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『Allman Brothers Band』アルバム全曲解説

オールマン・ブラザーズ・バンドの『Allman Brothers Band』を1曲ずつ解説します。『Allman Brothers Band』は1969年に発表された彼らのデビューアルバムです。発売当初はビルボード188位とセールス的に奮いませんでしたが、ローリングストーン誌では「一貫して精緻、誠実、そして感動的」、オールミュージックでは「アメリカのブルースバンドのデビューアルバムとしては史上最高かもしれない」と高い評価を受けました。

後にこのアルバムと、次のアルバム『Idlewild South』を組み合わせ『Beginnings』というタイトルの編集盤が作られ、そこでは当初のプロデューサーのエイドリアン・バーバーによりミックスされた音源(本人達は気に入ってなかった)ではなく、トム・ダウドによりリミックスされたものが収録されています。オリジナルのミックスと『Beginnings』でのミックスとの比較もします。

私の持っているものは1975年の再発版でした。クレジットにトム・ダウドの名前はありませんでしたが、聴いてみるとミックスはトム・ダウドの『Biginnings』バージョンでした。1973年の『Biginnings』以降は全てトム・ダウドのバージョンに差し替えられているようです。

アルバムのクレジットはこの通りです。

Duane Allman - lead, slide & acoustic guitars
Gregory Allman - organ & vocals
Dick Betts - lead guitar
Berry Oakley - bass
Butch Trucks - drums, timbales & mascaras
Jai Johanny Johannson - dums & congas


ギターとドラムが2人ずついますが、おそらく基本的に、ギターは左チャンネルがデュアン、右がディッキー、ドラムは左がジェイモー(Jai Johanny Johanson)、右がブッチのものだと思われます。客席から見たライブの並びと同じになっています。

1. Don't want you no more

1曲目はスペンサー・デイヴィス・グループのカバーです。原曲には歌詞がありますが、このバージョンではインストゥルメンタルとなっており、カバーですが、テーマ部を除き、他の部分は全く違うアレンジになっています。元々はディッキーとベリーが組んでいたthe Second Comingというバンドのレパートリーの1曲でした。テーマのフレーズを2度繰り返したあと、リズムを変えてグレッグのオルガンソロに入ります、オルガンソロの後ろでは、左チャンネルのジェイモーは16ビートでハイハットを叩き始めます。オーバーダビングされているコンガもジェイモーの演奏です。その後再びシャッフルビートに戻りデュアンのギターソロになります。その後ディッキーのソロが終わると、そのままメドレーで次の曲に移ります。2:12にはディッキーのギターのミスがあります。

2. It's not my cross to bear

この曲はグレッグ作のオリジナルです。彼がステイシーという名の元ガールフレンドに向けて書いた曲です。前曲からメドレーで続けて、デュアンのギターから始まります。このアルバムのボーカルは全てエルヴィス・プレスリーの「Heartbreak Hotel」と同じセッティングで録られていますが、グレッグ自身はそれを気に入ってないようです。ギターソロは1つめがデュアン、2つめがディッキーです。オリジナルのミックスでは1度フェードアウトした後にもう一度戻ってきて終わりますが、『Beginnings』のミックスでは少し遅めにフェードアウトし、そのまま戻らずに終わります。

3. Black hearted woman

前曲と同じくステイシーに向けて書かれたオリジナル曲です。この曲はシングルとしてリリースされました。ここでも左チャンネルのギターがデュアン、右がディッキーと思われます。そしてジェイモーは左チャンネルでコンガとライドシンバルを叩いています。グレッグのボーカルに絡みつくように呼応するギターは右チャンネルにオーバーダビングされていますが、おそらくデュアンの演奏です。(歌詞の間で呼応するギターは、マッスルショールズでのセッションギタリスト時代の参加曲から『Layla and the other assorted love songs』の中でも聴けるデュアンのお得意なので)そのギターがそのままソロも弾いています。クレジットには書かれていませんが、ファンサイトでのブッチのQ&Aによると、ドラムのブレイクのあとのチャントではメンバー全員が歌っているようです。そしてチャントの後で、ベリーが笑っている声が削除されずそのままになっています。エンディングではシャッフルのリズムになり、5本ほど重ねられたリードギターと共にフェードアウトします。『Beginnings』のミックスでは左右のギターのチャンネルが何故か入れ替えられています。

