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ネックがネック


 首が痛い。痛すぎる。出来ることならこれを読んでいる人と代わってやりたい。


 本当に首が一日中痛くてしょうがない。俺は俗に言うストレートネックで、本来ならばゆるやかなカーブを描いてないといけない首の骨が真っ直ぐに歪んでいるらしい。真っ直ぐなのに歪んでいるとは変な言い方だ。息子の大学進学のための預金を全額引き出してユニセフに寄付するとかそういうときにしか使われないフレーズだろう。まったく嫌な骨格を持ってしまったものだ、ポジティブに捉えれば天国への直線距離が短いとも言えるので、今すぐ必要な方には是非お譲りしたい。


 もう、ここ10年ぐらいは体調が本調子だった日が存在しない。8時間寝ても朝になったら普通にだるい。一度、酒を浴びるほど飲んで12時間寝てみたこともあったがそれでも辛かった。どんなに睡眠を取ったとしても目覚める瞬間に就寝前の疲労がリターンされてしまう仕組みらしい。レンタル彼女みたいなシステムだな。


 特に辛いのは仕事中。大きな声じゃ言えないが、俺は一応プログラマーを生業としているので、日中はずっとパソコンの画面を睨み続け、時おり上司に睨まれ続けている。猫背の体勢で目を酷使して、おまけにストレートネック。これでも日本に生まれて良かったと言えますか?


 どうしても我慢できなくなった時は、飲みかけのコーヒーの缶を首の後ろに当てて、ぎゅーっと押し込む。ペコペコペコ…と、首の骨の形に合わせて缶が凹む。こうしていると若干、首の痛みが和らいだ気がして何度も繰り返してしまう。結果、ボコボコに変形したコーヒー缶がいくつも量産される。もはやこれで時給貰ってるようなもんだ。実際はプログラマの方が副業と言える。


 ストレートネックといえど俺の実感としては、首をレントゲンで撮影したら恐らくひらがなの「す」の字を天地さかさまにしたような形になってる気がしてくる。明らかに骨がぐるっと一回転している。社会へ雑に放り込まれたので中で絡まってしまったらしい。


 最近は忙しくて特にきついので、駅ビルのハンズで「ネックマッサージャー」というものを購入した。ガンホーのロゴみたいな形状をしており、首に巻きつけるように装着する。スイッチを入れると、中のもみ玉がぐわんぐわんと動いて首や肩のコリをほぐしてくれる。


 値段、8800円。


 帰宅後さっそく試してみたが、これがなかなか心地いい。その揉み心地と言ったらまるで、天使が空の上から俺の首に向けて丸めたティッシュを落としてくれるような充実感だし、何より一番素晴らしいのは硬いクッションで首が固定されているだけでも非常に楽ということだ。


 値段、8800円。


 というわけで以降は枕の代わりとしてベッドに備え付けている。ちなみにこのネックマッサージャー、表面に英文が描かれている。売り場には無地のものとそれと2種類の商品があったが、無地は色がベージュのためチキンクリスプと間違える可能性を考慮し断念せざるを得なかった。俺が購入したマッサージャーに書かれているのはこんな文章だ。




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 Don't think. Feel


 かつては900点以上の点数を叩き出した人も存在するというTOEICを受験したこともある俺だ、こんな英文の意を読み取ることなど造作もない。赤子を捻るようなものだ、の手を。


 Don't think. Feel




 ………………。スノーウィ。


 ダメだ。タンタンが飼っている犬の名前しか思い出せなかった。読めないのは決して俺の英語力が粗末だからでは断じてない。be動詞がないからだ。そんな文章がこの世にあっていいはずがない。仕方なくGoogleで調べると、「考えるな、感じろ」という訳が出た。インターネットには嘘の情報も多いので鵜呑みにしてはいけないが、概ねこれであっているのだろう。なるほど確かに含蓄のある素晴らしい一言だが、問題は装着している最中にこの至言を読むことは出来ないということだ。どうやっても視野が届かない。俺が馬なら話は別だが、馬は首が凝らないので机上の空論に過ぎない。


 ともかく、マッサージ機能がなくても首が固定されてりゃ満足ということに気づいたのでもう一個、そういったアイテムを求めることにした。後日、再度ハンズを訪れクッション売り場を物色した末にある一品を見つけた。首にぐるっと巻きつけるだけの小さなクッションだ。値段も安い。最初からこれにしていれば良かった。さっそく購入し、自宅で巻いてみたのだが。





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 間違えて赤ちゃんキリン用のやつを買ってしまった。




前に進む理由をくれ