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僕がnanacoカードを作った理由

僕は3~4年前に千歳烏山という駅に住んでいた。

世田谷区のはしっこで、調布市の隣。

隣の校区の高校に通っていた同期に聞いた所、千歳烏山には近付くな、と先生から言われるくらい、当時はヤンキーで溢れていたらしい。高校ヤンキー漫画のモデルにもなったとか。

僕がいた時には全然そんな事なくて、飲み屋が多く明るい街の印象だ。今も月に一回は行く大好きな焼き鳥がある。

そんな千歳烏山に2年間住んだ。

その2年間ほぼ毎日家の近くのセブンイレブンを使っていた。

芸人の仕事は時間という概念がないので、

早朝 朝 昼前 昼過ぎ おやつの時間 夕方 夜 夜中

あらゆる時間帯に行っていた。

たまに、いつ行ってもこのコンビニ混んでない?って店ありますよね?

そのセブンイレブンもまさにそうだった。

一番近くて便利なのだが、いつも混んでレジに並ぶのが少し嫌だった。

そう思いながら通って3ヵ月目くらい、

nanacoカードを作るきっかけとなる衝撃の出会いがあった。

単独稽古で終電で帰り、いつものようにセブンイレブンに寄った。

今の時期ならアウトなくらい、終電終わりのそのセブンイレブンは混んでいた。

弁当と酒とおつまみを買い並んだ。

レジは1人だし、この列の長さなら5分はかかる。ボロいスマホをいじりながら待っていた。

だが、2分も経たないうちに後ろから肩をポンポンとされ

「レジ空いてますよ」

と言われた。

そんな馬鹿な、あの長さの列がこの速さで終わるわけない。レジに店員さんが1人増えたのかな?と思い急いでレジに行った。

レジは1人だった。

あの人数を、この店員さんが1人捌いたのか?

半信半疑で商品をレジに置いた。

その店員さんは鬼のようなスピードで、商品をスキャンし袋詰めをし、値段を伝えてきた。

僕はまだ財布のチャックを開ける前だった。

速すぎる。

おそらく、スキャンから袋詰めまでの速さが日本一。

動きに全くの無駄がなく、雑どころか、むしろ丁寧なくらい。北斗の拳のトキみたいだった。

慌ててお金を出した。

お金出したと同時に、反対の手には商品とお釣が握らされていた。

は、速すぎる。

初めて感覚だった。

まさに、ファーストキスの相手が大学生のお姉ちゃんの友達で、お姉ちゃんには内緒だよ?って言われて、こそっとチューされた感覚だ。

想像だけど。

なんかふわふわした。

効率を重んじる僕に、レジのお会計で慌てさせた唯一の店員さんだった。

あっけにとられ、ドアから出ようとした時に

「ありがとうございましたー!またお越し下さいませー!」

と、太くて芯はあるが、透き通る声で言われた。

声まで完璧なんかい。

僕は完全にファンになった。

その店員さんは20~25歳、色白で身長は180くらい、体は少しがっちりしていて、爽やかな好青年って感じだった。名前はT君。

通っていくうちに、T君は23時~朝9時くらいの夜勤をメインにやっている事がわかった。

きっとT君は忙しい夜を1人で回し、深夜は商品を補充、掃除、そして朝イチから気持ちよくお客様を迎えるために、自らその時間帯を希望していたのだろう。

さすがT君だ。(全部想像)

ロッカーも整理されていて、ロッカーには

「笑顔」

「元気」

「俺のレジに列は作らせない」

と書いてあり、家族の写真が貼ってある。(全部想像)

そんなT君は僕の事を覚えてくれて、

「お客様、毎日いらして頂いているので、nanacoカードを作りませんか?お得ですよ!」

と言ってきた。

僕はあまりポイントカードを持たないので、やんわり断った、

T君の喋りかける間とテンポとトーンも素晴らしく、

とにかく完璧な店員さんだった。

そんなT君には1つ伝説がある。

僕が使うセブンイレブンの100メートル先くらいにサンクスがあり、僕が駅に向かう道順的には、

家→セブン→サンクス→駅

になる。

朝早い仕事で、6時くらいにセブンイレブンを通り過ぎ、サンクスの駐車場を曲がろうとしたときに、

なんと、T君がサンクスの前の道を掃除していたのだ。

僕は目を疑った。

セブンイレブンの制服を着た人がサンクスを掃除していたのだから。

きっとT君は、セブンイレブンの前を掃除している時に、街を綺麗にしたいという気持ちが溢れだし、気付いたらサンクスの前にいたんだろう。

サンクスの店員が、

「ありがとう」

セブンイレブンのT君は

「いい気分です」

と、会話したのは簡単に想像つく。

しかし僕は、

いや、人間はなんて贅沢な生き物なんだろう。 

T君のレジに慣れすぎて、T君が休みの時にめちゃくちゃイライラする体になってしまっていた。

T君がいない日はN君がいた。

N君のいる日はハズレの日と思ってレジに並んでいた。

N君は細くて冴えない学生さんって雰囲気のなよなよした感じの青年。

レジも遅く、声も小さい。お世辞にもいい店員さんと呼べる感じではなかった。

T君の日は嬉しくて、N君の日は悲しい、

そんなセブンイレブンライフが一年続いたころ、

事件は起こった

T君が全くシフトに入らなくなったのだ。

僕はあらゆる理由を考えた

大学生卒業して就職したとか、

実家の農家を継いだとか、

子供を助ける為に車で引かれて入院したたか、

他のコンビニにヘッドハンティングされたとか、

いろいろ考えたが、結果的に、裏切られた気持ちになっていた。

そこからセブンイレブンとは距離を置き、サンクスを使うよになった。

それから半年。

久しぶりにセブンイレブンに行ってみた。

ドアが開いてもT君の声はしない。

あぁやっぱりか、僕はうつむきなが商品を選びレジに置いた。

すると、僕が財布に手をかける前に

「○○○円になります」

と言われたのだ。

このスピードはまさかT君!と思い僕は顔上げた。

そこにはN君がいた。

僕はすぐに、T君がセブンイレブンからいなくなった理由を悟った。

T君はN君がすぐに自分レベルまで育つと分かっていたんだ、自分がいたら成長の妨げになるから、自ら出ていったんだと。

僕はなんて馬鹿なんだ。T君を裏切り者扱いした自分を恥じた。

そして僕はN君にこう言った。

「nanacoカードを作りたいです」

5月が終わりますね。

今月から始めたnote、沢山のサポートありがとうございます!

来月も出来る限りやりたいと思います!

今月頑張ったご褒美に今日は炭水化物をぶち込みまくろうと思います!

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