11/6 Sound Holes Duo Concert プログラム&解説
※11/7 アンコール曲の解説を追記しました!
来たる2021年11月6日(土)、ルーテル市ヶ谷センターにてコンサートを開催します(わたしたちの自己紹介は1記事目をご参照くださいませ)!
当日は簡単なプログラムのみお配りしますので、コンサートに先駆けまして、プログラム&解説を公開いたします。演奏をお楽しみいただくための一助となれば幸いです。
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第一部
トリオ・ソナタ第1番BWV525より第1楽章/J.S.バッハ(A.クラウゼ編)
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685-1750)が作曲した、オルガン独奏のための作品。通常「トリオ・ソナタ」というと、2つの独奏楽器と通奏低音の合奏形式の楽曲を指しますが、この曲ではその3パートをオルガンの右手・左手・足鍵盤パートがそれぞれ担っています。ひとりで弾いているのにまるで3人で演奏しているかのように聴こえる、魔法のような曲です。
A.クラウゼによるギター二重奏版は、どちらのパートもほぼ常に2つの声部を演奏することで、3声の響きを作るという非常に手の込んだ編曲になっています。通常のトリオ・ソナタの合奏形式に編曲しなおして演奏されることもあるそうですが、このギター二重奏への編曲は、原曲の「一人三役」の複雑さの味わいを残しているように思います。
平均律ギター曲集Op.199より第4番ホ長調/M.C=テデスコ
イタリア系ユダヤ人の作曲家マリオ・カステルヌオーヴォ=テデスコ(1895-1968)が、イダ・プレスティ(1924-1967)とアレクサンドル・ラゴヤ(1929-1999)による伝説的なギターデュオ「プレスティ&ラゴヤ」に献呈した作品。テデスコはギターのための素晴らしい作品を多く書いていますが、その中には二重奏のための楽曲もいくつかあり、どれも重要なレパートリーとなっています。
「平均律ギター曲集」はギター二重奏のために書かれた曲集で、バッハが作曲した「平均律クラヴィーア曲集」をオマージュし、24のすべての調による前奏曲とフーガから構成されています。今回演奏する第4番ホ長調は、うねるようなアルペジオが特徴的な美しいプレリュードと、ユニークなメロディーが耳に残るフーガからなります。曲集の中でも特に取り上げられることが多く、世界中のギターデュオに愛奏されている一曲です。
『夢』Op.101bisより愛の歌/I.アルベニス(Sound Holes編)
スペインの作曲家イサーク・アルベニス(1860-1909)は多くのピアノ作品を書いていますが、その相性の良さからたくさんの曲がギター用に編曲されています。ギター独奏版の「コルドバ」や「グラナダ」を聴くと、ギターのための作品に聞こえるほどです。今回はそんなアルベニスの曲の中から、歌ものを選んで二重奏用に編曲しました。"小さなオーケストラ"とも呼ばれるクラシックギターですが、ギターデュオという形態は、ギターの技術的な制約を克服すると同時に、人数も最小限(2人)におさえた非常にバランスのとれた編成であると感じています。今後も、編曲でギター二重奏レパートリーを広げたいと思っています。
なお、楽譜はnoteにて公開(無料)しております。
この編曲を、いつかどこかでほかのデュオにも演奏してもらえたら嬉しい限りです。
2つのスペイン舞曲Op.164よりアラゴン[ホタ・アラゴネーサ]/I.アルベニス(デュオ グルーバー・マクラー編)
同じくアルベニス作曲の、打って変わってスペイン色の強い舞曲です。東北スペインのアラゴン地方に知られるホタ(速い三拍子とカスタネットの伴奏にのせて踊られる舞曲)のリズムがモチーフになっています。ホタのリズミカルな部分と感傷的な歌の部分が特徴的な作品です。
編曲をしたグルーバー・マクラ―はドイツのギターデュオで、2019年の来日の際に初めて演奏を聴き、感激しました。アラゴンはそのコンサートの中で弾かれた曲の一つで、すぐに楽譜を購入して練習にとりかかったことを覚えています。
グラン・デュオ/N.コスト
ギターを弾く方ならだれもが知っている、フランスのギタリスト兼作曲家であるナポレオン・コスト(1805-1883)の二重奏曲です。副題の"égales et concertantes"はフランス語で「平等かつ協奏的に」のような意味合いで、どちらかが伴奏・旋律を専属で担当するわけではなく曲を通じて役割を次々と交代しながら演奏されます。全4楽章からなり、快活な一楽章の後、宗教的で穏やかな二楽章、「舟歌」という題の付いた三楽章と続き、最後は疾走感のある四楽章で締めくくられます。
ギタリストが書いた曲らしくクラシックギターのレンジを上から下まで広く使った、ザ・ロマン派といった豪華できらびやかな曲です。
第二部
ジョビニアーナNo.1/S.アサド
