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テイクアウト吟行② セカンドハウス北山店(北山)

文・写真・短歌 池田明日香
(お店の許可をいただき写真を撮影・掲載しています)

本から顔を上げたら5時になっていた。カーテンから漏れ出るぬるい光につられて窓を開けると、肌にまとわりつくような湿気に襲われる。忘れていた京都の夏の暑さが一瞬で蘇る。カーテンはそのままにして、布団に潜る。

気がつくと時刻は11時。身支度をして自転車を漕ぐ。目的地はセカンドハウス北山店だ。店に入るとショーケースの中でケーキが輝きを放っている。美しい……だけど今日は「スパゲッティのセカンドホワイトソース」と「キッシュパイのほうれん草ベーコン」をテイクアウトすると決めてきたのでまた今度。

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重みのある紙袋をハンドルにかけ、るんるんとした気持ちを抑えてゆっくりと自転車を漕ぐ。府立植物園の緑は夏を予告する空気に応えて幾分か青々としているように見えるが、残念なことに臨時休園中のためその緑は外側からしか楽しめない。ゆっくりと通り過ぎ、賀茂川の河川敷へ降りる。

ランニングや散歩する老若男女を横目にベンチ脇に自転車を止める。同じ人が集まる空間でも、電車や病院はいやだが賀茂川はなぜか心地よい。人がいない賀茂川より人がいる賀茂川の方が安心する。

スパゲッティスパゲッティ♪と踊る気持ちを抑えて、分けてあったホワイトソースを贅沢に麺にかける。見るだけでわかるソースのとろみに胸を躍らせながら、フォークに麺を巻きつける。一瞬で麺に絡むソースに尊敬の念を抱きながら、優しい味ににやけてしまう。このホワイトソースは家庭的なだけではない。ベーコン、エビ、しめじ、えのき、しいたけ、ほうれん草、玉ねぎ、コーンと具だくさんなのである。実家のホワイトソースはベーコンとしめじだけだったので、ホワイトソースの概念をアップデートされた気分だ。

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一人分の重みを賀茂川に持ち寄るエビが入ったホワイトソース

最後までソースたっぷり。満腹なのでキッシュパイは帰宅して食べることにする。

在宅のバイトを終え、キッシュパイを包むアルミホイルを丁寧に剥ぐ。ついにキッシュパイのお目見えだ。

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香ばしいにおいに鼻歌を歌いながら、フォークを刺して一切れ持ち上げるとチーズが伸びる伸びる。ふーふーして口に入れると、チーズとベーコンの香りが口いっぱいに広がる。バイトの後のとろけるチーズは最高だ。

多分誰も見てないけどチーズを伸ばす
退出できない一人の部屋で


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