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見えない事がわかる事。見えない事でわかる事。
見えないという事。
それがどういう事であるのか
わかっていなかった。
真っ暗だった。
ただただ
真っ暗だった。
どんなに目を開いても
真っ暗だった。
見えている事。
見えているからできている事。
それらが一瞬で「できなくなった」。
距離がわからなくなった。
周りに何があるかわからなくなった。
一歩先が崖なのかもしれないと、ずっと緊張して歩かないといけなくなった。
音がなくなると1人になってしまうようで、とても怖かった。
そして
1mの距離が冒険になった。
指先で文字を読むようになった。
手が届かないと、その空間が永遠と先まで伸びていると感じるようになった。
どんな匂いがするか、どんな音がするか、どんな触感かで、その空間がどういう空間なのかを把握するようになった。
波の音が聞こえる。浜辺なのかな。足元はフカフカしている。触ると芝のようだ。少し先には柵がある。じゃあここは小高い丘の上の芝生で柵の先に目下に海が広がる場所なのかな。という具合に、景色が遅れて見えてきた。
曇った窓ガラスを手でこすって外の景色が見えてくるように、色んな感覚を頼りに少しずつ少しずつその空間が彩られていった。
音のする位置で、空間を把握するようになった。
立っている自分の腰より下の方から隣の人の声が聞こえると、すぐ隣に50cmくらいの段差があるのかもと思った。(隣の人はただ椅子に座って喋ってただけだった。)
人の声で、喋り方や声質で、その人がどういう人かを判断するようになった。
当たり前を失う事で、
当たり前の尊さに気付く。
世界の把握の仕方が変わる事で、
自分のいる世界はこういう世界だったんだと気付く。
体験した直後はよくわからなかったけど、
ずっとなんかがひっかかっている気がしていて、
こうして言葉にしてみると、
これは一生ものの経験だったんだなと、
今思う。
視覚障害のある方にどう手を差し伸べればいいか、今は少しわかる。
目を閉じれば世界がどこまでも広がる。
想像すれば違う世界が見える。
いつが出発ではなく、
今が「出発」