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フォートナイトはライブハウスの代わりになるのか?

フォートナイトというオンラインゲームをご存知だろうか。全世界で3億5000万人以上のプレイ人口(2020/05/07の公式Twitterより)を誇る、クロスプラットフォームオンラインゲームである。
*クロスプラットフォーム:複数のハードでプレイできる環境ことを指す

このオンラインゲーム上での音楽ライブが話題になっている。アメリカの人気ラッパーであるトラヴィス・スコットが20年4月24日から5回にわたって開いたイヴェント「Astronomical」には、計約2,700万人のプレイヤーが参加した。このイベントはゲーム空間が単なるゲーム空間を越えメタバースになる可能性を示唆したものとして注目を集めた。

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コロナ禍による自粛が後押しした面はあるが、とはいえニューヨーク市の推定人口よりも多い同時接続数1230万という数字は間違いなく快挙といえるだろう。
 トラヴィス本人へのリターンも大きく、イベントで披露されたキッド・カディとの新曲「The Scotts」のBillboard HOT100首位デビューなど、経済的効果も計り知れない。

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フォートナイト上での音楽イベントはこれが初めてではない。19年2月2日には人気DJのマシュメロがフォートナイト上でライブを行い、推定1000万人の参加を獲得した。マシュメロのファンである私もアーカイブで当ライブを視聴したが、音源だけで言えばオフラインのライブになんの遜色なく、フォートナイト上でコミカルに動き回るキャラクターは愉快にライブを盛り上げてくれているように感じた。

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ライブステージは一週間をかけて実際のゲームスペース上に建設されていった

フォートナイトはライブハウスの代わりになるのか

ではフォートナイトというオンラインゲームは、今後ライブハウスやフェスの会場を代替するものになり得るのだろうか。答えはノーだ。これはフォートナイト上でのライブ体験に価値がないと言っている訳ではない。あくまで現実空間の代替にはならない、という主張である。

まず実際にいくつかのライブをフォートナイト上で経験して感じたのは、想像以上の一体感だった。私は参加前、同時間に視聴しているプレイヤーが居るというのは理解できてもそこに一体感はないんじゃないかと思っていた。

だが実際に入ってみるとDJからの投げかけや同時に飛び跳ねる人達は、たしかにオフラインのライブで感じるあの一体感を思い出させてくれた。ましてや今回はオンライン、地球の反対側で今この瞬間に同じ音楽を聴いている人が居るかも知れないということは、インターネットが持つ世界にふれるワクワクそのものだった。

加えてプレミア感も中々だった。私が参加したのは無料のライブだったので、オフラインのライブと違いお金を出してチケットを買わなくても参加できる。無料であるがゆえにプレミア感の欠如は言いなめないかと思っていたが、実際にはDJがこのライブ用に作ったセットリストというだけで十分なプレミア感はあった。アーカイブを残さないといった工夫を加えれば、今以上の特別感は十分演出できるだろう。(デジタルの世界で記録を残さないことは実際難しいが)


体験によって確信した不足

しかし参加によって感じた物足りなさもあった。物理的な課題がいくつかあげられる。まずは音量の大きさだ。家の中で大音量で音を流すというのは難しいし、仮にできたとしても音響設備としてライブと同じ体験はできない。高音質の音の波で内蔵が揺さぶられるような体験を家で出来る人は、ライブキッズの1%にも満たないだろう。

加えて演出面での物足りなさもある。例えばマシュメロのライブで言えば、レーザービームが飛び交い、その光の中を現実では不可能な3人の巨大マシュメロがステップを踏むという光景が見られた。だがこれは全て13mインチのマックブックの中の話だ。

ふと見上げた先に巨大なフクロウ(世界最大級のEDMフェスEDCのマスコット)の姿はなく、そこには見慣れた天井があるだけ。見渡せば性別年齢問わず流れる音楽に身を委ねているという環境はそこにはなく、普段使いのノートと読みかけの本が机の上に並んでいる。


加えてライブ前後の体験だ。友達と駅で待ち合わせてライブ会場まで向かい、全て終えて疲れ切った帰りにはハイボール片手にライブの興奮を語り合う。もちろんこれは私の場合だが、そうでなくてもそれぞれがライブ前後の時間を楽しんでいるだろう。

フォートナイト上でのライブが教えてくれたのは、そういった時間の大切さだった。仕事を始めるのと同じような体制でライブ会場に到着し、終われば冷蔵庫に入った炭酸水を飲む。便利である事は間違いないのだが、それは求めていた満足感からは少し違うように感じた。


これからの音楽の楽しみ方

ライブに問わず、今後も音楽の楽しみ方は議論され続け、そして変化し続ける。とはいえ、フォートナイト上に限らず、オンラインでのライブがオフラインのライブを完全に代替する日は来ないのではないか。これまで通りのオフラインのライブ形態は、今回の私と同じような違和感を感じた人の存在がある限り、残っていくだろう。

だがこれからは、どんなに仕事が忙しくて2時間しか空き時間が取れなくても、ライブを楽しむ事ができる。音楽愛好家である私達は、いま社会で起こっている音楽を取り巻く変化に対して悲観することは何もない。ただ音楽の楽しみ方が一つ増えただけなのだから。

 


 

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