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ヘンプハウスの科学

大麻コンクリートの魅力


日本では猛暑のたびに夜でも部屋は暑いままだったりします。エアコンを使用しないと生死に関わるとニュースが言い始めました。木造建築はもとより、最近では鉄筋コンクリートのマンションですら日中の熱を溜め、放射熱により夜でもエアコンなしでは過ごせない、新たな気象のフェーズとも言われています。


木造建築では必ず断熱材を家中に施しますが、それは建築費の約12%に相当しています。2000万円の家で断熱費が240万円です。240万円かけても猛暑に対応できない断熱材と考えると、決して見過ごせない金額でしょう。熱に対する断熱材の効果を考えると、今後の住宅建築やリノベーション、ビル外壁などでは、妥協できない部分が「断熱」と言えるのではないでしょうか。


では、日本の住宅と世界の住宅の断熱性能についてはどうでしょうか。下図は、野村総合研究所が、世界と日本の住宅の熱貫流率(U値)を基に断熱性能を表したものです。熱貫流率とは、室内外の温度差を1℃とした場合、1時間当たり1㎡の壁体等を通る熱量を指します。
熱貫流値では、数値が小さいほど熱が壁を通らないことを意味しています。

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参考:野村総合研究所 http://www.ibec.or.jp/GBF/doc/sem_13th_17.pdf

日本の赤いラインを見ると、寒冷に対する値では世界の住宅と日本の住宅の違いはほとんどありませんが、暑熱に対する断熱性能では高い数値を示しています。このグラフから日本の住宅は猛暑に対して断熱性能が低いということが理解できると思います。

では、なぜ日本の断熱性能は低いのでしょうか?

近年では熱の移動を遮る窓やドアなどが採用され、密閉された高気密住宅なども多くなり断熱性能も上がっているのだろうと思っていました。しかし、日本の住宅メーカーによる断熱性能を調べてみると、その数値は0.44~2.7W/㎡・Kと大きく開きがありました。新築であってもアメリカの断熱性能とは7倍ほどの開きがありました。
参考:失敗・後悔しない家づくりブログ

日本の断熱性能を知るためには、どの様な断熱材が使用されているかを知る必要があります。日本の一般住宅では70%以上でグラスウールやロックウールの断熱材が使用されています。

この2つの断熱材に共通する点は、湿気を吸収したり、逃がしたりすることができない点が挙げられます。外気温と室内温度の差が大きければ壁内で結露が生じる原因になりますし、湿度が80%以上になると壁内に水滴が発生します。また、湿度の高い状態が続いてしまうとカビ発生の原因にもなっています。

日本の夏を快適に過ごせる家は、熱が伝わりにくく湿気を吸排気することが重要だということが分かります。

現在アグリビジネスとして世界中で注目を集める大麻からは、その多様性ある製品に建築材料も含まれています。

現在大麻から作られる建築材料には断熱材とコンクリートがあり、それらは共に温度と湿度を調節する機能を持ち合わせています。そのコンクリートで作られた家を「ヘンプハウス」と言います。私自身、終の棲家はヘンプハウスにしたいと思っていますが、その魅力を実証実験などの結果を基にしつつその魅力を紹介したいと思います。


ヘンプハウスは、SDGs(持続可能性社会への開発目標)にもリンクしており、地球環境に最大限配慮した地球にやさしい未来の家と言えるでしょう。


皆さんは「ヘンプクリート」という言葉を聞いたことがありますか?

ヘンプクリート(Hempcrete)とは、大麻で作ることのできるコンクリートのことで、それから作られる家をヘンプハウスといいます。

住んでも決してハイにはなることはありませんが、気持ちは上がるかもしれません。

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画:スティーヴアレン著BUILDIGN WITH HEMPより


先ずは、このヘンプクリートとはどの様に作られるのかを説明します。

ヘンプクリートは、大麻の茎の中心部にある「麻がら」の部分を使用します。英語ではShiv(シヴ)やHard(ハード)と呼ばれています。

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大麻(ヘンプ)シヴの利用では、動物用の寝床として用いられ、主に馬用の寝具として利用されてきました。 用途が限られていたため産業廃棄物という存在でした。

