中国伝統芸能「変臉」の魅力。
「変臉」は中国四川省の伝統芸能で、「川劇」の中の演技の一つ。
「川劇」には他にもたくさんの演技があるが、「変臉」は特にわかりやすい・理解されやすい演技として支持を集めている。「変臉」とは、顔に被せた面を手や衣装で遮り、次の瞬間には別の面に変化しているという妙技であり、面によって表情を変えることによって、怒りや悲しみ恐れなどの喜怒哀楽を表現している(「臉」とは中国語で「顔」を意味するので、戸田奈津子だったら「変顔」って訳していたと思います)。この仕組は一子相伝とされており、中国では第一級国家秘密の秘匿の妙として守られているそうだ。
川劇の流れとしては三国演技、雑技、手による影絵、二胡の演奏、吹き灯、転灯などの妙技が続き、フィナーレ前に繰り広げられるのが変臉である。
僕は長崎県のランタンフェスティバルに家族で行ったことがあって、その時にはじめて「変臉」を目の当たりにした。確か中学生だったと思う。橋本以蔵原作・たなか亜希夫による格闘漫画「軍鶏」の第三部中国編において、敵の斉天大聖孫悟空が面を身に付けており、「軍鶏」の熱狂的読者だった僕はその面や民族衣装にその当時惚れ込んでいた。というか、僕は昔から素性を隠して戦うキャラクターに魅力を感じていて、例を挙げると機動戦士ガンダムシリーズのシャア・アズナブルやゼクス・マーキス、ゼルダの伝説のシークやムジュラの仮面一連の敵キャラ、TOD2のジューダスやFF2のダークナイト、武装錬金やキン肉マンなど数えはじめると枚挙にいとまがない。
はじめて「変臉」を見た時は、何が起きているか全くわからなかった。あまりの速さに「変わっていること」を追うのに必死で、瞬きをする余裕もなかったことをよく覚えている。あとから色々と調べてみると、面一つ一つに意味があり、その一連が一つのストーリーとして収斂されていて、能や歌舞伎のように決まった題材に則って面を選んでいる。有名な演目を紹介すると、
・三国志演義(虎牢関、呂布と貂蝉など三國無双やってれば大体わかる話)
・西遊記(天竺への旅より孫悟空が如意棒を手に入れる「鬧龍宮」が有名)
・水滸伝(梁山泊が悪徳官吏をこてんぱんにする話、パチンコではない)
・楊家将演義(北宋の楊一族の活躍と悲劇を描いた中国明代の古典文学)
・隋唐演技(隋と唐の歴史を緻密に描いたスペクタクル超大作)
・岳飛伝(水滸伝と同時期の話で、岳飛に焦点を合わせたスピンオフ)
・鴻門の会(かの有名な項羽と劉邦)
・覇王別姫(項羽と虞美人の恋愛メロドラマ)
・蘭陵王(高長恭の武勇伝)
・白蛇伝(白蛇が女に化けて人間の男を拐かし。。って有名か)
・文昭関(「臥薪嘗胆」の語源になった話。アンジュルムではない)
・智取威虎山(文化大革命時代の話なので比較的新しい京劇)
(このように役柄によって面を使い分けます)
昨今では、皆古典演劇に飽きてきたようで「スパイダーマン」や「ドラえもん」など流行りの文化も取り入れているようです。歌舞伎だってスーパー歌舞伎と題して「ワンピース」をやったりしてるし伝統芸能も必死そうです。
実際に「変臉」を見てみましょう。今見ても圧巻のショーだと思います。
スロー再生を使ってネタバラシをしている動画もありますが、あまりに野暮なのでここでは掲載しません。気になる方は各自見てみてください。
僕は「変臉」のどことない気味悪さがすごく気に入っています。面のデザインもそうですが、何枚めくっても演者の「本当の顔」が見えてこない。仮面とはペルソナであって、「仮面浪人」「仮面夫婦」など自分を偽ることを自認した上で身につけるもの。「本当の顔」って一体どれなんでしょうね。