「うんっ!」


















『ひかるちゃん』

「ん〜?」

『僕、ひかるちゃんに出会えて幸せだったよ』

「私も幸せだよ」

『最期のお別れがこんなベットの上なんて嫌だけど笑』

「仕方ないよ、〇〇は頑張った」

『今言うの遅いと思うけどあの時毎月くれてた手紙、今でも読んでるよ』

「もう、遅すぎるよ笑でもありがと」

『はあ〜死ぬのやだな〜笑』

『僕がいなくなっても幸せでいてね』

「うん、頑張って自分なりに幸せ見つける」

『もう無理そう…』

『どこかでまた会おうねおやすみ』

「うんまたどこかでおやすみ」



『あ、あと最後にお誕生日おめでとう』

「…ありがと」







深夜に降っていた大雨は嘘かのように止み朝日が彼の体を照らす

静かな病室には心肺停止を知らせるモニターの音と何も気にせず進んでいく秒針の音だけ
彼の心臓の音はもう聞こえない

ナースコールを押し、看護師さんを待つだけの時間はとても長く感じる







「もう少しだけ待っててね」
「私もそっちに行くから」
























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