ヘンプクリートは、そのヘンプシヴと水硬性石灰と水を混ぜるだけでヘンプクリートは完成します。至って簡単です。

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これは子どもが遊びに使えるヘンプハウスです。庭があれば誰でも簡単に作れます。アジアでは、竹を骨組みにして、手で壁を作ったりします。

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日本の建築法では、ヘンプクリートは壁材として使用することができますが、海外では屋根や床にも使用されています。

ヘンプクリート原料を作るには、屋根、壁、床など、使う部分によってそれぞれの配合が違います。屋根は最も軽く仕上げられますが、そもそもヘンプクリートは軽くて丈夫な特性があります(壁材で約400kg/㎥)。

通常のコンクリート建築で壁を作るには、壁になる部分の柱と柱を挟むように板を張り、その空間へコンクリートを流し込んで壁を作りますが、ヘンプクリート壁も同じ方法で壁が作られます。混ぜたヘンプクリート原料をそこへ流し込み、上からヘラで叩き、それを繰り返してヘンプクリートの壁が完成します。一回に20cmほどの高さで流し込んだ原料は1時間ほどで固まり始めるので、その上から繰り返し壁を積み上げる作業を行います。壁が厚ければ厚いほど、防音や断熱(調湿調温)効果は高くなります。一般的なヘンプハウスの壁の厚みは30cmです。

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図Building your dream home could send you to the hemp dealer 

図Enviro-friendly, bio construction making inroads into building industry

図MotherEarthNews

ヘンプクリートをブロック化した建築材料も販売されています。

外壁にはコーティング剤を使うことで、大麻が本来持つ防水性をさらに高められ、雨雪にも強い家を作ることができますし、ヘンプクリートが外壁材として使用できれば漆喰もいいでしょう。また、内壁にはカラーサンドなどを混ぜた漆喰の装飾も可能です。

ヘンプクリート壁は、簡単に作れるため、海外ではその作業を施工主やその友人達と行うことも多いようです。また、日本では中古物件をリノベーションすることも流行っていますが、骨組みだけを残し、壁をヘンプクリートにすることも可能です。

日本式の建築で懸念されるのが地震による壁のひび割れですが、ひび割れた部分にヘンプクリート原料を塗り込むことで家の修繕が可能です。
お手入れ次第では千年住宅かもしれません。なんといっても基本的なコンクリート成分はパルテノン神殿と同じですから。

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画:Steve Allin著BUILDIGN WITH HEMPより

日本でヘンプハウスを建てる場合には、耐震性も考慮されるポイントです。木造で耐震性を上げるためには、日本の木造軸組工法とツーバイフォー工法である木造枠組壁工法を合わせた方法が理想的でしょう。この工法であれば壁の損傷が起きてもリフォーム対応ができ耐震性も向上します。

壁を規格化することにより、経費も安くなり工期も短くヘンプハウスを建てられるようになるでしょう。

一つのアイデアとして、木造骨格によるヘンプクリート壁(ハニカム構造など)をブロック化したものを組み立て式ヘンプハウスにすることで、簡易住宅を建てるよりも容易に作ることができるでしょう。また、災害用住宅としても利用できるでしょう。その簡易住宅は、そのまま恒久的に暮らせる住まいにも利用できます。

現在は、欧米を中心にヘンプシヴを断熱材やコンクリート原料としての利用が進んでいますが、主な理由は建築材料としてポテンシャルの高さは当然のこと、環境へのアピールやワンランク上のステータスという側面も持ち始めています。


ヘンプクリートの科学的根拠


では、ここからヘンプクリートが建築材料としてのポテンシャルについて、科学的エビデンスを基に比較してみたいと思います。

先ずは防火性能や耐火性能について見てみましょう。その基準となるのが、熱伝導率、熱伝達率、比熱、比熱容量、動粘度率、熱伝導率と容量を組み合わせた熱電対の慣性などの数値があります。

熱伝導率は物質内を伝わる熱の移動を示し、熱伝達率は物質の熱の伝わり方、比熱は一定の重さの物質の温度を1℃上げるために必要な熱量を示し、比熱容量は一定の圧力や体積が単位質量の物質の温度を上げるために必要な熱量を示し、動粘度率は壁の熱放射を示し、熱電対の慣性では室外温度と室内温度の関係を示すことができます。
あまりにも比較する点が多いため、今回は建材の熱の伝わり易さの分かる熱伝導率と比熱で比較してみます。

