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【ディラ研/ザバ研】27枚組聞き倒しマラソン その8:Disc 7

「Thank you. It's great to be back in Montreal.(ありがとう。モントリオールに戻ってこれて最高だ。)」と、珍しくディランが2曲目「Lay, Lady, Lady」の前にコメントしています。
リヴォンの自伝では、ディランがしゃべったのは最終日とシアトルの2回だけと書かれています。CDを聞く限り、確かにほとんどしゃべっていない感じですが、さすがにそれは言いすぎかな、と。まあ、あれだけの量の歌詞を(カンペなしで)歌うわけで、それで十分な量の言葉を発しているとは思います。

前回の最後に書いたとおり、10日のメープル・リーフ・ガーデンズはサウンドボード録音がないため、Disc 7には翌11日のモントリオール・フォーラム公演が収録されています。ここは1976年のオリンピックにも使用された会場です。筆者は子供すぎて、かろうじて「月面宙返り」の塚原(河合楽器の体操部所属で、このメーカーは後日カワイ・ムーンサルトというエレキを製造・販売した)、そしてなんといってもコマネチ(!)が記憶にあるくらいですが、体操の決勝の会場もここだったみたいですね。
コンサートのキャパは英語版にも記載がありませんが、19,000人前後でしょうか。

カナダ公演はいわばザ・バンドの凱旋ライヴなので、地元のミュージシャンや親戚縁者がいっぱい駆け付けたようです。そうそう、その前のトロントは前の親分、ロニー・ホーキンスのお膝元ですが、彼の誕生日が1月10日なものでディランを含めた御一行が訪問しています。詳細については、伝記本やネットで調べてみてください。

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資料を見る限り、欠落している10日はいろいろと節目だったようです。
まず「It Ain't Me, Babe」がスタメンから外れて「As I Went Out One Morning」を演奏したこと。公式でもこの日以外に演奏記録が記載されていない激レア曲です。音がまったく聞けないわけではなく、オーディエンス録音ならYouTubeで検索すれば、いくつか引っ掛かると思います。
次に、「Most Likely You Go Your Way ~」がオープニングになりました。(その代わり、アンコールがなく「Like A Rolling Stone」で終了)
ソロ・セットではついに「Nobody 'Cept You」が外れ、「Don't Think Twice, It's All Right」と「Gates Of Eden」がツアー初披露となっています。「Don't Think Twice ~」は2枚組にも収録された今後重要になるレパートリーなんで、ぜひ初演を聞きたかったのですが、ないものはしゃあない。

さて、今回のセットリストはこちらになります。

音の定位ですが、ドラムス&ベース&ディランのアコギ&ハーモニカ&ヴォーカルが中央、ロビーのエレキが右、ガースのキーボードが左右、ディランのエレキとリチャードのアコピ&エレピが左となっています。ディランのエレキは気持ち真ん中よりかも。
例によって、キーボード類が聞こえにくい箇所や曲があります。

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Most Likely You Go Your Way (And I'll Go Mine)

いよいよこの曲が本ツアーのテーマ曲のような扱いになってきました。
ベースの音がまたもプリプリしています。フレットレス・ベースのせいなのか、録音のせいなのか。3:19~3:24にかけての「ブ~ブンッ、ブ~ブンッ」というスライド音が面白い。
ガースが右側で鉄琴のような音とオルガンを交互に繰り出し、途中からシンセのようなストリングスも聞こえてくるなど大忙しです。
リチャードは左側でちゃんとアコピを弾いています。

Lay, Lady, Lay

またもやリチャードのエレピが聞こえません。ディランのエレキとガースのオルガン(今度は左も)に埋もれつつも、エンディングでわずかにエレピの音が聞こえるようにも思うのですが、どんなプレイをしているか聞き取れるレベルではありませんでした。

Just Like Tom Thumb Blues

リチャード、今回はいつもどおりアコピを弾いています。これはよく聞こえます。

I Don’t Believe You (She Acts Like We Never Have Met)

はい、「君を信じないの呪い」来ました~。
またしても冒頭の ♪ I can't understand が出てこず、イントロを引き延ばしますが、あきらめて2番を歌うことにします。続いて3番を繰り上げて歌います。その次をどうするかモゴモゴしますが、意を決して4番(普段はギター・ソロの関係でカットされる)を歌うことに。しかし後半を覚えておらず、適当にごまかしてロビーにバトンタッチします。
前日を聞いていないのですが、毎晩完璧に歌う「It's Alright, Ma」みたいな曲がある一方で、この曲や「Like A Rolling Stone」みたいに油断するとすぐ歌詞をど忘れする曲があるのが不思議でなりません。「ボブ・ディランの頭のなか」(映画にあらず)を見てみたいです。
リチャードは引き続きアコピです。

It Ain't Me, Babe

10日は演奏されなかったので、1日空けての登板です。相変わらず牧歌的なテンポでザ・バンドもワイト島を思わせるような伴奏です。こころなしかディランの歌い方も最初の4行だけそれっぽい!(5行目から74年やさぐれ調に戻しますが。。。)
この曲でも2番と3番を入れ替えて歌っています。ここまでくると、ワザとなのかい、どうなんだい?
新エンディングはキメを3回繰り返すのですが、リックは退屈だと思ったのか2番後半からフレーズを変えてしまいました。

