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「マルコの福音書」 ”神の御子を証しする”

”イエスはガリラヤに行き、神の良い知らせを宣べ伝えて言われた、 「時は満ちた、神の国は近づいた。 心を向きなおして、この良い知らせを信じなさい。」”(私訳)(マルコによる福音書1章から)

マルコが伝える「福音」とは、預言されていたとおりにやって来た「メシア」は、なんと、「神の御子であった」ということ。その神の御子が、罪人のために十字架にかかって死に、三日目によみがえったので、信じる者は救われる、ということ。これ以上にものすごい、喜ばしい知らせがあるでしょうか。 マルコの福音書を読みながら、私たちも弟子たちと一緒に、イエス・キリストが神の御子であることを発見する歩みをしていきましょう。

著者

イエスに接する者は、それがだれであろうとも、一様に驚きの経験をしました。不思議な力によって奇跡が行われたり、伝統の教えとまったく反するような言動がなされたり。その衝撃波を丹念に書き連ねたのが、マルコ。もっとも、ずっとイエス・キリストについて回った弟子ペテロの談によるものだろうとされています。そう思って読むと、生半可ではない衝撃をもろに受け続けたペテロの実感が随所に現れているようにも見えてきます。

マルコは、いつ、どこで、ペテロの談義を書きとどめたのか。

マルコは、はじめはパウロの第一次伝道旅行に随伴しました(使徒13:5)。ところが、旅の初めの頃にエルサレムに戻ってしまい(使徒13:13)、第二次伝道旅行では、パウロはマルコを伴うことを強く拒否します。それで、バルナバと一緒にクプロに行った、というところで、それからの消息は不明(使徒15:37-40)。

その後、再登場するのは、パウロがローマで獄中から書いたコロサイ人への手紙とピレモンへの手紙。おそらくほぼ時を同じくして書かれているペテロの手紙第一には、「わたしの子マルコから、あなたがたによろしく。」(1ペテロ5:13)とあります。マルコは、ペテロと共にローマにいたのです。その数年前にパウロがローマの人びとにに宛てて書いた手紙では、ペテロもマルコもローマ滞在者への挨拶として名が記されていません。また、エペソにいたテモテへの手紙の中で、「マルコを連れて、一緒にきなさい」(2テモテ4:11)とパウロが書いているので、ずっとローマにとどまっていたのではないことも確か。そして、ペテロもパウロも、この後すぐくらいに殉教しているのです。

マルコが直接ペテロから聞きながらそれを書き取っていったのか、それとも、ペテロの死後、あとで思い起こしながら書き綴ったのか、それは定かではありません。ペテロの多感で行動的な表現らしいところが見られるように思えるところどころの箇所(マルコ1:27; 2:9, 12; 2:18; など)からすると、生前に直接書き取っていたほうに高い可能性をおきたいところです。60年代前半から半ば、ローマで。ペテロの遺言と言ってもいいような「ペテロ談」なのです。

福音書の成立に関して、マルコ福音書が一番早く書かれた、とよく言われます。それに関連してしばしば名前が挙がるのが、「Q」という資料。実際にそうした文書があったのかどうか、見つかったことはありません。思うに、イエス・キリストが昇天した後、弟子たちはそれまでに見聞きしたことを、共々に話し合い尽くしたに違いないのですが、後日、イエス・キリストについて教会で、あるいは伝道において人々に語る時、その話し合い、確認しあった内容が核になったと考えられます。それが、「Q資料」として議論されているものなのだろうと推測します。Qは、マルコ優先説と結びついている仮説なのです。

弟子たちが、未曾有の経験をして記憶にとどめている教えや出来事は、決して忘れられるものではなかったはず。当時、著作を自由に印刷し、手にするような時代ではなかったから、物語を記憶し、繰り返し語り伝えるうちに、かなり定型的に定着していったのではないでしょうか。

マルコによる福音書は、ペテロが自分の経験に基づいて、ところどころさらに詳しい描写を加え、生き生きとした物語を伝えます。四つの福音書の中で一番短く、記されているエピソードが少ないのですが、一つ一つのエピソードの内容は、きらりとした具体的な描写があって、出来事の生々しさを伝える文章なのです。

なお、イエス・キリストとと最も早い時期に接触しているペテロとヨハネがかかわっている福音書は、どちらも物語はバプテスマのヨハネから始まっています。この二人の弟子が、自分自身が経験している範囲に絞って特に福音書を書いたのだと考えられます。

