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市町村別のエネルギー自給率について

こんにちは、つくばに住む研究者です。

今回は表題の通り、関東地方の各市区町村のエネルギー自給率について考えてみます。

多くの方が知るように、日本はエネルギーの多くを海外から輸入する化石燃料に依存しています。資源エネルギー庁の資料によれば、日本のエネルギー自給率はOECD諸国の中でもかなり低い水準であり、OECD38カ国の中でも2番目の低さとなっています。(1番はルクセンブルグです)

https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2022/001/より

化石燃料のうち、特に原油は中東地域の依存後が高く、およそ9割を中東地域から輸入しています。中東では情勢が不安定化していることから、今後のエネルギーの安定的な確保は特に重要な課題となっています。

環境エネルギー政策研究所では、持続可能なエネルギー社会の実現のための研究活動の一環として、地域ごとの再生可能エネルギー自給率について取りまとめています。

まずは、このデータを使って関東地方の各自治体の電力自給率を地図にしてみようと思います。地域の再生可能電力自給率(以下では単純に電力自給率とします)のデータは同研究所の「永続地帯」のページから取得します。市区町村の境界データはいつも通り国土交通省の公開する地図データを使います。

今回もいつも通りGoogle Colabを使います。まずは地図データを操作するためのGeopandasライブラリをインストールします。

!pip install --upgrade geopandas --q

必要なライブラリをインポートします。

import geopandas as gpd
import pandas as pd
import numpy as  np
import matplotlib.pyplot as plt
import matplotlib.cm as cm

#地図を表示するためのライブラリ
import folium
from branca.element import Figure

from google.colab import drive
pd.set_option("display.max_columns", None)
drive.mount('/content/drive')

エネルギー自給率のデータと境界データを読み込みます。

df = pd.read_csv('市町村別エネルギー自給率のデータ.csv')
gdf = gpd.read_file('市区町村の境界データ.csv')

まず、境界データを東京近郊の市区町村にしぼります。電力自給率データは基本的には市レベルのデータですが、一方で境界データは千葉市などの政令指定都市では区レベルで分割されているため、レベルを統一するために境界データの方を結合(dissolve)します。

データが重すぎて描写ができなくなるので、ついでに図形を単純化(simplify)しておきます。

gdf = gdf[gdf['N03_001'].isin(['茨城県','千葉県','埼玉県','東京都','神奈川県'])].reset_index(drop=True)
gdf["geometry"] = gpd.GeoSeries(gdf["geometry"]).simplify(tolerance=0.000001)


gdf_area['N03_003'] = gdf_area['N03_003'].fillna('')
gdf_area['市町村名']=gdf_area['N03_003'].str.cat(gdf_area['N03_004'])

#政令都市の区を結合
gdf_area =gdf_area.dissolve(by='市区町村')

#2つのデータを結合
gdf_area = pd.merge(gdf_area,df,left_on='市町村名',right_on='市区町村',how='left')

gdf_area = gdf_area.reset_index()

2つのデータを、市区町村名を基準に結合(merge)したいところですが、表記のレベルが一致しないためそのままではうまくいきません。
例えば自給率のデータでは住所の表記として「A群B町」というように書いていますが、境界データでは「A群」と「B町」の住所レベルが2つのカラムに分かれています。境界データのほうに、2つの列を合成した新しい市町村名のカラムを作り、これをキーとして結合します。

これで境界データと自給率データを持ったデータフレームを作ることができました。過去の記事でも使っているコードを使って地図に重畳します(コードはここでは割愛します)。

作成した電力自給率マップ

それぞれの色に対応する自給率(%)は下記の通りです。

東京都の23区の周囲では殆どの自治体で電力自給率が30%未満ですが、唯一府中市では30%を超える自給率となっています。つくば市の電力自給率は残念ながら30%未満のようです。

東京から離れるにつれて自給率は上がりますが、とくに千葉県や茨城県の太平洋側の地域では自給率が高くなっていることがわかります。埼玉県や神奈川県にも黄色の地域がありますが、市ではなく町ですので、電力需要の少ない自治体の可能性もあります。町村を除く各市について、上位の30都市の電力自給率の内訳を見てみます。

市の規模で自給率が100%を超える自治体の数は合計で7市となりました。また上位の30都市の殆どについて、再生可能エネルギーの大半を太陽光発電が占めていることがわかります。7都市中の5都市では太陽光発電だけで100%の自給率を達成しています。

太陽光発電を除いては、北茨城市と秩父市などの山間を持つ自治体で水力発電の割合が高く、神栖市や銚子市などの沿岸の自治体で風力発電の割合が高いようです。茨城県の神栖市や鹿島市では最近になって洋上風力発電も導入されています。
再生可能エネルギーの自給率で注目されるデンマークでは洋上風力発電の利用も盛んで、風力発電による電力自給率が50%を達成しているということですから、沿岸部の風力発電のポテンシャルは高そうです。

さて、地方都市では近隣の中枢都市で働く労働者なども多いために生産活動にかかる電力を別の都市が負担しているなどの事情もあり、単純な比較は難しくなります。人口の規模が大きな都市ほど自給率では不利になりやすいため、人口の規模も踏まえて比較をする必要がありそうです。

自給率が50%を超え、人口が15万人以下の自治体について、自給率と人口数を散布図にしてみます。縦軸が自給率、横軸が人口です。負の相関が読み取れます。

茨城県の神栖市は興味深い都市です。神栖市は人口は10万人弱と比較的大きく、多くの産業も集まる都市ながら自給率は100%を超えています。神栖市以外で自給率が100%を超える都市はいずれも人口が5万人以下です。秩父市は100%に達していませんが、人口は6万人を超えており、需要の大部分を水力発電で賄っています。こちらも興味深い都市です。

次回は食料自給率について考えてみたいと思います。

それでは。

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