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編集したら、俺じゃない。

プロフィールにある通り、後藤明生の生誕90年の記念に、実家で見つけた生前の文学論講義のテープをネット公開の後、CDリリースしようと言う目的で、このnoteを始めました。多数あるテープの中から録音状態、講義内容などを比較検討して谷崎潤一郎作『吉野葛』を論じた回を選び、制作を進めています。CDには約60分しか収録できませんが、講義は120分前後に渡ります。2枚組にすると言うのも、現実的に予算の都合もありますし、元々公開用に録音されたものではなく、勿論編集されているわけでもないので、音声の途切れ、雑音、聴講者の声が中途半端に入るなど問題が多い。何とか自力で編集してみるかとチャレンジしたりを経て、あれこれと考えた末今回は思い切って前半の約60分のみを収録することにしました。この決断は、まさに「後藤明生らしさ」がそうさせたものです。
 後藤明生の文体の大きな特徴が、いわゆる『アミダクジ式』というものです。視点や状況がいつの間にか転移、飛躍したり、派生したりを繰り返し、ふと本題に戻り、バラバラなパズルがなんとなく形を成す。とでも言うような、現代のネット検索をアナログで実践していたかのような父独特のワザですが、講義でもそのアミダクジ論法を展開しているのです。テキストについて語りながら、つい何かをきっかけに話は脱線する。しかし、この脱線が実に面白く興味深いのがくせものであります。正直、どこをカットすれば良いかわかりません。ああ、また本題からずれた、と気づきながらもついつい聴きこんでしまう、そしてその脱線を含めて講義が成立している。脱線の道筋がなければ、本題を語る意義が無い。近道を選ぶなら、聴く必要さえない。後藤明生マジック全開です。講義の要約だけを意識して編集すれば、全部を1枚に収められたかもしれません。しかし、それは、ショートケーキの苺を床に落とすようなものではなかろうか?と思い至った次第です。
講義の後半部分については、いずれ公開する機会があれば着手したいと思います。
 音声の公開日は未定ですが、後藤明生の没後の肉声公開は初となると思います。お楽しみに!

CDのジャケットデザインは、ドナルド・フェイゲンの名盤“The Nightfly"をイメージしたいと思っています。

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