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麻希のいる世界

一部で熱烈に話題の塩田明彦 脚本/監督作品『麻希のいる世界』を観て来たので感想を書いて見ようと思います。
とは言え色んな人が感想書いてて、記事やインタビューも溢れてるし、同じような事を書いてもツマラナイなと。この映画の評価は分かれる。とは監督も認めている事なのですが、個人的に周囲の評価に対しては概ね「色眼鏡90%」な訳で。彼女がどうたら役柄がどうたらと。
それは悪い事じゃないと思うし逆にとても良い事だと思う。でも個人的にそうじゃないだろ?と思う感覚もあるのでその辺をHAM目線で書いて見ようかと。折角2回も観に行って、塩田監督や出演者の想いを直接聞けたからね。

あと、ネタバレも含むのでご了承を。なんか最近の若い子はネタバレ見てからじゃないと嫌って事もあるらしいですね。超無敵クラスで言ってましたw

さよならくちびる から2度目の出演で主演女優を務める2人

まず最初に、この映画を2度3度見て内容を理解するって感想があるけど
個人的に全然そんな事無いです。普通に1回見たら理解できます。3600円と160分以上を投資しないと映画を理解できないなんて事無いです。そんなクソツマラナイ映画じゃ無いです。良い映画だから2度3度見に行く映画です。
これ、凄く大事な事なので最初に書いておきます。

この映画は文字通り麻希のひっちゃかめっちゃかな行動に振り回される良い子(のフリをしてる由希)のラブストーリーだそうです。
監督がそう言う事にしてと言ってたのでそうしときます 笑

監督のいくつかの映画も見たし、劇中歌を担当された向井秀徳氏も前作「さよならくちびる」のストーリーの元ネタになってるナンバーガールの人だし。って言うか僕らの年代だとZAZEN BOYSの方が遥かに知名度髙い人です。

卓録した音源を作り直して欲しいと話す麻希

で、この映画をどうHAM目線で書くかと言うとですね。
『音』の表現なんですよ。
塩田監督の間と言いますか、アングロ的と言うかどこか白黒時代の古き良き英国映画のようなと言いますか。そう言うのが好きな人にはたまらない監督さんなんだと思います。塩田監督にもう少し、あと10%くらい興業的センスが入ってたらイオンシネマでロングラン出来る映画が作れるのになぁ。って思うのであります。商売人じゃないんでしょうね。映画人ですね。

それでまぁ、その「音」なんですけど。一番分かり易くて劇中でも非常に印象的なドロップDで弾くギター。最初に歪ませる作業からが重要で、ぎゅい~んとE弦を1オクターブ下げるオルタナイト?でいいのかな。そう言うチューニングが麻希に凄くマッチしてて、監督の説明では、日髙麻鈴ちゃんが向井氏から直接指導を受けた時に必ずこの作業を映像でもするようにと教わったそうです。その歪んだ世界観が麻希なんだと。なるほどねと。サブスクで配信も始まっているので良かったら聞いてみてください。向井氏のマイナーVer.とメジャーVer.も入ってるので聴き比べるのも楽しいですよ。個人的感想としてメジャーVer.に”敢えて”入ってる「はっ!」って言う掛け声が拘りなんだろうなと思いました笑 なんとも力強い曲です。

実はこの映画、それ以外にも歪んだ音と言いますか、濁った音が要所要所に効果的に入ってくるんですよね。例えば前半に出てくる自転車を倒すシーン。由希が倒して祐介が倒して。ガシャーンって音。破壊音と言うか、音としては気持ちの良い音ではない。自転車を倒す事で思いを伝えているシーンなのでしょう。倒すと言う事に主眼が置かれているのだと思いますが、どちらかと言うとガシャーンの方が伏線的に良い気がしました。
これ、濁音だよね。

