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液体ヘリウムの超流動について

EaRuです。今回は液体ヘリウムの超流動現象について解説していきたいと思います。なぜこの現象が起きてしまうのか、深堀りしていきます。

        Ⅰ 超流動現象とは何か?                    
超流動とは、超低温状態で液体のヘリウムの流動性がとてつもなく高まり、容器の壁面などを伝って外にあふれ出たり、原子一個がかろうじて通れるほどの隙間に液体ヘリウムが浸透していく、という大変変わった現象のことを指します。この状態の時のヘリウムは粘性係数(流体の粘り気の度合いを表した数値)がほぼ0になります。つまり極限の”さらさら”状態だということです。こんな特異的な性質を持つ液体ヘリウムですが、実はその他にも様々な興味深い現象を引き起こします。
 ちなみに、超流動現象でもう一つ有名なものとして水銀の電気抵抗実験というのがあります。水銀の温度を極低温(4.2K)まで低下させると、それまで緩やかに低下していた電気抵抗値が一気に0になるという現象です。これについては、電子が超流動を起こしていると捉えることができます。(下図)


温度変化に伴う水銀の電気抵抗率の変化を表したグラフ(引用元;産総研)


次の章からは、前者の液体ヘリウムに焦点を当てて詳しく説明していきます。            



       Ⅱ 液体ヘリウムが引き起こす現象                         液体ヘリウムが引き起こす代表的な現象は、やはり”液体ヘリウムの壁面よじ登り現象”でしょう。例えば液体をガラスコップに入れたとするとガラスを構成している分子と液体分子の間で引力が働き、ガラスコップの内側の表面に薄い水膜ができます。そしてその水膜がガラスコップの外側まで連なっていたとしましょう。普通はそういう状況下でも、普通は液体とガラスの間に摩擦力が生じて液体自体が外に漏れだすことはないのです。しかし液体ヘリウムの場合、粘性というものが存在しないため、なんとガラスの壁面をよじ登って液体がコップの外側に漏れ出すのです。(勿論漏れ出す量は超微量のため肉眼では確認できません)                            
 

          ⅲ 超流動のメカニズム
 では、なぜこのような特異的な現象が起こるのでしょうか?
 まず、この現象を理解するにはフェルミ粒子とボース粒子について知る必要があります。ヘリウムの同位体でいくと、フェルミ粒子は構成する原子数が奇数なのでヘリウム3はフェルミに分類されます。一方、ボース粒子は偶数個で構成されているのでヘリウム4はボース粒子です。この二つの種類の粒子の最大の違いは、パウリの排他原理が成立するかしないかです。パウリの排他原理とは、二つ以上のフェルミ粒子は同一の量子状態を占めることが出来ないという原理の事を指します。つまり、フェルミ粒子は同じエネルギー準位(力学で言う位置エネルギーと捉えて)に二つまでしか粒子を入れることが出来ないが、ボース粒子は同一準位に何個でも粒子を入れることが出来るということです。
 次に、この二種類の粒子を極低温にしていく事を考えてみます。もちろん低温にしていくにつれ粒子は種類関係なしにエネルギーが減少してエネルギー準位が低いほうに構成している原子が密集し始めます。この時、フェルミ粒子は先ほど言ったとおり、1つの準位に2原子しか入ることが出来ないため、基本的には複数の粒子が同一のエネルギーを持つことはないのですが、ボース粒子は複数の構成原子が同準位になることが出来るため、低温状態のボース粒子は全ての構成原子が同準位な状態、と解釈することが出来ます。  そうなると、ボース粒子においてボース、アインシュタイン凝縮と言われる現象が起きます。この現象が超流動の大きな要因となります。これは、原子が低温に晒されることにより原子同士の距離が短く、かつ原子同士の物質波の波長がほぼ同位相になることにより多数の原子が一つの波動の振る舞いをするという現象です。こうなる事で、液体ヘリウムは一体となって流動性が向上(ヘリウム自体の振る舞いが流暢になる)するのです。
      Ⅳ 一つの矛盾 ~準粒子の存在~
 昔の科学者達は超流動現象というものは本当に起こりうるものなのか、という疑問を抱きながら液体ヘリウムを使い様々な実験を行いました。そして前にも言いましたがその多くの実験の結果からようやく超流動ヘリウムには摩擦力が存在しないという事が分かったのです。しかし、ここで一つ科学者を悩ませた疑問がありました。
 それはある科学者が行った実験の中で、相転移を起こした液体ヘリウム、そしてもちろんその中に存在している物質には摩擦力が存在しないことが分かっているのに、その液体ヘリウムの中を移動する物質に摩擦熱が生じてしまっていたということです。摩擦による抵抗が存在しないにも関わらずその物質で確かに摩擦熱が観測されたのです。
 この矛盾を解決するために、科学者たちはある仮説を立てました。それは、‘‘準粒子の存在‘‘です。準粒子とは、簡潔に言うと架空の粒子です。というのも、粒子性が存在してなおかつ古典物理学で証明不可能な現象が起きた時にその原因は準粒子である、と定義することによってその現象を量子物理学の観点から容易に説明するのに都合が良くなるのです。ちなみにこの準粒子という考え方はかなり幅広く応用がききます。
 そしてその準粒子という考え方を導入することによって、「準粒子の作用により液体ヘリウム中の摩擦を打ち消している可能性がある」というかなり有力な結論を導き出すことが出来たのです。

このように、ヘリウムはかなり物質の中でも特異的な存在なのです。ヘリウムという物質をさらに研究することによって、今後私たちの生活に大いに貢献する可能性もかなりあります。本当に科学は面白いですね。

ここまで読んでくださりありがとうございました💦


表現など、参考にさせてもらった記事
東京大学 低温科学研究センター (u-tokyo.ac.jp
 https://nazology.net/archives/69642



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