数値の比較をする前に、少し地球環境への影響という観点からヘンプクリートの特徴について触れたいと思います。

ヘンプハウスは持続可能な建築物であるということです。それにより、石油化学製品の使用量を減らすことへと繋がります。

また、一般建築に費やされる建築費の割合を見ると、外壁材は約10%、断熱材は約12%、内装費は約4%のほか、木工事として内壁材などを使用するため、壁は建築費の1/4以上を占めますが、ヘンプクリートを使用するとそれら全てをヘンプクリート単体でカバーすることができます。大変優れた建築材料と言えるのではないでしょうか。しかも化学物質を使わないことから、火災による一酸化炭素中毒による被害も大幅に減らせるため、今まで得ることのできなかった安息の家となるでしょう。
注:一般の火災で起こる死亡原因で最も多いのが一酸化炭素中毒です。

このようなヘンプ建築は地球環境に優しいことから、SDGs(持続可能性社会への開発目標)としてヘンプハウス建築を推進し、エコ住宅や耐火住宅として助成を受けられることが望ましいと考えます。

そして、ヘンプ建材を取り扱うことにより、SDGsを進める企業として地球環境に配慮する企業イメージをアピールできる時代がすぐそこまで来ています。

一般のコンクリートを製造するには、1000kgを製造するのに900kgのCO2を排出しています。

しかし、ヘンプクリートは築後からCO2を吸収し続ける特性があり、英国の研究ではヘンプの茎1000kgあたり1630kgのCO2を吸収し、栽培することで1ヘクタールあたり8.9~13.4トンのCO2を吸収していることになります[1]。

ヘンプクリートとして加工された製品は、1㎥あたり約110kgのCO2を吸収しますが、ヘンプクリートの化学反応はCO2を吸収することによりヘンプクリートが硬化します。コンクリートは経年劣化しますが、ヘンプクリートは年を経るごとに丈夫な建物になります。

いかに大麻のアグリビジネス化がCO2削減に貢献できるのかが理解できるでしょう。そして、ヘンプクリートはカーボンニュートラルではなく、カーボンポジティブな建築材料なのです。

1:参考:The Role of Industrial Hemp in Carbon Farming 

では、これから既製の建築材料とヘンプ建築材料との比較を科学的根拠を基に見てみましょう。

建築材料として重要なのが耐火、防火性です。ヘンプクリートは多孔質であるため熱伝導率が大変低く燃えない建築材料です。

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上の図は耐火性能に関する実験で、1100℃の熱で厚さ30cmのヘンプクリート壁に1時間以上加熱したグラフです。表面から30mm(赤色),60mm(緑色),90mm(紫色),120mm(オレンジ色)の深度別に温度変化を測定したものです。
参照:PERFORMANCE OF HEMPCRETE WALLS SUBJECTED TO A STANDARD TIME-TEMPERATURE FIRE CURVE

ヘンプクリートでは加熱後1時間経っても深度120mmまで熱が伝わらないことが分かります。そして不燃です。

ヘンプクリートが燃えにくい要因の一つとして、ヘンプシヴに含まれる水分も大きく関係しています。

この結果から、ヘンプクリートの熱伝導率が大変低いことが分かります。ヘンプクリートは不燃性でもあるため、出火による延焼が最大限に抑えられ、火事による家屋の消失や、延焼による死亡事故原因として最も多い一酸化炭素中毒にも繋がらない、火に対して非常に強い安全な家であることが分かります。

何よりも熱が伝わりにくいということは、外気の暑さが室内に影響しないことを意味しています。

ではヘンプ建築材料がいかに熱を伝えない素材であるかを他の建築材料とも比較してみましょう。

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この表は、ヘンプクリートを使用する部分に分けた(左)密度(中)と熱伝導率(右)について示しています。吹き付け式の壁では熱伝達率が0.07 W/㎡Kです。(Cerezo cited in Arnaud & Gourlay 2011)

他の実験では0.044W/㎡Kという値も得られています。(The Heat Conductivity Properties of Hemp–Lime Composite Material Used in Single-Family Buildings)