その割に由希が倒れる音は冒頭はほとんど聞こえない。
※彼女は病で意識を失うシーンがある
最後の手前、病院で倒れるシーンではカーテンを引っ張る音がする。
これ、無意識じゃないとしたら相当有能なスタッフ付いてませんか?監督。
※倒れるシーンを効果的に使い分けてる

ボーリング場でもガコーンとかの所謂ボーリング場の音が入る。
これも破壊音であり濁音

そして海辺の漁師小屋では声と海の音以外はほとんど入らない。
澄み切った音。この差から物語が始まるんですよね。

コーヒーをすする音 ズズズズと飲む麻希。
コーヒーを入れて来てと祐介が頼んで由希がコーヒーミルで豆を挽く音
ゴーリゴーリゴーリゴーリ。

場面転換と言うか、雰囲気がかわる時に濁音や歪音が入るんですよね。
それが漁師小屋シーンとの対比になる。

他にもシンバルスタンド蹴ったり笑
↑シンバル蹴ると骨折れるから(吉川晃司)

それで、後半に入ると由希は声が出なくなる。
そうカーテンを引っ張って倒れてから。主人公が話さずに物語の終盤を迎えるんです。濁音が入らずにストーリーが一気に進みだすんですね。
僕はこれを非常にリズミカルな映画だと感じました。

音楽の映画ではないけど、十分『音』に着目してる映画じゃ無いかと。

だから、てっきり声が出ないのもその伏線回収的な要素が含まれてると思ってたんですよね。メロンパン食べるのも麻希と由希の関係性を語っているのかな?と。無音で食べてる事に、逆に音の意識があるんじゃないかと。

濁音や破壊音のタイミングや効果的なリズムは全て麻希の性格と歪んだ世界感や、ある種レズビアンのようなジェンダーに対する事への葛藤見たいな表現もあるのかなぁ?なんて。コロナ禍で苦しんでる最中に作られた映画と言う部分も全部含めて。

で、まぁ最後に監督に直接聞く機会があったので聞いてみた訳です。
音の作り方とかコーヒーの淹れ方にこだわりやメッセージ性はあったのですか?と。監督はもちろんそのシーンで由希と祐介の家柄としての関係性や、お兄ちゃんとしては好きだけど、彼氏としては嫌いみたいな所も表現していたと仰っていました。なるほどねぇ、と。

ただ、監督としてはそこまで「音のタイミングや音そのものに拘っては無かった」的な話をされていて、僕が効果的な音の出方ですよね、コーヒーミルのゴーリゴーリのリズムとかガシャーンとか、ギターコードの様な歪や濁音の使い方が。と言うと「意識はしていなかったがそう言われると確かにそうですね」と。

要するにHAMが思ってる様な「音」に拘りを持った映画じゃなったw
なんともオチが付いたところで感想を終わりたいと思います(笑)


他にもクセの強い高校生ドラマーや警察呼べよw見たいなシーンから細かい見どころもあるので面白い映画だと思います。内容は重いけど。
コーヒーについては映画業界にコーヒーに煩い人が凄く多くてああなったんだそうな。ちょっと分かる気がする。確かにコーヒーの挽き方上手いし。

あ、あとタイトルは麻希のいる世界で、実際にそういう映画なんですけど

「由希が望む世界/奮闘劇」と考えて見て貰えば重い映画じゃ無くて、強い映画なんだと見方変わる気がします。

主人公は「青野由希」です。

話変わるけど、窪塚愛流くんは顔も小さいのに背も高くて
お父さんに似てるけど目の雰囲気が少し狂気じみてて、この映画の役どころにドンピシャだと思いました。スパルタ教育受けてたってテレビでやってましたけどw
礼儀も凄く正しいし、マネージャーさん明るい人だし笑
こんな2世も居るんだなぁと感心しましたよ。
きっと将来芸能界で活躍できると逸材だと思いました。
日髙麻鈴・新谷ゆづみ・窪塚愛流
日本のエンタメもまだまだ行けると思った映画でしたとさ。


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