4. Trouble no more

この曲はマディ・ウォーターズのカバーです。原曲はシンプルでストレートなシカゴ・ブルースですが、2つのリードギターとドラム、軽く歪んだベース、グレッグの勢いのある声によって重厚なサウンドになっています。彼らは結成最初のリハーサルでもこの曲を演奏しました。スライドギター、アコースティックギターは両方デュアンによる演奏です。ディッキーはスタジオでの録音は初めてでしたが、デュアンはセッションギタリストとして経験を積んでいたので、マイクで直接音を拾うアコースティックギターを録ることにも慣れていました。最初のギターソロはディッキーのものですが、何故か所々オーバーダビングで同じものを弾いているギターが左チャンネルに補足されています。その後歌を挟んで、次はデュアンがスライドギターでソロを取ります。後にスライドの名手として有名になるデュアンですが、音源としてデュアンのスライドギターが収録されるのはこの曲が最初です。デュアンのソロが終わると、ベリー、ディッキー、デュアン、ドラム2人の順番で短いソロを回します。デビュー50周年を記念してリリースされたベスト盤『Trouble no more : 50th Anniversary Collection』ではこの曲のデモ音源を聴くことが出来ます。曲の構成は既に完成していますが、デモ音源のボーカルは、完成版に比べると単調で物足りないです。

5. Every hungy woman

「Black hearted woman」のシングルのB面に収録されている、グレッグのオリジナルです。またまたステイシーについての曲です。この曲はオーバーダビングされたデュアンのスライドから始まります。他の曲に同じく左チャンネルはデュアン、右はディッキーですが、真ん中のチャンネルには冒頭のスライド、左チャンネルには過度に歪んだバッキングがオーバーダビングされています。ジェイモーはこの曲ではコンガに専念しています。間奏ではディッキー、デュアンの順番で短いソロを2回ずつ弾き、その後2人でハモります。この曲も何故か『Beginnings』のバージョンでは基本のギターが左右入れ替えられています。アルバム全体的にオリジナルのバージョンではディッキーのものに比べてデュアンのギターは少し遠くで鳴っている印象がありますが、『Beginnings』のミックスでは2人のギターの音量バランスが等しく整えられています。

6. Dreams

グレッグによって書かれた初期オールマン・ブラザーズ・バンドの人気曲です。ジェイモーはジャズ出身のドラマーで、デュアンもマイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンが好きでした。この曲ではバンドのジャズからの影響が濃く現れています。彼らのドラムはブッチがリズムを保ち、ジェイモーが装飾を与えると表現されますが、この曲ではジェイモーの装飾の役割がわかりやすく活きています。ドラムのフレーズはマイルス・デイヴィスの「All blues」でジミー・コブが叩いているものからの引用です。冒頭はオルガン、ベース、ドラムのバッキングの楽器だけで始まりますが、ギターが加わり、グレッグが夢の崩壊について歌い始めます。1番が終わるとデュアンによる3分間に及ぶ長尺のギターソロが始まります。デュアンは最初は普通にギターを弾いていますが、3:10からスライドギターに切り替えます。この曲はデュアンがオープンEではなくスタンダードチューニングでスライドを弾いている唯一のスタジオ音源だと思われます。コード進行が無い中での、終わりが見えない長尺のソロは、まさにマイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンを連想させます。このアルバムは1969年8月の録音ですが、同年4月に録音されたこの曲のデモ音源が、1989年に発売されたベスト盤『Dreams』に収録されています。デモのバージョンでは曲の大枠は定まってますが、ジェイモーがコンガを叩いていたり、ディッキーがワウペダルを用いたバッキングを弾いていたりする違いがあります。演奏は完成版と比べると酷いです。

7. Whipping post

アルバム最後の曲もグレッグ作です。解散までずっとライブで演奏され続けていた代表曲です。ライブではしょっちゅう20分ほどの長尺になります。イントロはベリーの考えた11/4?11/8?のリズムのベースリフから始まり、ギター、ドラム、オルガンが加わっていきます。歌が始まるとリズムは12/8になり、ある女性に奴隷のように扱われる不満を歌うグレッグの歌詞には、俳句を連想させるようなリズム感があるような気がします。他に同じく左チャンネルのギターがデュアンで右がディッキーですが、"tied to the whippin' post"の繰り返しの部分では右チャンネルにもう1本のギターが追加されています。最初はデュアンがソロを取ります。そして歌を挟み次はディッキーがソロを弾きます。ソロが終わると全員がユニゾンで音を上昇させた後1度演奏が止まり、盛り上がりはそのままでテンポを落として、歌が戻ってきます。そして真ん中のチャンネルにオーバーダビングされたブッチによるティンバレスの連打と共に不気味にフェードアウトして終わります。『Beginnings』のミックスではフェードアウトせずに最後の音の反響音と共に終わります。

終わり

次回は2枚目のアルバム『Idlewild South』の解説をします。


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