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詩:絶望する自分のコメディショー
彼は絶望していた
何に絶望していたかは分からない
彼はうろたえ わめき 部屋のものを投げつけ
自分がいかにつまらない人間なのか
自分に向かって訴えていた
そんな自己破滅的な 衝動が収まると
彼はソファーに座りテレビジョンをつけた
テレビには自分が映っていた
さっきまでの自分だ
部屋のものを投げつけ 自分を罵っていた
そのたびに聴衆たちは大きな笑い声をあげた
つられて彼もそんな
詩:ニュース in 真夜中
夜、家に帰ってきて部屋着に着替える
リビングのライトをつけるのすら煩わしい
ソファにどかっと座り、テレビのスイッチを入れる
ニュース番組がやっている(なぜこんな遅くに?)
アナウンサーが泣きながら、何かを訴えている
だけど、なにを言っているのか聞こえない
ボリュームを最大限にしてもテレビから声は聞こえない
アナウンサーは泣きながら、何かを訴えている
テレビをつけたまま冷凍庫からチョ
詩:高速道路で霊柩車を走らせる
気がつくと高速道路で霊柩車を走らせていた
つぎつぎと車を追い抜いていく
行先はわからない
本能のようなものが「もっと早く」と叫び それに従う
後ろから笑い声が聞こえる
バックミラーを見ても誰もいない
笑い声はより一層大きくなり、車体が揺れる
「おそらく」
男は思った
「おそらく遺体が笑っているのだ」
笑い声はどんどん大きくなり
手で耳をふさがなければいけないくらいになる
「
詩:ともだちとあそぼう
くるまのこない道路で
ともだちたちみんなと
ボール遊びをしたり
チョークで絵を描いたり
水風船をぶつけあったりした
みんなは「すぐもどるよ」といってどこかに行った
みんなが戻ってくるまで
仕方ないからチョークで絵を描いた
しばらくたって
名前を呼ばれてふりむくと
知らない大人の人たちが立っていた
大人の人たちは「ぼくらはわたしのともだちだ」と言った
あなたたちなんてしらない
詩:オムライスなら無限に食える
オムライスなら無限に食える
と豪語している知人がいた
そう?とわたしは言った
それはすごいね
その人は首を振った
別に自慢じゃないんだ
これは呪いなんだ
呪い?
そうなんだ
その日のランチ、わたしとその人はオムライスを食べに行った
「完璧なオムライス」と言いたくなるようなオムライスがテーブルに置かれた。もしプラトンが言うようにイデア界というものがあるのなら、オムライスのイデアは
詩:『家の扉』と『右足の小指の爪の先』を取引する
あなたは扉のない家の壁を夢中で叩きつづける
名も知らぬわが子の名前を呼び続ける
どれくらいの間 叫び 壁を叩き続けたのだろう
ふと横を向くと黒いスーツ姿の男がこちらを見ている
「どうしようもありませんよ。扉がないんですから」
男は言った
「でも、わたしの子供が家の中にいるんです」
男はなにもかも承知しています、という風にうなづき、
あなたに名刺を渡した
「わたしは悪魔です。お望みで
詩:家に入る扉がない
ここはどこだろう
別荘のような家々があちこちにある
多分 避暑地として使われているリゾートなのだろう
葉の青い香りを肺いっぱいに吸い込む
確かな幸福の実在感をボールのように弄ぶ
とても素敵な一軒の家を見つける
それはあなたのための家なのだ
あなたは鼻歌を歌いながら家に近づく
家からは赤ん坊の泣く声が聞こえる
それはあなたの子供だ
早くあやしてやらなければ
そう思い小走りする
詩:うずくまって愛してるという人
あなたは 純粋な、肉体をもたない『視点』となって
夜の街のなかを浮かんでいる
フワフワ浮かんでいるあなたはある部屋に迷い込む
ライトのついていない暗い部屋の中で、体育座りをしているひとがいる
aishiteru アイシテル あいしてる アイシテル 愛してるaishiteru アイシテル あいしてる アイシテル 愛してるaishiteru アイシテル あいしてる アイシテル 愛してるaish
詩:保湿クリーム [こころ用]
風のなかのほこり
ほこりの中には無数のナイフ
髪の毛の大きさくらい
だからみんな気が付かない
無数の切り傷と
「カサカサ」に乾燥しているの自分のこころの表面を
そんなときにはこのクリームを塗るといい
使い始めたばかりだけど悪くないよ
主な成分はセラミドとあたたかさとユーモアって書いてあるね
試供品を持っているから ひとつあげるよ
たっぷりこころに塗るといい
クリームがこころに
詩:コップの中の緑色の液
テーブルの上にコップが置いてある
コップには緑の液体が入っている
浄化されていない 汚染された 汚濁した 液体だ
立ち上がればテーブルの裏にひざが当たって
この緑色の液体はこぼれてしまうだろう
テーブルの向こうには
窓の向こうには
電車にいままさに乗ろうとしている人たちの中に
「あなた」というまぼろしが見える
立ち上がって 手を振りたい
立ち上がって 抱きしめたい
でも…
日記:悪夢を1000円で買った
休日いつものように公園のベンチで天使と話していた
ぼくも天使もやることがないのだ
「〇〇さん、悪夢を買ってみませんか?」
「悪夢?買わないよ、そんなの」
「悪くありませんよ。お金を払ってわざわざホラー映画とか気分の良くないものを観るでしょう?それと同じです」
「その悪夢は誰のものなの?」
「いまは天界が管理しているのですが、もともとは地上の誰かが見ていたものを天使が『収穫』したんです」
詩:永遠にはじまらない旅
小さなアパートの一室
そこには池があってボートが浮かんでいる
(なんでこんな狭い部屋に池なんかが?)
ボートには中年を少し過ぎた男が座っている
あなたはこう話しかける
「こんなところにボートを浮かべて何をしているんですか?」
男はこう答える
「待ってるのさ」
何を?とあなたは聞こうとするが声が出ない
その代わり「それじゃ、また」と言う
男は待っていた
旅がはじまるのを
男は
詩:人差し指で火を灯せる青年の話
天使に聞いた話
ある街で暮らしている若い男がいる
その街は郊外にあり、近くにはショッピングモールや公園しかない
子どもをもった家族とかであればいい環境なのかもしれない
青年が好んだのは映画と絵画だった
彼が都会に住んでいるときには
空いた時間があれば映画館か展覧会に足を運んでいた
ミニシアターも美術館もないこの街は
青年にぴったりの環境とはいえなかった
一年、二年とそこでの生活が
日記:拳銃を構えた男の銅像を救う話
ぼくの住んでいる街には「拳銃を構えた男の銅像」がある
それは銅像のタイトルであり、銅像のあり方そのものでもある
銅像とはいえ拳銃を構えている人間を街のモニュメントにするなんて明らかに悪趣味だと思う
最近、ある事件が起こった
銅像の前でひとりの人が倒れ、亡くなってしまったのだ
死因は不明、外傷も持病もなく、それほど年も取っていない
「銅像が撃ったのだ」
と街ではうわさになった
事件の
詩:自分を嫌うたびに美しくなるひと
昔の知り合いの話
わたしの知り合いに「恐ろしく」美しい人がいた
そしてどんどん美しくなっていった
その人は自分を嫌うたびにその美しさが増すのだ、と言っていった
その人と初めて会ってから、最後に顔を合わせるまでに
たぶんその人は当初の三倍くらい美しくなっていた
その輝きで多くの人を魅了し、好かれた
だけどその人は愛されてはいなかった
その人のこころはいくら水を注ごうともどうしようもな