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歩幅を合わせるつもりはない。

次の電車が来るまで30分弱あるので(とんでもない田舎であることがもうバレてしまった。一応県庁所在地なんすよ、これでも)ホームの待合室で腰を落ち着けていたら、突如自動ドアが開き白い制服に身を包んだ二人組の女子高生が転がり込んできた。


「ギャハハハハハ!!!!!涼しいーっ!!!」


入ってくるなり第一声がこれだ。でけー声で。俺の鼓膜を夏ポテトにする気か。声の大きい若者が近くにいて得したことなど一度もない。そもそも人間が生涯において大声を出して許されるタイミングなど産まれた時とプール前のシャワー以外にありえないので、この状況で無駄に高いデシベルをひり出しているこいつらが碌でもないのは火を見るより明らかだ。点を結べばこいつらの未来がおのずと見えてくる。しょうもねえ男引っ掛けて、全ての動詞にさんずいが付くようなヌルヌルベトベトのきったねえセックスして、産まれた子供に「クソガキ」とプリントされた黒いTシャツ着せてスーパー銭湯の駐車場を闊歩するんだろ。いいかげんにしろよこのめちゃくちゃ排泄物が。増えるんなら三角フラスコの中で勝手に増えてろ。ちょっと言いすぎたかな?まあいいや、もう時効だろう。


顰めっ面を浮かべつつも、スマホでおにまいのファンアートを眺めてなんとか気を紛らわせていたのだが、しばらくすると視界の右端が妙にチラチラと揺れて鬱陶しい。飛蚊症にしてはやけに動きが激しいし、なによりギャハギャハという不快きわまりない音を伴っている。一般的に飛蚊症はサイレントなのでおかしいな、と横目で様子を伺ってみれば、先ほどの女二人がベンチの上に立てかけたスマホの前で音楽に合わせ両手をしきりに振り回したり顔を傾けたりしている。涼しすぎて気が狂ったのかと思ったが違うようだ。というか昨今の若者事情に明るくない俺でも流石にわかる。こいつら駅の待合室でTikTokの撮影してやがる。信じられない。他人のいる公共スペースでこんなことやる神経がわからない。つまり俺がいくら困ろうとどうでもいいということだ。本当に悔しい。悔しさを噛み締めすぎて上の奥歯で下の奥歯をぶち割りそうになる。図らずも同胞を傷付けてしまう業をなぜ可愛い俺の歯に負わせにゃならんのだ。ぞんぶんに報いを受けて欲しい。貴様らがそうやって周囲に迷惑ふりまきながら撮影した動画を観て一体誰が喜ぶんだ?誰の明日への活力になるというんだ?投稿探し当ててコメント欄に「え?オチは?」って1兆回書き込んでやろうか?とか考えている間にもこいつらの熱狂はピークに達していた。6畳ほどの小さな待合室で汚らしい叫び声が四方に飛び散りガラスの壁を大きく揺らす。もう我慢の限界だ。かといってこの部屋を出る気もない。クーラーが効いていて涼しいし、腰掛けるためのベンチもあるからだ。まるで老人をいたわるためだけに用意されているようなスペース。若い連中に譲ってやるほど殊勝な人間ではないぞ俺は。ああ俺にふんだんに勇気があったらなあ。嗜めようにも向こうは二人で俺は一人だ。正面からぶつかったら負けるのは俺だ、数の暴力に拳の暴力は勝てない。どうやったらこの連中を黙らせることができるだろう。俺のスマホのカメラロールの「あん」フォルダに入ってるえっぐいヤツをこいつらの眼前に突きつけてやるのはどうか。TikTokとインスタと織姫アンチスレの巡回の日々では決して知り得ることのなかった世界を貴様らに教えてやりてェ、教えてやりてェな……。でもそれで困るのは俺の方なんだよな。実家暮らしだから。そもそも明らかな迷惑行為に対処するための手段が現状「勇気」か「祈り」の2つしかないのが間違っている。祈りは漢方と同じで効いてるか効いてないか良くわからないし。なあ、お母さん。俺は思うんだ、若さってのは確かに尊く素晴らしいものかもしれない、だがそれを有効活用できるのは全体の1%にも満たないんじゃないかって。この日記を読んでいる読者も10代の女子が多いのかな?みんなより少しお兄さんな俺からひとつアドバイスしてあげよう。自宅の居間で公文のプリントだけひたすら解いてろ。一つ正解するたびにチョコベビー1粒食ってろ。そもそもこういう連中は女子高生として庇護される立場にすっかり甘え、思い上がっているから他者の苦しみを理解できないのだ。今こそ我々30代男性が立ち上がる時だ。そして行動を起こそう。「女子高生を積極的に臭がる」という行動を。いいか、臭いのは我々ではない、貴様らの方だ!!!!!!臭い臭い臭い!!鼻が曲がる!!!!!!!!!






今年もまたオモコロ杯がやってくる。毎年入ってくる有望な新人ライターたちにメダルゲームのプッシャーのように押し出され端へ端へと追いやられている立場ではあるものの、一応俺もかつてのオモコロ杯出身ではある。と言っても斬新なアイデアや綿密な観察ではなく、単純に不断の努力によって賞を獲得したので次代に残せるようなアドバイスは特にない。がんばれと言ってやる。せめて努力のやり方だけでも指南してやろうかと思ったが、忘れてしまった。賞を取るために身に着けたものは、一度取ったら全て無に帰ると思いねえ。俺が獲った年のオモコロ杯はそれから紆余曲折あって、結果的に「田舎にどデカいイオンが進出して商店街の店がほとんど潰れた後に、イオン自体も撤退した」みたいなことになってしまった。




オモコロ繋がりで、書いた特集記事が今日出た。書いたからには、できれば全部読んで欲しいけど、少し読んで無理そうだと思ったらもう読まなくても良い。体が資本だ。俺がこれを書いて、そしてオモコロのサーバがぶっ壊れない限りはいつでもそこにあるという事実だけあればよい。とりあえず、やるべきことはやったので次からは何を為すかを考えねばならない。やりたいことはたくさんある。マイナンバーカードの受け取りとか。


前に進む理由をくれ