プレスティ・ラゴヤと並んで最も有名なギターデュオと言えば、ブラジル出身の兄弟による"Duo Assad"で異論は無いのではないでしょうか。兄のセルジオ・アサド(1952-)、弟のオダイル・アサド(1956-)による驚異的なシンクロはまるで一本の楽器を弾いているようであり、ギターデュオの完成形という印象さえ受けます。兄のセルジオは、ギター作品以外の楽曲の編曲に加えて、作曲も手掛けており、1986年に作られたのがこの「ジョビニアーナ(Jobiniana) No.1」です。名前の通りブラジルを代表する音楽家である「アントニオ・カルロス・ジョビン」へのオマージュとして作られており、異なる楽器編成でNo.4まで存在します。ギターデュオのための本作では、ブラジルらしい軽やかなリズム、美しいメロディー、爽やかなハーモニーが詰め込まれています。
実は約4年前、我々が初めて舞台で演奏したのがこの曲です。この曲を選んだ時の気持ちを忘れずに、パワーアップした演奏でこの曲の魅力をお届けできればと思います。
エレジー/J.Y.ダニエル=ルシュール
フランスのオルガニスト兼作曲家である、ダニエル・ルシュール (1908-2002)がプレスティ・ラゴヤ夫妻のために作った作品です。同デュオは短い活動期間にも関わらず素晴らしい作品を多く献呈されており、この「エレジー(哀歌)」もそのうちの一つです。冷たく進むメロディーに、激しく上下するアルペジオが重なったかと思えば、劇的にユニゾンが鳴り、ギターに特徴的なトレモロ奏法も使用された、表情豊かな曲でありながら、全体としては名前の通りどこか「哀しさ」が貫いているように聞こえます。
今回のプログラムでは唯一の現代曲ですが、曲の持つ響きをそのまま感じて頂けたらと思います。あえて現代曲に絞って曲を探して見つけたのがこのエレジーでした。今後も、演奏機会の少なくなってしまった名曲を探して取り上げていきたいと思っています。
『6つの小品』より間奏曲Op.118-2/J.ブラームス(A.クラウゼ編)
バッハ、べートーベンと共にドイツ音楽の3Bと称されるブラームス(1833-1897)による、ピアノのための小品がオリジナルです。編曲は一曲目のバッハと同じくA.クラウゼによります。ブラームス最晩年の作品の一つである有名な楽曲で、その切なく美しい旋律とドラマチックな展開を、グレン・グールドの演奏で聴いた方も多いかもしれません。
ギタリストにとってはあまり縁のないブラームスですが、2019年公開の映画『マチネの終わりに』(福山雅治が主人公のクラシックギタリスト役を演じたことで話題となりました)にて、作中で本楽曲がギター(ソロ)で演奏され、その後ソロ編曲譜も出版されたという、実は特別な作品です。今回はソロではなく、ギターデュオにて、原曲の魅力そのままにギターの美しい音でお聴きください。
タンゴ組曲/A.ピアソラ
今年生誕100周年を迎えた、アルゼンチン出身の作曲家アストル・ピアソラ(1921-1992)による、ギターデュオのための作品です。ピアソラは、それまでのタンゴにクラシックやジャズの要素を融合させた、Tango Nuevo(新しいタンゴ)という形態を産み出したことで知られており、クラシック以外のジャンルでも幅広く演奏されています。この作品は、アサド兄弟のコンサートに訪れたピアソラが、彼らが自身の別作品をギターデュオに編曲して演奏したのを聴いたことをきっかけに、彼らのために作られました。Deciso、Andante、Allegroの三楽章からなる本作は、ギタリストではない作曲家によって作られた作品とは思えないほどギターの魅力が存分に引き出されており、ギターデュオオリジナル作品の名作の一つに数えられています。
高い技術やアンサンブル能力が要求される曲ですが、デュオを組んだ頃からふたりで演奏したかった、大好きな作品の一つです。タンゴのリズムのキレやピアソラらしい哀愁のあるメロディーをお楽しみ頂ければと思います。
(以下、11/7追記です)
アンコール
『3つのブラジルの風景』より「珊瑚の街 レシフェ」/S.アサド
南米のテンションを引き継いで、アンコールとしてS.アサドの作品を演奏しました。比較的短い3つの曲で構成され、本曲は、1.Pinote(跳躍)、2.Vitoria Regia(オオオニバス)に続く3つ目の曲です。レシフェはブラジルの地名で(原題は"Recife Dos Corais")、ポルトガル語で「礁」を意味しタイトル通りサンゴ礁で有名な街のようです。またカーニバルの三大開催地の一つでもあるようで、本作もサンバのリズムがベースの、楽しくリズミカルな曲です。
☆11月6日のコンサートは、たくさんのお客様にお越しいただき、つつがなく終演いたしました。みなさまのご来場、本当にありがとうございました!
使用ギター:Kim Lissarrague
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このような単独の演奏会を、今後も年1回程度のペースで企画していきたいと思っております。ひきつづき応援いただけますと嬉しいです。
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