Ballad Of A Thin Man

テンポが少し早くなりました。2枚組の雰囲気に徐々に近づいていくのか?
いよいよツイン・ドラムス判別が難しく。。。これ、サブ・ドラムスの音声はちゃんと録音されてますかね? 途中のズレから、リチャードも叩いてると判断しますが、よく分かりません。

All Along The Watchtower

左側、よく耳を澄ますとリチャードのホワンホワンがちゃんと聞こえます。
2番の頭、0:58~1:00のところで聞こえる「ゴォー」という風みたいな音はなんでしょうか? ディランにも聞こえたのか、「excited」の歌い方が少し変になっています。

Ballad Of Hollis Brown

この曲は明らかに2人で叩いていますが、謎が解けたかも。
ディランがビートを裏返して歌い始めたので、リヴォンがスネアを入れる位置を修正しています。この時、リチャードはスネアを叩いていません。
曲にもよるのでしょうが、リチャードはドラムスを最初から最後まで叩いているわけではなく、最初はハイハットやシンバルでリズムを刻み、途中から通常のパターンを叩いて合流したり、派手なフィルが入るところを一緒にドコドコやる役割になったのかもしれません。
最後、まだドラムスが叩き終えていないのにディランはギターのチューニングを戻してます。もっとメンバーのプレイを聞こうよ。

Knockin' On Heaven's Door

イントロでまた「All Along The Watchtower」のところで書いた風のような音がします。ガースが使っているキーボードか何かの音でしょうか?
この曲ではリチャードのエレピがよく聞こえて嬉しい。

The Times They Are A-Changin'

1番で歌詞を忘れて悲惨なことになっています。初日はハウリングが原因でしたが、今回は思い出すまでハミングなどでつないでいます。74年ツアーはここまでど忘れが多いとは正直驚きました。
あと、たまたまだと思いますが、直後に「パンッ」という爆竹らしき音が鳴っています。

Don't Think Twice, It's All Right

1番の2行目で珍しくお茶目に低いメロで歌っています。1965年のやりすぎな声張り上げとは対照的です。
例の超絶ハーモニカ・ソロはまだ披露していません。

Gates Of Eden

1965年とは声がすっかり変わっていますが、この曲は固いトーンの声が合っているようにも思いますので、この選曲はいいと思います。
3番と4番の間(1:39あたり)でパンという音がしてチューニングが乱れます。弦が切れたんでしょうか? ディランはあわてずチューニングを直してそのまま再開します。余裕だ。

Nobody ‘Cept You

1日休ませて今回復帰ですが、ちょっぴりスピードが落ちました。その代わりハーモニカ・ソロが増量です。
しかし、やはりしっくりこなくなったのか、16日にもう1度だけ演奏してそれきりになりました。

It's Alright Ma (I'm Only Bleeding)

これはいつもの歌い方と違う感じがします。流暢というか立て板に水状態というか、記憶の沼にハマってしまった「I Don't Believe You」や「The Times They Are A-Changin'」とは大違いです。完全覚醒した歌と演奏!

Forever Young

1番と2番以降で歌い方が変わります。途中から言葉の意味ではなく言葉のサウンドを聞かせるといった感じで歌っているように聞こえます。やさぐれ感も多分に含んでいますが。

Something There Is About You

ロビーのエレキ・フレーズでスタート。
そういえばいつもはディランが歌い出す前にロビーが少し弾くんですが、Disc 6ではそれがなかったのを思い出しました。音だけでは何があったのか判断できないとはいえ、筆者がディランのせいにするのは早計だった可能性もあります。
ところでディランは「がなり」全開です。歌詞と合わない気がしますが、怒ってる? 「It's Alright Ma (I'm Only Bleeding)」と対照的な感じです。

Like A Rolling Stone

この辺にくると、ディランは完全にひねくれモードに入ったようで、イントロのコードも順序メチャメチャにして、ザ・バンドを困らせにかかります。
メンバーも慣れたもんで、うまいこと気まぐれコードの波に乗ります。
ベースの音のプンプン音がまた激しくなりました。スタッフは何してるんでしょう。筆者には分かりません。
9日にグダグダだったエンディングは、今回超ショート・ヴァージョンになってました。

Most Likely You Go Your Way (And I'll Go Mine)

ツアー初の2回演奏。
ヴォーカルはもう投げやりです。演奏はいいので、みんな最後はノリノリで楽しんだと思うのですが。
この日の演奏、ちょっとディランにとっては不本意だったかもしれません。まあ、こんな夜もありますか。

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筆者が選ぶ本日の名演賞は、「It's Alright Ma (I'm Only Bleeding)」にします。

翌12日もこの会場で演奏しているのですが、またもや録音なし、ということで、次の公演地はボストンです。約500kmで東京-大阪間とほぼ同じなので、この移動ルートは納得です。ま、彼らの場合は飛行機移動ですが。

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