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II. 使徒パウロが伝えたキリストの福音 ガラテヤ1:6-2:21

「自由をねらってキリストの福音の恵みから離れさせる違った福音を語る者はのろわれるべき者だ。もともと迫害者だったパウロがイエス・キリストの啓示によって福音を知ったことは確実で、キリストが信仰者のうちに生きておられることの明確な証しであり、ユダヤの諸教会、おもだった者たちも認めるところだ。個人的なイエス・キリスト告白に至らせる真の福音のために、使徒たちが立てられた。」

「自由をねらう偽兄弟が忍び込んでいた」(2:4)


(1) 違った福音にたやすく落ちている教会 1:6-10

ガラテヤ人への手紙を初めて読むと、ここで分けもわからないままに語気強く迫ってくるパウロの肉声に戸惑ってしまいます。理路整然と説明する教科書ではなく、これはまさに生きている人の手紙だ、と感じます。いったい、この手紙の背景は何なんだ、と。

パウロの悲痛な叫び声。そこには、曲げられた「違った福音」に陥っている教会への呼びかけと、「福音」を曲げている者たちへの呪いのことばとが連ねられています。

「福音(ふくいん)」とは、心底うれしい知らせ。他人にとってうれしいことを一緒に喜ぶだけでなく、自分に直接かかわる、うれしい知らせ。たとえば、不治の病だと言われていたのに薬が見つかった、というような。他人事であった「神」が、実は自分にかかわっていて、しかも永遠の命の望みがここから得られる、という、うれしい知らせです。それを奪い取ってしまうのが、「違った福音」でした。

パウロからの手紙を受け取ったガラテヤ諸教会の人々は、しばらくの間「違った福音」についての説明がないまま、呪いという言葉が投げかけられます。どんな面持ちで、手紙が読み上げられるを聞いていたのでしょうか。


(2) 人によらずキリストの啓示による福音 1:11-24

それから、パウロはしばらく自分自身の出来事をつづっています。初めて会う人への自己紹介でしょうか?そんなことはありません。手紙の読者は、もうある程度、聞いて知っていたかもしれない内容ですが、改めてじっくりと伝えなければならないテーマが込められているのです。

もしかしたら、自分の語ることに聞く耳を持たなくなっている人に対して真理を伝えるためには、まず、耳が開かれるようにする言葉をかけなければならないのでしょう。「違った福音」についてくどくどと説明し始めたとしても、聞く耳のない人には無意味です。

「福音」の理解において、大切なことは、神ご自身に対する認識、神と自分の自由な関係、しかも神を恐れること。それが知識のはじめ、と旧約聖書の箴言で言われているとおりです。それは、神の言葉への恐れをも含むものです。ただ、世界にある様々な言葉の中で、どれが本当の神の言葉なのか。「違った福音」を伝えている人々の語った言葉が、神の言葉ではないという根拠はあるのか。キリストの使徒性が、まず問われるところです。

そもそも、使徒とは何なのか。それもパウロは自分の体験を通して明らかにします。

(3) キリストにあって持っている私たちの自由 2:1-10

パウロが現に走っており、すでに走ってきた福音宣教の経緯があります。その内容をエルサレムの十二使徒も確認し、異邦人信者がキリストにあって持っている自由をそのまま認めてなにも付け加えることはなかったのでした。

割礼の者への福音宣教と無割礼の者へのそれとは、決して対立するものではなく、基本的な土台は同じであり、唯一の主から出ているのです。割礼の者と無割礼の者の区別がなくなったわけではありませんが、お互いに尊重しあい、助け合うことが大切であることは言うまでもないことでした。

(4) パウロの生き様を通して明かされた福音の霊的真理 2:11-21

イエス・キリストを主と告白するのは、御霊の働きかけがあって可能となるものです(1コリント12:3)。ガラテヤ人への手紙のこの部分の最終的結論としてパウロが提示している、キリストに対する非常に個人的な信仰告白(ガラテヤ2:19-21]は、パウロに対してなされた聖霊の働きかけの結果であることを忘れてはなりません。パウロが自分の使徒性を証明してパウロが伝えた福音の正当性を示すだけではなく、個人の人格にかかわり、個人の歴史の中にかかわる聖霊が福音の真理と共に働き、読者に同じ働きかけがあるようにとの目的も考えられます。御霊の働きがあって、人は神との自由な関係を保ちつつ、神への正しい恐れを抱くことができるのですから。

聖霊はどのように人に働きかけるでしょうか。この部分には特に聖霊の働きを紹介するような書き方はしていませんが、パウロのうちに生きておられる方は、聖霊に他ならないわけです。パウロが聖霊を受けて、宣教の働きにつくようになった経緯を学ぶことを通して、私たちのうちでも聖霊が働いて下さることを期待できるのです。

使徒パウロが伝えたキリストの福音 梗概

(1) 違った福音にたやすく落ちている教会 1:6-10
 A.教会の変心(1:6)
 B.キリストの福音を曲げている者(1:7)
 C.福音に反することを宣べ伝える者へののろい(1:8-10)

(2) 人によらずキリストの啓示による福音 1:11-24
 A.パウロが宣べ伝えた福音はイエス・キリストの啓示による(11-12)
 B.啓示を受ける前は迫害に熱心(13-14)
 C.神の啓示を受ける前後で使徒に会うことはなかった(15-20)
 D.パウロの回心と働きがユダヤの諸教会でも受け入れられる(21-24)

(3) キリストにあって持っている私たちの自由 2:1-10
 A.パウロの働きがむだにならないための会見(1-2)
 B.キリストにある自由を狙うにせ兄弟(3-6)
 C.恵みによる福音宣教の相互理解と協力(7-10)

(4) パウロの生き様を通して明かされた福音の霊的真理 2:11-21
 A.ケパ、バルナバの福音の真理に従わない偽善の行為
 B.律法の行いによらずキリスト・イエスを信じる信仰による義
 C.キリストによって神に生きるパウロの生活



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