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この表は、ヘンプ断熱材の厚さと(左)、熱抵抗R値(中)と熱貫流率(右)が示されています。最も厚い250mmのヘンプ断熱材を見ると熱貫流率は0.16W/㎡Kです。

この数値は、野村総合研究所による日本家屋の暑熱に対する熱貫流値と比較すると、断熱性能は5倍以上も違うことになります。
参考:PERFORMANCE OF HEMPCRETE WALLS SUBJECTED TO A STANDARD TIME-TEMPERATURE FIRE CURVE、NatuHemp

では日本で使われている一般的な外壁材や断熱材と熱伝導率と比熱を比較してみましょう。

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上の表から、熱伝導率が優れているのはフェノールフォーム、ウレタン、ポリスチレン、グラスウールやロックウールです。フェノールフォームやウレタン、ポリスチレンなどはプラスチックが原料のため、持続可能性の観点からは選択しにくい素材と考えており、グラスウールやロックウールは共に製造過程でCO2を排出してしまいます。セルロースファイバーは植物由来でヘンプクリートと似た性能ですが高価な断熱材です。
ヘンプクリートも現在は国内生産ができないため、ほとんどを輸入に頼ることから同じように高価ね建材と言えるでしょう。

冒頭でも話しましたが、調湿効果に優れているのがヘンプハウスです。その室内環境は、調湿効果によって快適な空間を作ります。室内の湿度は50~60%に保たれ、外気の影響を受けにくいことから蒸し暑い時期でもエアコンの使用による経済的な負担も軽減できます。もしかしたらエアコンを使わずに済むかもしれません。

持続可能性を追求するのであれば、井戸水を利用した水冷クーラーや、雪国では雪室の冷気を利用したクーラー(空気を循環させる小型ファンの電気代は月100円もかかりません)などが理想的と言えるでしょう。冬はストーブや暖炉、床暖房などで家中が暖かく保たれます。


その他に挙げられる特性は防音効果です。ヘンプシブは多孔質のため、質量に対して60%も空気を取り込むことができます。音はヘンプシヴの穴に吸収されるため、音が伝わりにくい性質を持っています。騒音に悩まされる環境でも効果を発揮するでしょう。

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上の表は、コンクリートや断熱材やその原材料との防音性の比較です。ヘンプクリートの防音性が最も高い数値であり、防音材としても大変優れていることが科学的にも理解することができます。


更なる特性として挙げられる点は、ヘンプクリートには強い抗菌作用があることです。24時間清潔な室内空間を保ちます。そして、シロアリなどの害虫も寄せ付けません。ウイルスにも効果があることは、今の時代に必要な家のスキルかもしれません。


では日本でどの様にしてヘンプハウスやヘンプクリートを利用できるようになるのかを考えてみます。

現在日本には十分なヘンプシヴがありませんし、建築用水硬性石灰も海外からの輸入に頼っているため、日本で建てると価格に反映され高価な住宅となります。

しかし、建築用ヘンプシヴを国内で生産し、国内の石灰を建築用に水硬性石灰として利用できれば、一般住宅と変わらない、もしくは一般住宅よりも低コストでヘンプハウスを建てられる環境となるでしょう。

 もしも国内でヘンプクリートを作れれば、建築のためのヘンプシブを納入していただくために多くの大麻農家さんの協力が必要になるでしょう。必要としている会社と提携することで一般の農家から大麻農家への転換も容易になるかもしれません。

現在すでに様々なヘンププラスチック製品やプラスチック複合素材があり、それらは繊維(外皮)部分から作られます。ヘンプにはセルロース成分が70%と多いため、持続可能なセルロース成分の供給源としても考えられるでしょう。

今後、ヘンプクリートやヘンプバイオプラスチック、セルロース、ナノセルロース ファイバー、バイオ燃料、テルペン、CBD食品など、一般的な利用の広がりを想定すると、日本国内でヘンプを農作物として扱うことのできる新法や法改正が期待されるところです。

これらヘンプクリートやヘンププラスチックは新たなアグリビジネスです。ヘンプ産業は多種多様な職業や産業がかかわることができ、脱化石燃料の問題やCO2排出問題を解決できる一つの選択肢が「ヘンプ」ではないでしょうか。

SDGsに大きく貢献できると共に、未来をリードする新産業がヘンプアグリビジネスだと言えるでしょう。

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