梗概

まずは、一連の物語を、段落ごとにタイトルをつけてみます。数えると88の小区分。それを大筋でまとめて14の中区分に、さらに、全体を眺めて4つの大区分に分けられそうです。

I. 神の子イエス・キリストの福音の提示 1:1-3:35
II. 神の子イエス・キリストの福音の信仰 4:1-8:30
III.神の子イエス・キリストの福音の教え 8:31-13:37
IV.神の子イエス・キリストの福音の完成 14:1-16:20

中区分を次のように14に分けてみました。

I.神の子イエス・キリストの福音の提示 1:1-3:35
1.福音のはじめ(1:1-15)
2.イエスの権威(1:16-2:12)
3.悪意ある反対勢力(2:13-3:6)
4.イエスにつく者たち(3:7-35)

II.神の子イエス・キリストの福音と信仰 4:1-8:30
5.神の国のたとえ(4:1-34)
6.イエスの力を信仰によって悟る(4:35-6:56)
7.ユダヤ人不信仰の背景、信仰の深化(7:1-8:30)

III.神の子イエス・キリストの福音の教え 8:31-13:37
8.栄光の主の死とよみがえりの教え(8:31-9:32)
9.高ぶりと神への従順の教え(9:33-10:52)
10.王イエスの権威の教え(11:1-33)
11.時を越えた主なるキリストの教え(12:1-13:37)

IV.神の子イエス・キリストの福音の完成 14:1-16:20
12.キリストの死への備え(14:1-42)
13.暴虐な裁き・死・埋葬(14:43-15:47)
14.復活(16:1-20)

詳細な梗概

I.神の子イエス・キリストの福音の提示 1:1-3:35
1.福音のはじめ
(1)バプテスマのヨハネの働きのはじめ<ヨルダン川> (1:1-8)
(2)イエスのバプテスマと荒野の試み<ヨルダンの荒野> (1:9-13)
(3)神の国は近づいた<ガリラヤ>(1:14-15)

2.イエスの権威
(4)弟子たちを招く<ガリラヤ>(1:16-20)
(5)権威ある新しい教えだ<カペナウム>(1:21-28)
(6)そこでも教えを宣べ伝えよう<ガリラヤ全地> (1:29-39)
(7)みこころでしたら(1:40-45)
(8)人の子が罪を赦す権威を持っている<カペナウムの家>(2:1-12)

3.悪意ある反対勢力
(9)わたしは罪人を招くために来た<海辺>(2:13-17)
(10)新しいぶどう酒を新しい皮袋に(2:18-22)
(11)人の子は安息日の主(2:23-28)
(12)イエスを殺そうとするたくらみ<会堂>(3:1-6)
(13)押し寄せる群衆<海辺>(3:7-12)

4.イエスにつく者たち
(14)みこころにかなった12人<山>(3:13-19)
(15)ベルゼブルなんくせ<カペナウムの家>(3:20-30)
(16)母と兄弟(3:31-35)

II.神の子イエス・キリストの福音と信仰 4:1-8:30
5.神の国のたとえ
(17)種まきのたとえ<海辺>(4:1-9)
(18)たとえの解説(4:10-20)
(19)聞く耳、聞くことがら(4:21-25)
(20)神の国のたとえのみ言葉(4:26-34)

6.イエスの力を信仰によって悟る
(21)風も海も従わせる<ガリラヤ湖>(4:35-41)
(22)ゲラサ人のレギオン<デカポリス地方>(5:1-20)
(23)ヤイロの懇願<向こう岸>(5:21-24)
(24)着物にさわった者は誰か(5:25-34)
(25)恐れることはない、ただ信じなさい(5:35-43)
(26)イエスにつまずいた郷里の人々<ナザレ>(6:1-6)
(27)12弟子たちの働き<付近の村々>(6:7-13)
(28)あのヨハネのよみがえり<ヘロデ王宮>(6:14-29)
(29)パンを食べた者は男五千人<寂しい所>(6:30-44)
(30)海の上を歩いて<ガリラヤ湖>(6:45-51)
(31)イエスがおられると聞けば<ゲネサレの地> (6:52-56)

