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廃墟で壊れかけの薬研藤四郎を見つける夢

古い日本家屋に来ている。俺は廃墟探索を趣味とする小規模集団のひとりで、偶々住んでいるボロアパートのすぐ近くに廃墟を見つけた為足を踏み入れた。
入り口付近で瓦と煉瓦でできた屋根のようなものがあった。屋根より下は地面に埋まっている。瓦も煉瓦も鮮やかな朱色で、あまり古びた風には見えなかった。
建物は存外しっかりとしていて、建物の一部が崩れていたり物が壊れていたりということは無かった。しかし廃墟独特の、人が居なくなって久しい寂れた雰囲気は如実に感じ取れた。

縁側を歩く。引き戸を見つける度開けてみるが、生活感が薄く残る床の間や客室に目ぼしい物は無い。行く手を阻む蜘蛛の巣を壊しながら奥の引き戸を開ければ、やっと情報量の多そうな、炊事場へと繋がる食堂へ辿り着いた。精巧な人形が転がっていた。

余りにも人のような見た目をしたそれは、作り物なのだと分かる程劣化していた。自立式なのだろう。横には起動のためのリモコンが落ちていた。
起動ボタンらしき所を押してみる。ふ、と薄く人形の瞼が開いた。だれだ、と口を動かす。俺は、この人形は家ごと放棄されたまま此処に居るのだなと悟った。
寝ていろ、と負荷の軽減の為に人形の目を閉じる。リモコンには幾つかボタンがあって、その中のひとつに「リセット」とあった。余計なキャッシュをクリアする為のものだとアタリを付けてそのボタンを押した。


「どうしたんだ、マスター」
起き上がった人形が俺を見ていた。


「マスター?なんだそれは」
「おいおい、マスター。また忘れたのか?」
滑らかに人形は言う。
「マスターは俺、薬研藤四郎の所有者だろ」
相変わらず忘れっぽいな、前もこんな事あったぞ。

まるで人のように、スムーズに人形は立ち上がる。親しげなその様子に、リセットとは文字通り全データの消去であったのだと己の失態を理解した。
これでは前の持ち主の情報など得られないと落胆を隠さず、無言で炊事場へと赴く。そもそも俺は美味しい食パンを見つける為に廃墟探索を行っているのだ。目ぼしい物が無いのなら、炊事場さえ探索出来ればそれで良い。

「何してるんだ?」
後を着いてくる人形の言葉を流しつつ、袋詰めにされた一斤の食パンを発見した。とても状態が良くふっくらとしている。当たりだ。

目当ての物を見つけたので、後は用が無いとばかりに足取り軽く家を出る。人形はそのまま後ろに着いてきた。残念ながら俺は専門家では無い為、所有者情報をリセットされた自立式人形の対処法は分からない。仕方が無いので今日の所はそのままボロアパートまで引っ付けて帰って来た。
薬研と名乗った人形は、ボロいがそれなりの広さがあるアパートを興味深そうに見回している。その様子を一瞥しつつ、自立式人形に詳しそうな奴は居ただろうかと壁に貼られた廃墟探索趣味集団の集合写真をちらりと見て、違和感を覚えた。

写真の前列中央辺りに、見覚えの無い白髪の女が、同じく白髪の人形らしき少年を携えて立っていた。


ふと、薬研藤四郎を見る。人間と見間違えるような見た目だった。





・俺
男性。「オンボロアパート」という名前の通りのアパートに住んでいる。住民は男1人だと勘違いしてしまう程少ない。
廃墟探索が趣味。同じく廃墟探索を趣味とする名前の無いグループに参加している。
食パンが好き。特に廃墟で探す事が好きらしい。

・薬研藤四郎
自立式人形。とうらぶのキャラと似ている。あくまで似ているだけである為、主人の呼び名も一人称も違うようだ。前の持ち主が薬研推しだったのかも知れない。
前の持ち主が居なくなって、家と共に朽ちていた。リセット前までは前の持ち主のデータもあった。

・白髪の女性と人形
お揃いの髪型をした見知らぬ女性と人形。
女性は明るく活発、人形は寡黙で無表情のようだ。
人形の容姿や服装は骨喰藤四郎と酷似している。

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