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あんた、三日間も寝てたのよ


2021年2月24日


 取引先から帰社する途中に吸うタバコがなにより旨い。嘘だよ。お前にゃ負けるよ。でも上位には食い込む旨さなのでその日も喫煙所で一服していると、


「今、生活保護を受けている最中でして…」


 というおじさんの声が右隣りから聞こえてきた。


 生活保護?ちらっと横に目をやると推定50歳前後の男性が、目の前に誰もいないのに平身低頭でペコペコしている。片耳にスマホを当てて誰かと通話中のようだ。声は更に続く。


「はい、それで、生活的にも苦しくてですね……」


 決して褒められる行為じゃないが、どうも気になるのでタバコを吸いながらしばらく聞き耳を立てていた。通話内容から察するにおじさんは今かなり困窮した状況で、カウンセラーかなにかに相談をしているところらしい。


「実は、あの、ギャンブル依存症というか……それで、なんとか今、治りかけているところでして」


 やっぱそういう人もいるもんだね、なんて無責任極まりない感想が浮かんでしまい少し反省する。俺はこのおじさんのことを何も知らないし、それは向こうだって同じだろう。でも治りかけているんなら希望はあるはずだ。今の俺にできる事は、彼の前途が月面の太陽のように、ドラッグストアの駐車場のように眩く輝いていることを祈るばかりだ。


 ただ一つ腑に落ちないことがある。


 この喫煙所、パチンコ屋のすぐ前にあるんだよな。本当に治りかけてるのか?


2021年3月1日


 公園の中を通れば駅までの道のりを数秒ショートカットできる。今朝も園内を足早に通り過ぎようとしたとき、なにかを踏んでしまった気がして立ち止まった。ボヨンとかボヨヨンとか、分かりやすい感触が足裏にあったわけではない。ただ、確かに気配がした。


 大変なものを踏んでないこと(仔猫、パン、祖国の土など)を祈りながら足元に目をやると、果たしてそれは地面に描かれたハートの絵であった。


 なーんだ、とはならない、ならないのは脳裏に浮かべてしまったから。かかとを浮かせながらしゃがみこんで地面に絵を描く、毛玉だらけのフリースを着た小学生低学年くらいの女の子を。


 別に未来永劫残すつもりで描かれたハートじゃないだろう、かといって少しも痛まないほど鈍感な心は持ち合わせてない。繊細で傷つき易いのが俺だ。この前は空のペットボトルが部屋に溜まりすぎて泣いた。ちょちょぎれた。


 ちゃんと下を見ながら歩けば良かった。いや、そもそも公園を通らなければ良かった。すまんなあ、いつか向こうで会ったら一発殴ってくれ……(※)と心の中で手を合わせて歩き出そうとしたとき(※2発目以降は料金が発生)、ハートの中心に文字があることに気づく。


 ハッキリと書かれていた。「アホ」の2文字が。


 その瞬間、脳内の女の子の外皮はドロドロに溶け、中から坊主頭の小学生男子が現れる。乾いた鼻水でガビガビの口元にニヤニヤと笑みを浮かべて。くそ。純真な俺の心を弄びやがって。合わせた手を返してくれ。俺の部屋のペットボトルも片付けてくれ。


 悲劇は終わらない。ハートの近くには別の絵が描かれていた。


 茹でたシャウエッセンみたいにそり返った横向きのチンポの絵が。丁寧に玉までぶら下げて。先端からは現在のダイエーのロゴみたいに汁がピュっと飛び出している。


 もはや女の子とかバカな男子とかそういう次元じゃない。恐ろしいよ。普通、我々が描くチンポは真正面から被写体を捉えているもんだ。


 アメリカ人しか描かないんだよ、横向きのチンポは。


2021年3月3日


 レオトイ氏というユーチューバーがいる。玩具やボードゲームなどを中心としたレビュー動画を投稿されている方で、同じ趣味を持つ俺は好んでよく視聴している。



 そのチャンネルでUNOの50周年記念セットのレビュー動画が上がっていたので見ていたのだが、コメント欄にこのような投稿があった。









 UNOから一気に飛びすぎじゃない?



前に進む理由をくれ