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クラッシュ・シンドローム

令和6年能登半島地震に関する北国新聞のニュースでは、崩壊した家屋から救出後に亡くなった方について書かれている。

たちまち2階が崩落、太い桁に脚を押さえつけられ、稲垣さんは生き埋めになった。
(中略)
 「上半身は動いてて、話もしとったんです」と中橋さんが振り返る。励ましの言葉をかけながら、救出作業を進めたが、余震でたびたび中断を余儀なくされた。
(中略)
 最後はチェーンソーで木材を切り、1時間がかりで稲垣さんの体を引っ張り出した。「助かった」。一同、安心したのもつかの間、しばらくして稲垣さんは、担架代わりのふとんの上で息を引き取った。

出動準備中の消防団員下敷きに 「地域の誇り」住民沈痛 輪島 北國新聞1/14(日)18:43

これは、クラッシュシンドロームではないかと思ったが、実際にどのように対処すべきなのか、文献を見てみた。

クラッシュシンドロームの概要

阪神淡路大震災で370名以上の報告がなされ「クラッシュ・シンドローム」という言葉が知れ渡るようになった.長時間重量物に挟まれていた後に救助された傷病者が,数時間経て腎不全や急性循環障害(ショック)を生じて死亡する病態である.そのため,地震や戦争といった特殊な状況下での報告がほとんどであり,長く臨床医家には馴染みの薄いものだった.しかし地震災害では3~20%発生1)しうることや高層の建物では生存救助者の40%に本症が発生することが報告2)されている.災害といえば地震が代名詞である我が国の実状を考えると,この病態を知らないでは済まされない.

災害時の圧挫症候群と環境性体温異常

要するに、体が圧迫され逃げられない状態から助けたと思ってもその後容体が急変し、死亡してしまうなくなってしまうということである。

対処方法

医療的には、救出後にいち早く血液透析が必要ということになる。

被災地では物資および透析に不可欠な水の供給が滞ることは必発である。クラッシュシンドロームにおける急 性腎不全の血液透析には当然、大量の透析液と物資および医療スタッフが必要であるため、被災地近隣の透析が可能な施設はクラッシュシンドロームによる急性腎不全患者のために確保されるべきである。そのためには被災地周囲の透析可能な病院での維持透析患者は極力、さらに遠方の透析施設に移動させる必要がある。

特集 クラッシュシンドロームとその対策, 血圧 vol.18 no.8 2011 33(739)

ただし、震災時という状況を考えると、医療的なリソース(透析施設、エネルギー、水)が足りなくなるため、以下のような観点が必要と書かれている。

  1. 被災地周辺の患者はより遠方の透析施設に移動させ、急性腎不全患者のためにリソースを空ける

  2. クラッシュシンドロームの急性腎不全患者を被災地周辺の透析施設に移動させる

現場でできること

ヤマハ発動機の防災ウェブマガジンに以下のような記載がある。

1. 早急にレスキュー隊と救急隊を呼ぶ。
2. 倒壊物や体を動かさず挟まっている状態のまま、飲める範囲で大量(1ℓ以上)の水を飲ませ、血中毒素の濃度をさげる。
(*救助がなかなか来ない場合は、)挟まれた部位より心臓に近い、腕や足の付け根を幅3㎝以上の布で縛る。始めた時間を布や体にメモし、30分に一度は4~5分間布を緩め、血流を補う。
3. 救助後、直ちに血液透析ができる災害拠点病院などへ搬送する。

ライダーと防災の可能性を探るウェブマガジン FIST-AID

まとめ

いつ崩れるかわからない状態で、発災時に人員が足りていないレスキュー隊を待つというのはなかなか難しい気もする。

住民の知識レベルにも依存する。クラッシュシンドロームを理解できているか、その場の合意形成では救出優先になるかもしれない。そうなると、死亡するリスクも高まってしまう。

どうすれば正解なのか答えがない難しいケースではあるものの、耐震化率が低い地域もあるなかではクラッシュシンドロームに遭遇する可能性は依然として高いため、具体的な対応ガイドラインと防災訓練が必要だと感じている。

参考

実際の症状などカラー写真入りで紹介

https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/050100/d00210677_d/fil/kougi11_1.pdf

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