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愛されて育ったことを恥ずかしく思ってしまえと力を込めて

近頃は怒りに任せて文章を書きすぎたと反省している。おかげで怒りを伴わないフラットな文章の書き方を忘れてしまった。なにより読者から短気で狭量なやつだと思われたら嫌だ。そんなことはない、俺は普段から温厚で度量の大きい好人物であるからして、たとえ保母さんに「だらしのないお口は縛っちゃいましょうね」と言われながらチンチンの先っちょに赤いリボンを結われた程度では決してキレたりしないし、いたって安穏な笑みを浮かべられるだろう、ゆえにそういうことは全然やってもらって構わないし、寂しげなもう片方の手で蟻の塔渡りを強く(フォルテ)擦ってもらうと、なお一層にこやかになることうけあいだ。どうぞ。


先日の日記で一眼のカメラが欲しいと書いた。その気持ちには決してウソはなかったので、ライター友達(こそばゆい言い方!)の山下ラジ男からカメラを安く譲っていただいた時は本当に嬉しかった。カメラのこともだが、俺の駄文を読んでくれていたことも思いがけない幸運だった。全人類は俺に興味がないという前提で動いていて、事実それは確信に近づいていたのだけども、フフン、みんな優しいのだね。ありがとう。もうちょっと人類のこと信じたっていいのかもしれない。別で注文しておいたレンズもカメラ本体から数日遅れて到着し、早速軽く試し撮りの運びになったが、なにぶんこういった本格的なカメラを使うのは初めてで、説明書とにらめっこしながらしばらく格闘し、それでも俺ってば存外に天才らしく飲み込みが早く、小一時間程度もすればなんとかこなせるようになった。ストラップの取り付けを。帯の「Nicon」と書かれている方の面がいくらやっても表側にならないんだから仕方ない。こういう時いつも思うのだが、やっぱ大学出てればよかった。

その後、シャッターが切れるところまで動作を確認した。自室の本棚に無理矢理突っ込んであるWiiUパッドの他になにか写す価値あるものを撮ろうと探してみたが、実家のまわりは眺望の利く場所じゃなし、住宅街の真っ只中であるためにそんなとこでゴッツいカメラを構えるのは法律の一番気持ちいいところに触れてしまいそうな予感があったので、クーラーの効いた居間のフローリングで暇そうに転がっていた猫をとりあえず激写した。ビギナーズラックか、ちょうどアクビの瞬間を捉えることに成功。以下、猫の口内のネタバレ注意。



さて目を皿にして必死に探していた人にとっては悲しい報せだが、この猫には前歯以外の歯が存在しない。元野良で拾った頃にはもう腐りきっていたので、数年前に抜きありの病院で抜いてもらったのだ。おかげで口臭も治まったし体調も崩しにくくなってこちらとしては助かったが、本猫が果たしてどう思っているかは分からない。大いなる意思によって歯をなくす悲しみは経験してみないと理解は不可能だろう。写真としてはやはり一眼の本領が発揮されているのか、迫力のあるグッドな一枚が撮れたのではなかろうか。出来ることならみんなにも教えてあげたい。




オモコロの特集記事を一本出し終えて、解放感とともに訪れた喪失感を埋めるべく、Amazonを開いては片っ端から散財して、物に囲まれた暮らしは賑やかで毎日が驚きと変化の連続だが、お金はまあ減る。貯金額とライフポイントは直結してるゆえ、なかなか不安は募り、これまで独身、そして次の100年も独身であることは論を俟たないので、生活が立ち行かないなんてことは全く無いのだが、常にある一定の金額が口座にキープされていないとソワソワしてしまう。いいよなお前らは、コメダのコーヒーは不味いだとか、TENGAは大して気持ちよくないだとか、そういうことを言ってれば勝手にお金が入ってくるんだから。うらやましいよ。



話題の「君たちはどう生きるか」を公開日翌日の土曜日に観に行った。券売機でチケットを購入しようとしたら画面に2100円と表示され、まあまあ驚愕した。高い高いと文句言いつつも映画なんてハレの日に気まぐれに楽しむものだから千数百円程度なら何のためらいもなく出せていたけれど、ははあ、もう2000円を超えるようになったのか。独身かつ社会人だからなんとかアバラ数本で済んだけども厳しい時代になったものだ。令和生まれで良かった。これまでの人生においてジブリ映画をあまり通ってこなかった。風立ちぬはどうやら琴線に触れるものがあったらしく唯一劇場で2回観たが、それ以外は猫の恩返しと火垂るの墓を地上波で、千と千尋とかぐや姫を劇場で1回ずつ見た程度だ。ウソ。風立ちぬを2回見た本当の理由は、複数回視聴し台詞を暗記してしまうほど熱中する映画を、男たるものひとつは持っておきたいという周期だったからに他ならない。好きな映画であることは間違いないが。今作は宮崎駿監督作品の集大成でありかつ引退作という噂も聞いていたので、もし歴代ジブリキャラが横一列に並んで「木村拓哉勝負だ!」とか言い出す内容だったらどうしようと憂慮していたが実際そんなことはなく安堵した。それで観た感想だが、そんなものはない。勿論ないことはないのだが、教えてやらない。あえて言うならば、絵が綺麗で音が大きくて面白かった。他意はない。でかい画面の中ででかい絵が動いてでかい音が鳴ればもう映画としては大満足なのだ。これまで観てきた映画に対して、ストーリー運びや演技や演出に多少思うところはあっても、退屈だとか金をドブに捨てたとかそういう不満を抱いたことはない。バカ舌という言葉があるが、いうなれば俺はバカ脳だ。つまりただのバカだ。

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