7.ユダヤ人不信仰の背景、信仰の深化
(32)言い伝えで神の言葉を無にする(7:1-13)
(33)内部から出て人を汚す罪(7:14-23)
(34)子犬も子供のパンくずはいただきます<ツロ> (7:24-30)
(35)耳が聞こえず口が聞こえない人<ガリラヤの海辺> (7:31-37)
(36)また大勢の群集への食事(8:1-10)
(37)今の時代はしるしを求める<ダルマヌタ地方> (8:11-13)
(38)パン種を警戒せよ(8:14-21)
(39)盲人の手をとって村の外へ(癒しの奇跡一覧)<ベツサイダ>(8:22-26)
(40)あなたこそキリストです<ピリポ・カイザリヤの村> (8:27-30)

III.神の子イエス・キリストの福音の教え 8:31-13:37
8.栄光の主の死とよみがえりの教え
(41)人の子は必ず多くの苦しみを(8:31-33)
(42)自分の十字架を負うて(8:34-9:1)
(43)イエスの姿が変わり<高い山>(9:2-8)
(44)エリヤはすでに来たのだ<高い山を下って> (9:9-13)
(45)口を利けなくする霊につかれている息子(9:14-29);
(46)弟子たちは悟らず尋ねるのを恐れ<ガリラヤ> (9:30-32)

9.高ぶりと神への従順の教え
(47)誰が一番偉いか<カペナウムの家>(9:33-37)
(48)火で塩漬けられる(9:38-50)
(49)モーセの離縁状<ヨルダンの向こう側>(10:1-12)
(50)幼子のように神の国を受け入れる者(10:13-16)
(51)たくさんの資産を持っていた人の質問(10:17-22)
(52)先の者、あとの者(10:23-31)
(53)自分の身に起ころうとすること(受難と復活の予告一覧)<エルサレムへの途上>(10:32-34)
(54)仕えるために、贖いとして命を与えるために(10:35-45)
(55)バルテマイという盲人のこじき<エリコ> (10:46-52)

10.王イエスの権威の教え
(56)ホサナ、主の御名によって来たる者(最後の一週間一覧)<エルサレム>(11:1-11)
(57)イチジクの木(癒し以外の奇跡一覧)<ベタニヤ> (11:12-14)
(58)宮きよめとイエスに対する殺意<エルサレム> (11:15-19)
(59)イチジクの枯死と祈りの教え(11:20-26)
(60)イエスの権威に対する質問(11:27-33)

11.時を越えた主なるキリストの教え
(61)ぶどう園の息子を殺した農夫たちのたとえ話(12:1-12)
(62)カイザルへの税金についての質問(12:13-17)
(63)復活後の妻と7人の夫についての質問(12:18-27)
(64)第一の戒めについての質問(12:28-34)
(65)ダビデの子キリストについての問いかけ(12:35-37)
(66)律法学者が受ける裁き(12:38-40)
(67)金持ちと貧しいやもめの献金(イエス・キリストの教え一覧)<エルサレム>(12:41-44)
(68)神殿の崩壊予告と世の終わりの前兆の教え<エルサレム>(13:1-13)
(69)憎むべき者の到来と大患難の予告(13:14-23)
(70)主の再臨を迎える教え(13:24-37)

IV.神の子イエス・キリストの福音の完成 14:1-16:20
12.キリストの死への備え
(71)祭司長たちのイエス殺害の計画<エルサレム> (14:1-2)
(72)女の注油・キリストの葬りの備え<ベタニヤ> (14:3-9)
(73)ユダの裏切り<エルサレム>(14:10-11)
(74)過ぎ越しの食事の用意 <エルサレム>(14:12-16)
(75)裏切り者の予告と主の晩餐(14:17-25)
(76)弟子たちの離散とつまずきの予告<オリブ山> (14:26-31)
(77)受難についての主の祈り<ゲッセマネ>(14:32-42)

13.暴虐な裁き・死・埋葬
(78)イエスの捕縛と弟子たちの逃走<ゲッセマネ> (14:43-52)
(79)大祭司宅でのイエスの断罪<エルサレム> (14:53-65)
(80)現実となったペテロのつまずき(14:66-72)
(81)ピラトによる裁定(15:1-15)
(82)兵士たちの嘲弄と刑場までの道のり(15:16-23)
(83)十字架につけられたイエスとその周辺の人々(15:24-32)
(84)イエスの死とその周囲の人々(15:33-41)
(85)イエスの埋葬(15:42-47)

14.復活
(86)女たちが墓に来て御使いの知らせを聞く(16:1-8)
(87)マリヤやほかの者たちへの顕現(16:9-13)
(88)弟子たちへの顕現と宣教の命令(16:14-20)

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